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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第二章 イーサ町

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81 スライムのおもちゃ

「何をしていたんだ?」


 顔がにやけないよう細心の注意を払いながら声を掛けると、セーラは巨大スライムのお菓子を指さした。


「今、冷やす作業をしているみたいなの」

「冷やす作業?」


 俺もそちらに視線を移すと、お菓子を囲むように魔法使いの装備を着た人たちが数人、お菓子に向けて杖を突き出していた。


「もしかして、魔法で冷やしているのか?」

「そうみたい。見たことがない魔法だけれど、ずっと冷気を当てていられるみたいよ」

「そんなのがあるのか。確かにゲームには無かった魔法だな」


 ゲーム内で使う魔法は基本的にモンスターを倒す為のものだったが、現実にはこうして生活に役立ちそうな魔法もあるようだ。


 それにしても、装備がEランクの物だし威力は弱そうだ。

 寒天はそこまで温度を低くしなくても固まるが、この暑さであの威力だ。二時間かかるのも納得できる。


「昼食を調達しつつ、また露店でも回ろうか」


 露店の多くは食べ物屋だが、子供向けのおもちゃや雑貨を売っている店もある。

 ぶらぶらと歩いていると、おもちゃの露店の前でレオくんの両親リオさんとララさんに出会った。


「リオさんララさんこんにちは、レオくんへのお土産ですか?」

「あ、こんにちは皆様!そうなんです、どの色にしようか迷っていて」


 リオさんは、二つのおもちゃを手に持ち悩んでいるようだ。

 そのおもちゃは、棒の先端にゴムが付いていてゴムの先には布で作られたスライムの人形がぶら下がっていた。

 要は、スライムのヨーヨーみたいな物だ。


「うーん、スライムの王道と言えば水色だろうか……」

「ですね、古式ゆかしき冒険者も水色のスライムを倒してレベルをあげたものです」

「お!洋介もあのゲームやっていたのか?スライム八匹で王様になる系の」

「残念ながら知識としてはあるのですが、実際にプレイしたことは無いんです。なにせ僕が子供の頃は家にテレビが無かったもので……」

「おおぅ……、さすがはスローライフが趣味の家だな」


 リオさんに視線を戻すと、彼はスライムヨーヨーを握りしめて首を傾げていた。

 まずい、完全に意味不明であろう会話を繰り広げてしまった。


「あ……話が脱線してしまいました、すみません。俺は水色がいいんじゃないかなと思います。今年のお菓子と同じ色でもありますし」

「そうですね!そのほうが思い出にも残りそうです!それじゃ水色にしようか?ララ」

「えぇ、そうしましょう。ありがとうございます、カイト様。この人ったらずっとここで悩んでいたのよ」

「いやぁ、レオにおもちゃを買ってやるのは初めてだから、緊張しちゃって」


 そう言って照れ笑いするリオさん。

 さり気なく値段を確認すると、一つ二千リルだ。これでは気軽に買ってやれない値段だ。

 一つ一つ丁寧に作られているようだし、お祭り価格と思えば値段としては妥当なところだろう。


「これも皆様のおかげです。安定した収入が見込めなければ、おもちゃは買ってやれませんので」


 ララさんはお金を支払いスライムヨーヨーを受け取ると、大切そうに木の皮で編んだカバンに入れた。


 皆が安定した生活を送る為に、村で仕事が出来るようしっかりと整えなければ。


「村に帰ったら、皆でがんばりましょう!」

「えぇ、よろしくお願いいたします。」

「精一杯働かせていただきます!」


 二人は深々と頭をさげてから、この場を去って行った。


「さて、俺達も……」


 行こうか。と言おうとしながら振り返ると、セーラは宝石でも見ているかのようなキラキラした瞳で、スライムヨーヨーを見ていた。


「……セーラも欲しいのか?」

「え!?……あの、私が買っても恥ずかしくないかしら……」


 スライムヨーヨーしか目に入っていなかったのか、驚いたように振り向いたセーラは恥ずかしそうに頬を染めた。

 セーラは、こういう物が好きなんだよな。


「いいんじゃないか。俺も記念に一つ買おうかな」

「それでは僕も記念に買うとしましょう」


 俺と洋介が一つずつ手に取ると、セーラも安心した様子で、一つ、二つ、三つと……。


 ――あ、うん。分かってたよ。コレクターだから全種類欲しいんだよな。


 これはレオくん両親には見せられない光景だなと思いながら苦笑していると、ふと店主の後ろにある物が目に留まった。


「その大きな物は飾りですか?」

「いや、これも売り物ですぜ!面白いかなと思って三年前に作ったんですけど、一向に売れる気配なしですわ!ハハハ!」


 豪快に笑った店主の後ろに飾られていたのは、巨大なスライムヨーヨーだった。

 よく見れば小さな紙に『スライムの杖 五万リル』と書いてあった。全く売る気のなさそうな紙と値段だ。


「それ、魔法使いの杖として機能するのですか?」


 まず最初に思うであろう疑問を、洋介が口に出した。


「杖の部分はちゃんと職人に作ってもらったんで大丈夫ですぜ!」


 魔法使いの杖に、飾りとしてクッションサイズのスライムのぬいぐるみをぶら下げた物のようだ。


「へぇ、姉上のコレクションに――」


 洋介が言い終わる前に、セーラは全種類集めたであろうスライムヨーヨーの束を、店主に突き出しながら微笑んだ。


「杖も買わせていただきます、おじ様」

「まっ……まいどあり!!!」

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