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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第二章 イーサ町

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79 気が早すぎるカイト

「いやぁ、とても良いセレモニーでしたよ」

「何だよ、セレモニーって……。お菓子作りイベントだろ?」

「ふふ、楽しかったわよ。洋介もいってらっしゃい」

「はい!僕の雄姿をとくとご覧ください、姉上!」

「具材を投げ込むだけだけどな」


 何故か気合が入っている洋介が階段を登り始めると、周りの女性たちから歓声が沸き起こった。


「キャー!あの人かっこいいわ!」「素敵~!こっち向いて~!」「お名前教えてくださーい!」


 歓声に答えるように洋介が手を振ると、会場は黄色い悲鳴で埋め尽くされる。


「なん……だと?」

「どうしたの?カイト」

「え?あ……、洋介人気だなーと思ってさ」


 俺達は転生したあの日、イケメンに生まれ変わったとお互いに喜び合った。

 だが、どうだろう。実際にイケメンぶりを発揮しているのは洋介だけで、俺はこの世界へ来てから一度もあのような待遇を受けた事がない。

 同じくイケメンに生まれ変わったはずなのに、俺だけ置いてけぼりを食らった気分だ。


「ふふ、洋介は女の子が好きそうな容姿をしているもの」

「そうか……洋介は俺と違って柔らかい雰囲気だしな。中二はこの世界でも好まれないようだ……」


 所詮こんなものだよな。俺はどこへ行っても勝ち組にはなれないようだ。

 がっくり肩を落とすと、セーラが隣でぽつりと呟いた。


「私は、かっこいいと思うけれど……。私だけでは力不足かしら……」


 まるで捨てられた子猫のような表情になってしまったセーラ。


 ――俺はなんて、バカな考えに囚われていたんだ!


 前世がモブ人生だったので、モテるという現象に憧れを持ってしまっていたが、俺にはセーラがいるんだ。

 全世界の女性に好かれたとしても、セーラに嫌われたら意味がないじゃないか!


「ごめん!セーラを悲しませるつもりで言ったんじゃないんだ!俺、日本では一度もモテた事がなかったからつい――」

「え?そんなことないわ。私は日本にいた時からずっと……」


 彼女はそう言いかけると、顔が見る見るうちに赤くなった。


「あの……、この話は村に帰ってからにしましょ」

「あ……あぁ、そうだな。今はお祭りに専念しよう」


 日本にいた時からずっと?

 セーラはいつから俺を好きでいてくれたんだろう。めちゃくちゃ気になる……。


 だが、今はお祭りを楽しまなければ。っと思っていると、洋介が戻ってきた。


「なかなか良い景色でした!おや、お二人ともどうしたんです?いちゃつくのも結構ですが、僕の雄姿も見てくれていましたか?」


 ――すまん、洋介。投げ込む場面は完全に見過ごしてしまった……。


「物凄い人気だったな、洋介」

「そうなんですよ!僕はこの世界でかなりのイケメンらしくて、昨日も一人で歩いていたら大勢の女性に声を掛けられてしまいましたよ。手紙を書いてくれないかと住所まで押し付けられてしまいました」


 洋介がおもむろにポーチから取り出した紙の束は、全て女性から貰った住所のようだ。


「電話の無い世界だと、連絡方法が古風だな」

「洋介は連絡を取りたい子はいたのかしら?」

「僕はまだまだ姉上に甘えたい年頃なので、この紙は必要なさそうです」

「まぁ。洋介ったら、まだ甘え足りないの?」

「おかげさまで若返ったので後、十数年はいけるかなぁと」


 こいつ、前世の年齢までは甘え倒すつもりだな。

 セーラが前に、洋介は結婚願望がないような事を言っていたが、これは確実にセーラの影響だろうな。

 こんなに優しくて可愛い姉がいたら、俺だって一生甘えたい。


 まぁ俺としては、セーラの隣に洋介がいるのは当たり前のような光景なので、別にずっと俺達と暮らしていても構わないが。


 ――って俺は今、何目線で考えていたんだ?


 告白前だというのに、頭の中ではどんどん話が先に進んでしまっている!

 これは非常にまずい、俺とセーラはまだ付き合っていないんだぞ。

 結婚後の事なんて早すぎるだろう、俺!




 巨大スライムのお菓子が完成するまで、俺達は露店を回ったりして時間を潰すことに。

 ナッシュさんの露店にはなんと、かき氷が売っていた。


「氷はどこから仕入れてきたんですか?」

「これは店主が冬の間に氷を作って、マジックポーチに保管しておいたんです!さすがにずっとは同じ状態を保てないので、だいぶ氷も小さくなったようですが」


 村長夫人も生のスライムの皮はポーチに入れて数ヶ月ほど持つと言っていたし、氷も徐々には溶けてしまうようだ。

 ゲーム内アイテムは劣化知らずだが、現実の物はいくらポーチに入れておいても永遠には保存できないらしい。


 久しぶりに冷たい食べ物を堪能していると、お菓子作り会場から歓声が沸き起こった。


「何か動きがあったようですね?」

「お菓子が完成したのかしら?」

「せっかく参加したんだし、見に行ってみようか」


 俺達はかき氷片手に、巨大スライムのお菓子が見える辺りまで移動した。

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