05 アイテムコレクター
だが、洋介の推測を裏付けるものには心当たりがあった。
「洋介の推測は当たっているかもしれないな。俺はスライムを倒した時、激しく体力を消耗したんだ。仮にSSランクだとしたら、走ってスライムを倒しただけで息切れしたりふらついたりしないと思わないか?」
「そうですね、正直ここまで歩いただけでも結構疲れましたし」
「歩き疲れただけかと思っていたけれど、SSランクの体力を思えば不自然よね」
あのMMORPGのシステムは、1レベルのEランクから始まり、20レベルごとにランクが上がっていく。
100レベルでSランクに到達するが、運営は何を思ったのかSSランクには200レベル必要な設定にしてしまった。
上位ランカーは150レベルに集中しているから数年はこれで持つと思ったのだろうが、俺達は軽く200レベルを超えていたので、SSランクで強化されたスキルによってSランクとは大きな開きが生まれてしまった。
190レベル付近に数名いるが、それでも200レベル達成には数か月掛かるだろう。
人寄せパンダ的な扱いにされたのかもしれないが、俺達は羨望の眼差しを受けるどころかチーター呼ばわりされていた。
最近は周りから反感を買わないために気を遣ってばかりだったので、あのしがらみから抜け出せた事には正直感謝している。
そんなわけで、1レベルと200レベル越えでは体力にも雲泥の差があるわけだ。
「ステータス画面のようなものがあれば、手っ取り早く確認出来るんだが……」
「マジックボックスとウエストポーチが繋がっているように、何かアイテムを通して確認することは出来るのではないかしら」
「そうかもしれませんね。村に行けば何かあるかもしれません」
「それじゃあお金の心配もなくなったし、日が暮れる前に村へ入ろうか。話し合いの続きは宿屋に入ってからにしよう」
「そうですね」
木々がまばらなになっているこの辺りは空もはっきり見渡せるが、そろそろ辺りがオレンジ色に染まり始めている。
「待って!」
立ち上がって東屋を出ようとした俺と洋介を、セーラが呼び止めた。
「どうしたセーラ?何か気がかりな事があるのか?」
「そうではないの。村へ行くのにこの服装では恥ずかしいから着替えたくて……」
言われてみれば俺達は今、とても恥ずかしい恰好をしている。
いくら見た目がイケメンでも白いタンクトップに短パンでは、変態じみていて人前には出られないだろう。
セーラは白いワンピースだが、俺達と同様に下着っぽさは否めない。
「さすがにこれじゃ人前には出られないよな……。アバターや装備もランクに関係ない物なら取り出せそうだし着替えるか」
「そうしましょ。――どぉ?似合うかしら?」
セーラはポーチの中から、いつものたれうさ耳カチューシャを取り出すと、頭に装着した。
わざわざ確認を取らなくてもセーラは何でも似合うし、この世で一番可愛いし、俺の女神だ。
「うん、よく似合ってるよ。服もいつものメイド服にするのか?」
「リアルでメイド服は恥ずかしいわ……。これにしようかしら、街のお嬢さん服」
っという名のアバターだ。清楚な雰囲気のセーラには良く似合うと思う。
リアルのメイド服も拝んでみたかったが、それを口に出してしまえば変態認定されてしまうので、口が裂けても言わないし言えない。
「いいんじゃないか。俺はどうしよう、中二コートはSランク用だし……って俺、SSランク装備と中二コートしか持ってないんだけど……」
「奇遇ですね、カイト氏。僕もSランク用の公爵服とSSランク装備しか持ち合わせていません……」
ゲームでは装備の上からアバターを表示できるが、俺も洋介もこだわりが強すぎてアバターを一着しか持ち合わせていなかったようだ。
「そんな事だろうと思ったわ」
「……もしかしてセーラ、男性用の服も持っていたりする?」
「えぇ、男性用はあまり持ち合わせていないけれど、二人が好みそうな服はあるわ」
「おおおお!さすがはセーラ嬢!女神様!」
「それはありがたい!是非貸してくれ」
「ふふ、いいわよ」
セーラはウエストポーチを眺めながら「どれがいいかしら」と呟いている。あまり無いと言ったが、選ぶくらいにはあるようだ。
「洋介は選ぶまでもなく、これよね」
「なんと……男爵服ではありませんか!ありがとうございます、セーラ様!」
その服はシリーズになっていて、ランクが上がるごとに爵位も上がるらしい。SSランクのアバターはまだ実装されていなかったが、あれば大公だったりするのだろうか。
「カイトはコートがいいのかしら?黒い服ならほかにもあるけれど」
「アバターじゃないからコートを借りるにしても、中に服も必要だよなぁ。出来れば両方借りたい」
「わかったわ、まずはこのコートと……」
ポーチから黒いコートが取り出される。コートは各ランクにあるがランクが下がるにつれて装飾が減っていくので、Eランクのコートは実にシンプルなコートだ。
続いて取り出されたのは、ハロウィンイベント時のドラキュラ服だ。
「これでどうかしら?」
「いいね、赤い縁取りが中二心をくすぐるよ」
「ドラキュラ伯爵……僕より爵位が上ではありませんか」
「そこ気にするところか?男爵服も黒いし俺はどっちでもいいけど」
「……いえ、僕はこのシリーズをこよなく愛していますので、ぽっと出の伯爵には負けませんよ!」
「あ、うん。別に勝っても嬉しくないからいいけど……」
「どこで着替えようかしら?」
俺達の会話に全く興味のなさそうなセーラが、着替える場所を求めて辺りを見回したので釣られて探すが、隠れられそうな場所はどこにもない。
セーラは考えた末に、生産スキルで作って保管していたらしい布を東屋の柱に縛り付けて囲いを作った。
三回ほど「覗かないでね」と念を押すと、セーラは囲いの中へと入って行った。