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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第二章 イーサ町

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60 ビール購入

「皆様さぞ、名のある冒険者様なのでしょうな。マジックポーチに加えてそちらのお召物。特にカイト様の刺繍は惚れ惚れする逸品ですな」


 リオさんが言った通り、俺たちの持ち物で利益の見込める商談相手と思ったのだろうか。


「まだ、駆け出しの冒険者ですよ。刺繍は彼女がしてくれたんです」

「その若さでこれほどの刺繍を!何と素晴らしい!それで駆け出しとは……、もしやお貴族のご出身で?」


 声を潜めて探るようにこちらを見る会長が、ちょっと気持ち悪い。


「そんな大層なものではありません」

「そうでございますか……」


 明らかに落胆の色を見せる会長。

 どうやら貴族との繋がりが欲しかったようだ。

 落ち目の商会を立て直すために、貴族からの援助でも受けたかったのだろうか。


 そんなことを思っていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 会長が返事をすると、メイドが中に入ってきた。


「お茶をお持ちいたしました」

「うむ」


 メイドがティーセットをテーブルに置くと、リオさんから小さくうめき声が聞こえた。


 ――この人がララさんだろうか?


 リオさんに視線を向けると、彼は小さく頷いた。


 セーラほどではないが、ララさんは確かに美人だ。そして、どことなくセーラと雰囲気が似ている。


 ララさんはお茶を配り終えると、俺たちに礼をした。

 そして顔を上げたララさんがリオさんに気がつくと、驚いた表情を見せてから持っていたトレイを強く抱きしめて部屋を後にした。


 リオさんからまた小さくうめき声が聞こえたが、もう少しだけ我慢してもらう。まだ行動の時ではない。


「それで、本日はどのようなご用件で?」


 お茶を勧めながら訪ねた会長は、先ほどまでの野心が消えたようで、表情が柔らかく――お餅が一層柔らかくなったように見えた。


 それにしても用件は案内してくれた人に伝えたはずだが、彼はよほど慌ていたのか伝わっていないらしい。

 そんなに慌てるほど、俺たちの身なりは豪華に見えたのだろうか。

 刺繍はともかく俺の服装なんてカジュアルなものだし、全体的な印象としては中二だ。


「薬草とスライムの皮を干したものを売りにきました。それから大量購入は可能でしょうか?」

「それはありがとうございます。大量購入ですか?可能ですが、町に無いものですと仕入れに少々お時間を頂きますな」

「ほしいのはビールなんですが」

「ビールとは……?」


 会長はわからない様子だ。


 まさか、この世界にはビールが無い?……いや、違うな。異世界ではあまりビールとは呼ばない気がする。

 世界観からして、歴史が古いほうの発酵方法。


「エール、でわかりますか?炭酸の入ったアルコールなんですけど」

「あぁ!エールなら在庫がありますよ」

「良かった、それでは三十樽ほどください」

「さっ……!」

「正気ですか、カイト殿」

「そんなに買うなんて聞いていないわ、カイト」

「そもそもお酒を買うこと自体、聞いていませんよ。カイト殿」

「三十樽もどうするのよ、カイト」


 会長が驚いている間に、洋介とセーラが俺に畳み掛けるので、俺もちょっと驚く。


「え……、ダメか?村人皆で飲むにはこれくらい必要だろう?」

「一樽あればじゅうぶんだと思うわ」

「そうですよ。三十樽もあったら、数ヶ月は飲み明かすことになってしまいますよ」


 数ヶ月間、村人と飲み明かすか……それも良いかもしれない。

 と思ったが、どうやら二人はそう思っていないようだ。二人してジト目でこちらを見ている。セーラは可愛い。


「随分とアルコールに厳しくないか?二人とも」

「我が家はお酒に弱い家系なもので、あまり良いイメージがありません」

「洋介はお酒を飲むと絡むから嫌なのよ」

「それは姉上も同じではありませんか。僕がいつもどれだけ苦労していることか」


 毎回お互いに苦労しているなら、一緒に飲まなきゃいいだろう……。


「あー!わかったから、ここで姉弟喧嘩はやめてくれ。十樽で我慢するからいいだろう?」


「それくらいなら……」と二人は渋々頷いてくれた。

 姉弟喧嘩の火種は思わぬところに転がっているものだな。今後は気をつけよう……。


 エール十樽を用意してもらう間、薬草とスライムの皮も見てもらった。

 会長は特に、薬草が大量にあることを喜んでいるようだ。


「これから冬に向けて風邪薬などを作るために、薬草はたくさん必要ですから助かります。近年はこの辺りの冒険者がめっきり減ってしまい、薬草なんかも大きな町から仕入れなければならないもので、どうしても薬の値段が高くなってしまっていたのですよ。今年は北側の住人にも買える値段にできそうです」


 見た目や初対面の印象から、欲にまみれた人なのかと思っていたが、意外と町の事を考えているようだ。


「薬草は冬までにもう一回くらい売りに来られますが」

「薬草はいくらあっても困ることはありませんので、ぜひともお願いいたします。それから、スライムの皮も良い時にお持ちいただきましたな。お祭りの土産品として売ればいつもより高く売れますよ」

「なるほどお土産か。ちなみにお土産は干した状態でなければ売れませんか?」

「いいえ、生のほうが断然弾力が良いですから、マジックポーチを持っている人は生を買いたがりますよ」

「それなら……、所持している分を全部売ってしまおうか?」


 どうせなら高く売れる時に売ってしまったほうが良いだろう。セーラと洋介に視線を向けると、二人とも頷いてくれた。


 村人には渡し過ぎても干す手間がふえるだけのようだから、まだ渡していないスライムの皮が三百枚ほどある。


「三百枚ほど生の状態であるのですが、これも買ってもらえますか?」

「ぜひぜひ、お願いしたします!」

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