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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第二章 イーサ町

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82 巨大スライムのお菓子の入刀式

「思わぬ所で掘り出し物があって良かったな」

「ふふ、とっても可愛いわ。この子」 


 満足な買い物ができた様子のセーラは、嬉しそうにスライムの杖を抱き抱えながら歩いている。

 値段の大部分は杖だと思うが、セーラにとってはぬいぐるみが本体なんじゃないかと思う。

 そして堂々と抱き抱えているのは、魔法使いは杖を持っていて当然という、開き直った考えの元に行動していると思われる。

 結構注目を浴びているように思うが、本人は気が付いていないようなので、黙っておくのが優しさではないだろうか。


「昼食は確保できたが、座る場所はなさそうだな」


 広場の中央にある噴水の周りには、テーブルと椅子がいくつも置かれているが空いている場所はなく、噴水の縁に腰かけている人達や立って食べている人達も大勢いる。


「一度、宿屋に戻ったほうがゆっくり食べられそうですね」

「そうね、バルコニーからも巨大スライムのお菓子を見てみたいわ」

「それじゃ、部屋で食事をしようか」


 宿屋に戻った俺達は、バルコニーにテーブルと椅子を出してお祭りを眺めながら昼食を取ることにした。

 店主がお勧めだと言っていただけあり、巨大スライムのお菓子が良く見える位置だ。


 改めてお菓子を見てみると、いつの間にかスライムの目を模した飾りが付けられている。


「会場で人の隙間から見るより、ここから見たほうが良かったかもな」

「そうですね、入刀式とやらも混みそうでしすし、ここから見学しましょうか」

「そうだな。お菓子もあれだけの大きさなら、急いで並ばなくても売切れたりしないだろう」


 セーラもそれでいいか聞こうと思い視線を向けると、彼女はスライムの杖で何かをしていた。


「何をしているんだ?セーラ」

「ふふ、ここから見るとぬいぐるみと巨大スライムのお菓子が同じ大きさなの」


 セーラは嬉しそうに、ぬいぐるみと巨大スライムのお菓子を並べて見せてくれた。どうやらトリックアートのようにして遊んでいたようだ。


 ――お茶目過ぎませんか?セーラさん。


「本当だな。並んでいるように見えるよ」

「ふふ、可愛いでしょ」

「うん、めちゃくちゃ可愛いよ(セーラが)。カメラがあれば是非とも(セーラを)撮っておきたかったな」

「アナログカメラはハウジングアイテムであるけれど、フィルムがないのよね。残念だわ」


 ハウジングアイテムも万能なようで、そうでもないんだよな。


 デジカメなら保存は出来ただろうし、ポラロイドカメラならシャッターを押せば写真が出て来そうだが、あいにくハウジングアイテムのカメラは、フィルムを現像するタイプのようだ。




 ゆっくり食事をしながら休憩をしていると、中央広場がざわつき始めた。どうやら動きがあったようだ。


「おや、何か出てきましたよ」

「あれで切るのかしら?」

「ああいうのも入刀って言うのか?」


 二つの(やぐら)の間に取り付けられているのは、巨大な糸ノコギリのような物だ。

 それが、巨大スライムのお菓子の真上に設置されると、拡声器のスイッチが入る音がした。


『皆様、長らくお待たせいたしました!これより、巨大スライムのお菓子の入刀式を始めたいと思います!』


 アナウンスが流れると、ここからでも会場にいる気分になれるほどの大歓声が沸き起こった。

 周りには既に、お菓子を買う長蛇の列も出来上がっている。


 櫓に男たちが登ってくると、ロープで吊り下げられている糸ノコギリのような物が左右に揺れ始めた。

 糸ノコギリの両端には重りのような物がぶら下げられていて、どうやら左右に揺らしながらその重みで切るようだ。


 左右に揺らしながらロープで少しづつ下ろしていくのは、なかなか技術のいる作業だと思う。

 あの櫓で作業している人達は、スライムのお菓子作りに欠かせない熟練の職人たちなのかもしれない。


 お菓子を完成させる時は掛け声があちこちから上がっていたが、今は誰もが固唾を呑んで作業を見守っているといった様子だ。


 細心の注意が払われながら作業は進み、糸ノコギリが床に着地すると巨大スライムのお菓子は、パカッっと左右に開いた。


 今日、一番の大喝采が巻き起こる。


「おお!無事に二つに割れたぞ!」

「何だか、妙に緊張しましたね!」

「途中で崩れませんようにと、思わず祈ってしまったわ」


 セーラを見ると、彼女はその言葉通りお祈りをするように両手を組み合わせていた。可愛い。


『今年も無事、入刀式が成功いたしました!これより切り分けて巨大スライムのお菓子の販売を開始いたしますので、もう少々おまちください!』


 何人もの人たちが大きなノコギリのような物を持ってお菓子の周りに集まると、切り分け作業が始まった。


『器は三十センチ以上の物をご用意ください。器がない方には木の器を販売しております。数に限りがありますのでご了承ください』


「こういう世界だと食フェスも食器持参なんだな。セーラ、良さそうな食器はあるかな?」

「あると思うわ。つるつる滑りそうだし、深さがあったほうが良いわよね」

「そうですね。すぐにポーチへ収納するにしても、混雑していますから安全なほうが良いですね」


 セーラが探し出してくれた皿を片手に、俺達はお菓子を求めに宿屋を出た。

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