72 照明器具と新規アイテム
南ゲートへ向かって歩いていくと、ご婦人が言った通りその店はあった。
中に入ると、ここは照明器具専門店のようで、色々な形の照明器具が展示してあった。
壁に掛けるタイプ、天井からぶら下げるタイプ、スタンド型の物や、スズラン型の街灯まで展示してある。
街灯は欲しいと思っていたので購入決定だ。
今の村はとても寂し気だから、せめて灯りで幻想的な雰囲気でも出したほうが気分的にも良いと思うし、なによりこれがあったほうが異世界っぽい。
街灯をじっくり見ていると、店主らしき男性がやって来た。高級品を扱う店なだけあり、紳士と呼ぶのが相応しい風貌だ。
「ようこそ、当店へ。本日はどのような物をお探しでしょうか」
「室内照明と街灯を購入したいのですが、この街灯も魔力で動くタイプですか?」
「さようでございます。こちらは最新型でして、一定の暗さになると自動で灯りがつくようになっております」
セーラのハウジングアイテムも夜になれば自動で点灯していたが、ここに展示してあるのも同じ仕組みのようだ。
「これを三十基ほど欲しいのですが、在庫はありますか?」
「はい、ご用意しております。ただいま、準備させていただきます」
紳士が若い店員に商品を持ってくるよう指示をしている間に、俺は室内照明がある一角へ移動した。
シンプルなものから、豪華なシャンデリアまで種類豊富に取り揃えているが、村の雰囲気に合わせるならシンプルなほうが良いだろう。
指示を出し終えた紳士が俺の元へやって来る。
「設置が簡単なのは壁掛け型ですが、明るさを優先するのでしたら天井からのぶら下げ型をお勧めいたします」
天井に設置するタイプは配線を這わせて壁にスイッチを付ける必要があるらしい。
そういえば屋敷の照明も壁にスイッチがあったが、あれはどうなっているんだろう。
セーラは配線については何も話していなかったが、ゲーム内アイテムだから照明を設置と同時にスイッチが出現って可能性が高いな……。
セーラはその怪奇現象については、気が付いていないかもしれない。
臆病な彼女が驚かないよう黙っておくことにしよう。
説明を聞く限りでは、電気の配線と違って線を這わせるだけの簡単なもののようだ。それなら俺達でも設置できそうだ。
「それじゃ、天井に設置するタイプを……五十台ください」
「承知いたしました」
そんなにあるのかと思ったらあるらしい。雑貨屋の婦人も自慢していたし、この町では魔力で動く照明に取り換えるのが流行りなのかもしれない。
ちなみに室内照明は一台が十万リル、街灯は一基当たり百万リルだった。日本の相場で考えると高く思えるが、魔力で動くものはそれだけ貴重ということなのだろう。
村人に頼まれた物はこれで全て揃った。
後はお土産でも買おうかと思いながら、店を出て適当に歩いていると、服屋が見えてきた。
ショーウインドーに飾られているフリフリしたワンピースが目に入る。
――これは、セーラが好きそうなやつだ。
俺は、引き込まれるようにその店へと入った。
店内はセーラが好きそうな可愛らしい洋服で溢れていた。
だが、どれも見たことがある服ばかりだ。ゲーム内アイテムだった服や課金アイテムだった服だ。
セーラはアイテムコレクターだったから、ほぼ持っているはず。
見たことが無いのはショーウインドーに飾られていた服だけかと思いながらも、店内をくまなく見て回ると、新作コーナーという一角を発見した。
「おお!ここは、セーラが持っていない服ばかりじゃないか!」
これは俺達が転生してから出た服なのかもしれない。
――新規アイテムは買うしかないだろう。
ゲーム内でも三人が欲しいアイテムは、露店で見つけた人が買っておくのが暗黙のルールみたくなっていたので、俺は迷わず店員を呼んだ。
「すみませーん、新作の服を全部ください!」
思わぬ所で良い買い物が出来た。
満足しながら俺は服屋を後にした。
それから途中のパン屋で昼食用のパンを買って、そろそろ二時間経つので宿屋へ戻った。
「おかえりなさい、カイト」
「ただいま、セーラ。少しは眠れたか?」
「えぇ、もう気分も落ち着いたわ。さっきは取り乱してしまってごめんなさい」
「体調が回復したなら良かった。昼食を買って来たから食べようか」
柔らかな笑みを浮かべているセーラは、先ほどよりもずっと体調が良くなっているように見える。
これなら寝込むことは無さそうなので、ほっと胸をなで下ろした。
昼食のパンは、お菓子屋でのセーラを真似て全種類を購入してみた。お金の心配がいらないのも良いが、マジックポーチがあればいくらでも保存できるのが便利すぎる。
商会の息子のように、このポーチ目的で冒険者登録している人は、かなりの人数いるんじゃないかと思う。
そのうち、セバスとエミリーにも持たせてやりたい。
照明器具を買った報告などをしながら食事を終え、お茶を飲みながら一息ついていると、セーラの顔がまた赤くなっているのに気が付いた。
「セーラ、また顔が赤くなってきたようだが――」
寝たほうがいいんじゃないか。と続けようとしたところで、セーラが突然、頭を下げた。
「ごめんなさい、カイト!」




