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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第二章 イーサ町

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77 イーサ町のお祭り

 いよいよ今日はイーサ町のお祭りの日だ。


 朝食を食べ終えてからバルコニーへ出てみると、中央広場は既に大勢の人で賑わっていた。


「こんな朝から露店もやっているんだな」

「中央でも、既に何か準備を始めていますよ」

「あれは何かしら?中央に向かって行列が出来ているみたいだけれど……」

「並ばなければならないイベントでもあるのか?行ってみようか」


 人は行列を見ると気になってしまう生き物だ。俺の知り合いには、何の列か分からなくてもとりあえず並んでみる。なんて奴もいるほどだ。


 出かける準備を整えて宿屋を出た俺達三人は、行列が出来ていたほうへ向かった。


「巨大スライムのお菓子作りに参加したい方はこちらでーす!」


 案内の声と共に最後尾と書かれた看板が見えてきた。


「お菓子作りは参加型だったんだな。せっかくだし並んでみようか」

「えぇ、どんな事をするのか楽しみだわ」

「こういうイベント、ちょっとワクワクします」


 三人の意見が一致したところで列の最後尾に並んだ俺は、最後尾の看板を持っている子に手を差し出した。


「並ぶので持ちますよ」

「え?あの、私の仕事なんで大丈夫です……」

「あ……そっ、そうですね!仕事頑張ってください!」

「はい……」


 まずい、この手の失敗談はよくネットで見ていたのに、実際にやってしまうなんて条件反射とは恐ろしい……。


「カイト殿は、あの看板を持ちたかったんですか?」

「あの看板、女の子が持つには重そうだもの。カイトは優しいのよ」

「なるほど、流石はカイト殿です」

「はは……、ただ並んでいるのも暇だなぁって思っただけさ……」


 二人はこの習慣を知らないようだ。

 良かった、危うくオタバレするところだった……。

 俺がケモ耳さんカフェという作品をこよなく愛している事が知られれば、この場で切腹しなければならなかった。


 一応、誤解されないように言っておきたいが、ケモ耳さんカフェはお子様でも安心して楽しめる作品だ。

 ケモ耳さんが経営している森のカフェでの心温まるエピソードが人気で、そこの制服が何故かメイド服で可愛いんだ。

 メイド喫茶と間違われがちだが、断じて美味しくなるおまじないをかける系の店ではない。


 って俺は何で、心の中で弁解をしているんだ!


「カイト、暑いの?汗を掻いているわよ」

「え……?そっ、そうだな。今日も暑くなりそうだし、絶好のお祭り日和だな」

「そうね、今日は思い切り楽しみましょ。はい、ハンカチ使って」

「あ……悪いな、ありがとう」


 俺の彼女(予定)は、今日も優しいな。オタバレしなくて、本当に良かった……。


 そういえば、ケモ耳さんカフェの推しであるティファちゃんは、セーラがゲーム内で着ていたアバタと似ているんだよな。

 セーラがティファちゃんを知っているとは思えないが、俺とセーラは割と好みが似ているのではないかと思う。

 昨日の服も喜んでもらえたし、セーラが昨日揃えていた手芸の材料で作ってくれるであろう何かも、きっと俺は大喜びすることだろう。

 何を作ってくれるのか、今から楽しみ過ぎてそれだけで幸せだ。


「僕、お邪魔ですかね……」

「ん?いきなりどうした、洋介」

「カイト殿が幸せの絶頂みたいな顔をしていたので、何となく」

「そっ、そうか?せっかくのお祭りなんだから、三人で回ったほうが楽しいだろう?」

「そうよ、昨日も洋介は途中でいなくなってしまったもの。今日は一緒に回りましょ」

「まぁ、お二人が良いならいますけど。あ、列が動き出しましたよ」


 並んだ時から動いていなかった列がやっと動き出した。

 ぞろぞろと中央へ進んで行くとまた列が止ったが、中央で何をしているのかが見えるようになった。


「あれは果物か?」

「カイト見えるの?」

「あぁ、作業台の上に大量に積まれた果物を刻んでバケツに入れているようだ」

「巨大スライムの皮に入れる具材でしょうか」

「そうかもな。あ、それから大鍋から何かをすくってバケツに流し込んでいる」

「液体のお菓子なのかしら?」

「よく分からなくなってきましたね」


 また少し経って列が動き前へ進むと、今度は(やぐら)のようなものに動きが見えた。それはセーラも見えるようで。


「櫓から滑車のようなものが出てきたわ。何かしら?」

「皆でロープを引っ張っているな」

「あ!見てください!下から巨大スライムの皮が釣り上げられてきますよ!」


 周りの人々からも「おお!」と歓声が上がる。

 三か所の櫓から引き揚げられた巨大スライムの皮は、大きな巾着が開いたような状態になった。

 そこへ、移動式の階段のような物が運ばれてきた。


 階段が巨大スライムの皮の横に設置されると、バケツを持った人が一人で登ってきた。

 その人は階段のてっぺんまで登りつめると、拡声器のような物を口元に当てた。


「お集りの皆様、今年もようこそイーサ町のお祭りへお越しくださいました!一日という短い時間ではありますが、どうぞお祭りを楽しんでいってください!今年の夜の部は、皆様が今までに見たことが無い特別なものをお見せいたします!是非とも昼夜共にこの会場へ足をお運びください!では昼の部、巨大スライムのお菓子作りを開催いたします!」


 挨拶をした人が、バケツの中身を巨大スライムの中に投入すると、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。

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