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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第二章 イーサ町

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69 甘い物

「昼と夜でお祭りの内容が違うのですか?」

「はい、昼は巨大スライムの皮でお菓子を作って振る舞うのですが、夜は巨大ボアの丸焼きを振る舞うお祭りなんです」


 巨大ボアとは、イノシシ型のモンスターが出るダンジョンにいるボスのことだ。


 巨大ボスを二つも見られるお祭りだったとは。

 一般人ならボスを見る機会はないだろうから、見物するには楽しいお祭りだったようだ。


「巨大ボアは入手できなかったのですか?」

「いつも頼んでいる村から、今年は無理だと早々に手紙が来たんです。私たちも諦めて今年は普通のボア肉を焼いて振る舞うことにしたのですが、中央に鎮座する巨大なものがないと、どうも盛り上がりに欠ける気がして……。来年から見物客が減らないか心配なんです」


 メインは食フェスのようだが、巨大ボス目的で来た人たちが多いなら、がっかりするだろうな。


 俺たちの馬車なら、今からボアが出るダンジョンへ行けなくもないが、そんなに早く狩って帰って来ては不自然すぎる。


「巨大ボスか……。俺たち、巨大スライムしか狩っていないからなぁ……皮ならまだありますけど……」


 っと言ったところで、セーラがくいくいと俺の袖をひっぱった。


「どうした?セーラ」

「洋介が凍らせた巨大スライムはどうかしら?」

「あぁ、なるほど。あれならしばらく放置しておいても簡単には溶けそうにないな」

「そんなものもありましたね。僕もすっかり忘れていました」

「本人が忘れるなよ」


 俺たちが話し合っていると、運営委員さんがおずおずと話に入ってきた。


「あの、なにか代わりになるものがあるんですか?」

「丸焼きにはできないので単なる飾りになってしまいますが、巨大スライムを凍らせたものがあるんです」

「そっ、そんなものが!ぜひ、お見せいただけませんか!」


 運営委員さんのリクエストに応えてポーチから取り出してみることにしたが、あの巨体でプールが壊れると困るので店の前の通りに移動してみた。幸い、今は人通りがない。


 ポーチから取り出した凍った状態の巨大スラムは、ドスンっと地面を揺らしながら石畳の上に着地した。

 石畳が無事か少し心配だ。


「なんと素晴らしい!」

「こんな状態、初めて見たぞ!」

「おっ俺、りっちゃん呼んでくる!」


 りっちゃんとは看板娘さんのことのようだ。呼ばれて出てきた彼女も、唖然とした表情で凍った巨大スライムを見上げ呟いた。


「美味しそうだわ……」


 セーラやエミリーと同じ感想だ。女子はスライムを見て甘い物を連想するのかもしれない。

 俺はこの赤い色を見ると辛い物を連想するので、同じく『美味そう』という感想にはなるが。


「昼と夜で似たようなものになってしまいますが、見せ物としては良いと思いませんか?」

「一般人は巨大スライム本体を見たことがないので、きっとウケますよ!それに、近くにいると冷気が漂っていてとても涼しい。夏の夜に相応しいと思います!」


 運営委員さんはとても気に入ったようなので、お祭り当日の夕方に現地へ届けると約束をした。


 店の中へ戻って巨大スライムの皮の代金を受け取り、せっかくなので作業を少し見せてもらった。


「この中にシロップが入ってるんだ!」


 店長がポンポンと叩いたのは、俺が購入したエールの樽と同じくらいの大きさの樽だ。

 ちなみにエールの樽は、ちょっとしたテーブルになりそうな高さがある。

 それが裏庭にずらりと並んでいる。このシロップを作るだけでも、大変な苦労だったんじゃないだろうか。


「これをこうして、巨大スライムの皮を一晩漬けるんだ」


 樽の栓を抜くと、巨大スライムの皮が広げられているプールにシロップが流れ込んでいく。いくつもの樽が開けられていくと、辺りは甘い香りで満たされた。


「お菓子作りは明日ですか?」

「あぁ、中央広場で観客に見せながら作るんだ。良かったら、あんたらも見に来るといい」

「まぁ、楽しそうだわ!見に行ってみましょう」

「そうだな、明日はお祭りを楽しもう!」


 裏庭を出て店内に戻ると、セーラがスイーツを食べていきたいというので、カフェスペースで休憩することにした。


「姉上のブルーベリータルト美味しそうですね、一口ください」

「いいわよ、洋介のモンブランも一口食べたいわ」


 この二人、シェアが好きだよな。と、ポーションの一件を思い出す。

 あの時は恋人同士だと思っていたが、本当は姉弟なんだよな。

 こうして見ると今でも普通に恋人同士に見えるから不思議だ。それほど仲が良いということか。


 そう思いながら二人を見ていたら、セーラと目が合った。


「あ……あのね、カイトのコーヒーゼリーも一口貰っていいかしら?」

「あぁ、良いよ」


 ゼリーのカップとスプーンを渡すと、セーラは俺が使ったスプーンを使って、俺の食べかけのゼリーを……。


 うっ。これだけで、心臓に悪い。


 セーラはぱくりと口に運ぶと「ほろ苦くて美味しいわ」と微笑んだ。


 彼女に分けるなら、もっと気の利いた物を頼めば良かったと後悔する。

 次回はもっとセーラが好きそうなスイーツを頼もうか。

 だが、それをすると一口食べてくれと催促しているようで恥ずかしい。


 そして、戻ってきたゼリーのカップとスプーンを見つめた俺。


 これを再び食べると、俺もセーラとの間接キスが成立してしまう。

 ポーションの時に逃した間接キスが、ついにここで……。


「よ……洋介も食べるか?ゼリー」


 ――やっぱ俺には、無理だぁぁー!


 二人きりならまだしも、店内で間接キスなんて恥ずかしいじゃないか……。


 差し出したコーヒーゼリーを洋介は、可哀そうな人を見るような目を向けながら受け取ってくれた。

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