76 ヒールの効き目
「カイト殿、楽しそうで何よりですが、本来の目的を忘れていませんか?」
洋介は日本酒でも飲んでいるかの如く、エールをちびちびと飲んでいる。
一応は真面目に俺の忠告を守っているようだ。
「いや……忘れてはいないが、なかなか杖が出てこなくて……」
「かいとぉ~、つぎあ、これよぉ~!」
「よし、次は当てるぞ!」
背中に洋介のジト目が突き刺さっている。気がする。
――仕方が無いだろう、意外と楽しいんだから!
セーラとこういう遊びは初めてだから、ついつい俺もはしゃいでしまった。
それに平和的に遊んでいるうちは、セーラも恥ずかしい事にはならないだろう。
そう思いながら、次のお題は何だろうとセーラがポーチから何かを取り出す様子を見つめた。
「それだ!」
取り出された杖をポーチに戻されないようセーラの手首をつかむと、彼女は首を傾げた。
「かいとぉ~、こたえはぁ?」
「キラキラ☆魔法少女ステッキだろ」
クイズでなければ口に出したくない恥ずかしい名前だが、不正解にならない為にも☆もしっかり口に出した。
「あたりぃ~!」
「よし!セーラ、正解したご褒美をくれないか?」
「ごほうびぃ?」
「セーラのヒールが見たいんだ。いいだろ?」
「いいわよぉ~」
にっこり微笑んだセーラは、杖を構えると「かいとは、ここもってぇ~」と、俺も杖を握らされた。
「……何で俺も握るんだ?」
「かいとも、まほうしょうじょになって、いっしょにじゅもんを、となえてねぇ~」
「はい???」
「いくわよぉ~」
「え、ちょっとまってくれ、セーラさん!?」
「せーのっ」
「「ヒール」」
――なんだこの、羞恥プレイ……。
全く意味が分からないが、酔っ払いに意味を求めるほうが無意味だろう。
とりあえず、俺の恥ずかしさを犠牲にしたおかげで、セーラは気分よくヒールをしてくれた。
俺とセーラの周りは、キラキラの光に包まれ気分がスッキリ。どうやら俺の酔いも醒めたようだ。
村人から歓声が上がると、酔いが醒めたらしいセーラはきょとんとした顔で俺を見つめた。
「……カイト、私は何をしていたのかしら?どうして杖を持っているの?」
「覚えていないのか?」
「えぇ……、乾杯の辺りまでは覚えているけれど……」
どうやら、昨日より飲み過ぎたおかげですっかり記憶が無くなってしまったようだ。しらふのセーラの為には、これで良かったのかもしれない。
だが、今後の為にこれだけは言っておこうと思う。
「セーラは俺のジョッキを、一気飲みしてしまったんだ。酒に弱い人が一気飲みするのは危険だ。今回は大事には至らなかったが、もうこんな飲み方は止めてくれよ」
「私、そんな事をしてしまったの?ごめんなさい、カイト!また迷惑をかけてしまったわ……」
「迷惑というよりは心配なんだ。セーラにはずっと健康でいてほしいからな」
「もう無茶な飲み方はしないと誓うわ。私もずっと健康な状態でカイトと一緒にいたいもの」
「ありがとう、セーラ」
これで、セーラが飲みすぎる事はもうなくなるだろうと、俺は信じる事にする。
「さて、酔いも醒めてしまったし、飲み直すか!セーラも飲むだろう?」
「え……、でも……」
戸惑っているセーラに、俺はポーチから日本酒用のおちょこを取り出して見せた。
「セーラはこれな」
俺のジョッキからおちょこにエールを移して渡すと、セーラは受け取りながらクスクスと笑い出した。
「これなら、私でも安心だわ」
「だろ?」
乾杯をし直すと、俺がジョッキを飲み干そうとしている横で、セーラはちびちびと飲み始めた。
「ぷはぁ!やっぱエールは美味いな!」
「さすが、カイト様!今日も絶好調ですね!今、お代わりをお持ちしますね!」
「お願いします!」
満足しながらジョッキをテーブルに置くと、セーラが頬を膨らませながら俺を覗き込んできた。
「カイトも、健康には気を付けてね」
「あ……、そうだな。飲み過ぎないように気を付けるよ」
一気飲みは体に悪いと説教をした相手の前で、一気飲みをしてしまった。
俺はかなり酒には強いほうだが、セーラが心配してくれるなら一気飲みは卒業しようかなと思う。
俺だって健康な体で、セーラといつまでも一緒にいたい。




