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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第二章 イーサ町

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64 誤解だらけ

「あの人が商会の息子との婚約を破棄した、準男爵令嬢の父親でしょうか」

「そうかもしれないな。田舎のお祭りに準男爵が何人も来るとは思えないし」


 宿屋のドアを開けた瞬間にこんな場面に遭遇してしまったわけだが、その場をスルーして階段に向かうのも目立ちそうだし、なんとなく言い争っている二人を見守る輪の中に入ってしまった俺たち。


「それにしても、貴族に言い返すなんて宿屋の店主は度胸あるな」

「準男爵は正確には貴族ではありませんからね。爵位はあるけれど平民です」

「そうなのか、洋介は詳しいな。俺、そういうのは疎いんだよな」

「そりゃ、姉上の本で勉強しましたから。姉上の好きな本には貴族がわんさか出てきますので」

「お前も読んでるのかよっ」

「知らない話の感想を延々と聞かされるより、知っていたほうがマシだと思いませんか?」

「洋介!言わないでって言ったじゃない……カイト、今のは忘れて……」


 恥ずかしそうに訴えているセーラが可愛い。


 どうやら洋介は、セーラと話題を合わせるために本まで読んでいるようだ。

 セーラの好みを知るために、彼女の好きな本を読むのは良いかもしれないな。


「なぁ、セーラとエミリーが読み終わったら俺にも貸してくれないか。少し興味が湧いてきた」

「え……本当?男性向けのお話ではないわよ?」

「構わないよ。セーラが読んだ中でお勧めのを貸してくれ」

「わかったわ。全部お勧めだったらどうしようかしら、ふふ」

「その時は全部読むさ」


 本を貸してもらう約束をしている間にも、言い争いはまだ続いていた。

 どうやら原因は俺たちが泊まっている部屋を巡ってのことのようだ。

 部屋に戻って着替えようと思っていたのに、これでは約束の時間に遅れてしまう。


「二人とも、泊まっている部屋をあの準男爵に譲ってもいいか?このままでは、いつまでたっても言い争いが終わりそうにないし」

「僕は構いませんよ」

「私も三人部屋ならどこでも良いわ」

「よし!」


 二人の同意を得た俺は、言い争っている二人の前に出た。

 周りからは、ついに仲裁者が現れたとばかりにどよめきが起きる。


「お話し中に申し訳ありませんが、俺たちが泊まっている部屋ならお譲りしましょうか?」


 そう提案すると、二人とも驚いた表情で俺を見た。


「お客様が譲られる必要はございません!何度も申し上げたように、当宿は先着順でございますから!」

「ですが、彼は毎年あの部屋に泊まってお祭りを見るのを、楽しみにしていたのでは?」


 そう言いながら準男爵に視線を向けると、彼は小さく「ひぃっ」と声を上げながら後ずさった。


 ――なんだその態度は……俺の中二容姿が怖いのか?


「いえ……貴方様がお泊りだとは知らず……祭りなら他の部屋からでも見えますので。どちらのご子息か存じ上げず申し訳ありませんが、ご無礼をお許しください」


 これは、また貴族と間違われているパターンか。


「いや、俺たちは貴族ではないですよ、ただの冒険者なんで」

「お隠しになられてもわかります。そちらの見事な刺繍は、名のある冒険者か貴族でなければ入手は不可能。名のある冒険者は今、騎士団で重用され爵位を与えられているそうですから、どちらにせよ準男爵の私に譲っていただくなど恐れ多い」


 商会でも言われたが、この刺繍はそんなに凄いものなのか。


「刺繍は仲間がしてくれたんで、大層な身分ではありません」

「仲間?これほどの刺繍ができる者が冒険者をやっているなど……!」


 俺の仲間を確認するように、後ろの二人に視線を向けた準男爵が目を見開いたのと同時に、周りを囲んでいた人から悲鳴が上がった。


「キャー!セシリア王女だわー!!」


 その声を合図に辺りは大騒ぎとなった。

 皆、セーラに注目し歓喜の声を上げている。


 ここは富裕層向けの宿のため王女の噂についても情報を得ている人が多いのか、セシリア王女の体調が良くなっていると喜んでいる。

 どうやらセシリア王女は、国民にとても人気があるようだ。


 当のセーラは、注目を浴びて恥ずかしいのか洋介の後ろに隠れた。


 ――話がさらに、ややこしくなってしまった……。セーラに視線を持って行かせるべきではなかったな。


「はぁ……」


 自分の失敗にげんなりしつつセーラの元へ戻ると、彼女は捨てられた子猫のような目で俺を見上げた。

 思わず撫でたい衝動に駆られたが、ぐっとこらえる。


「ごめんな、セーラ。俺が余計なことを言ったせいで」

「……いいのよ。けれど、どうしましょう‥…」

「ここは、俺たちが夫婦だと説明して誤解を解くしかないな……」


 セーラを連れて一歩前へ出ると、夫婦らしく見えるよう彼女の肩を抱いてみた。

 これは必要な演技であって、決してどさくさに紛れて触れたのではないと理解してもらいたい。

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