59 ムーア商会
事情は把握したが、これは彼らに任せるより俺たちの方が解決できそうな気がする。
「わかりました。俺たちちょうど商会にも用事があったので、様子を見てきますよ。リオさんは商会に顔を知られているのですか?」
「いえ、妻は二か月前に商会で働き始めたので、知っている人はいないと思います」
「ではリオさんは、これから俺たちと一緒に来てもらえませんか?探そうにも俺たちではララさんの顔がわかりませんので」
「わかりました、どうぞよろしくお願いします!」
深々と頭を下げているリオさんの横で、ナッシュさんは拳を握りしめて俺を見た。
「俺もなにか、できる事はありませんか!」
「そうだな……。もし手間でなければ、手紙をほかの人たちに届けてもらえませんか?今日中に全員へ渡したいと思っていたのですが、商会へ行くとなると時間が足りないかもしれません」
「それくらいお安い御用です!夕方までには配り終えますよ!」
「それから皆で集まることは可能でしょうか。できれば村へ帰る前に顔合わせがてら、説明をしたいのですが」
「酒場で働いている一人を除けば、夜には皆仕事が終わると思います」
「それでは、その人が働いている酒場で親睦会でもしませんか?ご馳走しますよ」
それを言ったと同時に、ナッシュさんの瞳が輝いたように見えた。
「お任せください!皆集めて連れて行きますんで!やほ~い、久しぶりの酒だ~!俺、早速行ってきますね!リオ、後は頑張れよ!」
手紙を受け取ったナッシュさんは、疾風の如く部屋を飛び出していった。
わかるよナッシュさん、俺もこの日をどんなに待ちわびたことか。後、数時間で酒が飲める!
そのためにも、ララさんの件は速やかに解決せねば。
「すみません、ナッシュのやつ……。ああ見えて、皆のまとめ役なんで役目は果たすと思います……」
「大いに期待しておきます」
村長と性格は随分と違うようだがさすがは村長の息子なだけあり、皆の世話を焼くのは得意なようだ。
リオさんの案内で向かった商会は町の南東、中央広場の裏側に大きな建物を所有していた。
一階は馬車ごと入れる商談場所のようで、かつてはそこにずらりと馬車が並んでいたのだろうが、今は三台ほど止っているだけだ。
ゲーム内ではアイテムは雑貨屋などのNPCに売るか、自分で露店を開いて売る方法しかなかったので商会はなかったが、村長曰くこの世界では商会に売りにいくものらしい。薬草を売るため町に薬屋はあるかと尋ねた時に、そういう回答をもらった。
巨大スライムの皮については利益が多くなるよう、お菓子屋が気を利かせて直接頼んでくれているらしい。
「とりあえず本来の目的を果たそうか。そのついでにさりげなく聞き出してみよう」
三人にそう告げると、三人とも気合の入った表情で頷いてくれた。
馬車が止っていない所に適当に入って、暇そうにしている商会の人に話しかけてみる。
「すみません、ここの商会を利用するのは初めてなのですが、薬草とスライムの皮を売りたいと思いまして」
「こっ、これはこれは、よくおいでくださいました!奥の商談室へどうぞ!」
他の人はこの場で商談しているようなのに、なんだろうこの態度。
またセーラが間違われているのだろうかと思いながらも、案内された通り商談室へ向かう。
「ただいま、会長を連れて参りますのでお待ちください!」
案内してくれた人が出て行くのを見送りながら、洋介が口を開いた。
「なぜ、会長に会わせるのでしょうか」
「俺たちと馬車で来ていた人たちで、何が違うのだろう……」
「まさかもう、こちらの目的が知られてしまっているわけではないわよね?」
三人それぞれ疑問を口にしていると、リオさんが遠慮がちに手を上げた。
「あのう……、きっと皆様の身なりで判断されたのだと思います……」
「俺たちの?」
そう聞き返すと同時に部屋のドアが勢いよく開いて、初老の男性が腹を揺らしながら部屋へ入ってきた。
俺も転生前は腹を気にする毎日だったが、あんなにひどくはなかったと言っておきたい。
「お客様にお茶もお出していないじゃないか!さっさとお出ししろ!」
「もっ申し訳ありません!ただいますぐに!」
再び案内してくれた人が慌てて部屋を出ていくのと入れ替わりに、リオさんよりも少し若そうな男性が部屋に入ってきた。
会長はその男性にも「遅いぞ!」と叱責してから、やっと俺たちに視線を移した。
「手際の悪い者たちばかりで申し訳ありません!私はムーア商会の会長ジェイス・ムーアと申します。こちらは息子のバレットです。どうぞよろしくお願い致します」
「初めまして、俺は冒険者のカイトと申します。こちらの三人は旅の仲間です」
商談に同席させるのだから、この人が跡取り息子と考えるべきだろう。会長とはあまり似ていない、遊び人という風貌だ。
お互いに名乗り合ってから席に座り直すと、会長は満面の笑みで俺たちを見た。丸餅と表現するのがしっくりくる顔だ。




