07 村長の家
村長の家のドアをノックして少し待つと、ドアを開けてくれたのは白髪交じりの男性だった。
権力者と言うよりは、人の好さで周りから押し上げられて村長になったのだろうと思わせる彼は、俺達に目をとめると柔らかく微笑んだ。
「おや、どなたですかな?」
「夜分遅くに申し訳ありません、俺達は旅の者です。こちらの村で一晩泊めてもらおうと思ったのですが宿屋が閉まっているようで……、今日は定休日なのでしょうか?」
「冒険者の方々ですね、お疲れでしょうどうぞお入りください」
どうやら村長は、俺達を歓迎してくれるようだ。
歩いて疲れたしこの村について何か聞けるかもしれないので、有り難く中へ入らせてもらうことにした。
応接室へ通されると村長の奥さんと思われるご婦人がお茶を出してくれた。
初めて入った家なのに間取りを知っているのが不思議な気分だと思いながら、ソファに三人並んで座りお茶をいただく。
この世界へ来て初めての飲み物だ。
お茶の暖かさにほっと息を付くと、向かいに座っている村長が口を開いた。
「私はエミジャ村の村長、リチャードと申します。このような辺鄙な村へよくお越しくださいました」
「俺は槍使いのカイトと申します。こちらは仲間で、弓使いの洋介と神聖魔法使いのセーラです。突然の訪問にも関わらず、迎え入れてくださりありがとうございます」
村長は俺達を冒険者と認識しているようだから職業も述べてみたが、真面目にゲーム内の職業を述べている自分が可笑しく思える。
「いえいえ。東の大河に王都までの航路が出来てからは、この村を訪れる者もめっきり減ってしまいましてね。宿屋も廃業したため、冒険者の方々には我が家へお泊り頂いているのですよ」
確かに航路が実装された後、陸路を行くことは無くなったなと納得する。
森にも人影が無かったのは、そのためだったのかもしれない。
「そうでしたか。よろしければ俺達も泊めていただけないでしょうか、勿論宿代はお支払いしたします。この辺りを探索したいと思っているので数日、泊めていただけるとありがたいのですが」
探索する予定は特に無いが、まだこれからの行き先も決まっていないので、とりあえず宿だけは確保しておきたい。
「勿論かまいませんよ。大したおもてなしも出来ませんので宿代は無料と言いたいところなのですが、食事代だけは頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい、そちらの不利益にならない額はお支払いしたいと思います」
「ありがとうございます。ではお部屋にご案内いたします。大部屋と個室がありますが、いかがいたしましょう?」
「そうですね……」
セーラもいるし個室がいいだろうかと考えていると、セーラが俺の袖を引っ張った。
「どうした?セーラ」
「私、大部屋がいいわ。一人では心細いし……」
「セーラがいいならそれでもかまわないが、洋介は?」
「僕は寝られるのならば、どこでもかまいませんよ」
「わかった。では三人部屋でお願いします」
「かしこまりました」
村長に案内されて二階へ上がるとドアが四つ見えるが、間取りは覚えているので思った通り奥の部屋へと通される。
それにしてもセーラは男二人と同じ部屋でも気にしないタイプなんだろうか。
それとも俺達、男として数に入っていないのか?なんて思いながらベッドへ腰かけたが、隣を見るとどうやらそうでもなかったようで。
「……えーっと、セーラさんそれは?」
「ここからは入って来ないでね」
「はい、分かりました……」
「了解であります!」
俺とセーラがそれぞれ寝る予定であるベッドの間には、ハウジングアイテムのクローゼットが、でん!でん!でん!と三つ、城壁の如く立ちはだかっていた。
隔てたいのならパーテーションで良かったんじゃないのかと思うのは俺だけか?
クローゼットの厚みが、何故かとても悲しい。
村長は突然押しかけた俺達に、食事と風呂も提供してくれた。
この世界の食事は普通に地球の食べ物と同じ美味しさだった。
食べ物が合わないと健康にも影響するし、その辺は心配ないようでほっと安心した。
風呂に入らせてもらい部屋に戻る頃には、三人ともそれなりに疲れていたようで、話し合いの続きをすることも無くその日はぐっすり眠ってしまった。
そして翌日。
朝食をいただいた後、俺達は昨日の東屋を再び訪れていた。
人けのないここは、秘密の話をするにはもってこいの場所だ。
「今日は、スキルの確認をしてみないか」
「いいですね、僕達が今どの程度の強さなのかとても気になります」
洋介の矢については村長に相談したところ、余っている物を譲ってもらえた。
「私達がEランクだったとしても、この辺りのモンスターならさほど苦労はしないのではないかしら」
「そうだな、昨日のスライムは通常攻撃で倒せたし、この辺りで苦労することはないだろう。実験するにはちょうどいい」
「ところで、スキルはどうやって使うのでしょうね?今まではマウスやキーボード操作でしたが」
「言われてみればそうだな。その辺りも検証してみよう」
俺達はスライムのいる辺りまで移動することにしたが、森の奥へは緩やかな上り坂になっているので、スライムを発見するまでにはすっかり三人ともバテていた。
「はぁ……あれをまず魔法で倒してみないか?」
「はぁはぁ……それがいいと思います。魔法なら体力は使いませんし」
「わかったわ……はぁ、息を整えるまで少し……待ってね」
木の陰に隠れて息を整えると、作戦を考えた。
「まずは、セーラがスキル名を唱えて攻撃してくれ。一撃で倒せなかった場合やスキルが発動しなくてスライムが襲って来た時は、俺が槍で倒す。洋介は周囲を警戒していてくれ」
二人とも頷くと、セーラはウエストポーチから杖を取り出した。