57 手紙の配達
一番良い部屋とやらに、俺たちは案内された。
地球だとスイートルームというのが相応しいだろう。リビングのほかに寝室が二つある。
それはいいとして、内装の成金趣味にはちょっと引いてしまう。どこの宮殿だよ!と突っ込みを入れてしまいたくなる豪華さだ。
これが田舎の町にあるなんて不自然すぎる。ここもかつては、冒険者で潤っていた町のようだ。
「皆様、お祭りを見学に来られたのでしょう?こちらのバルコニーからお祭りの様子が良く見えますよ。特に夜がお勧めでございます」
「そうですか、良い部屋をありがとうございます。チェックアウトはお祭りの翌日の予定です」
「確かに承りました。お食事はどうなさいますか?隣に高級レストランがございますので、そちらに注文してお部屋までお運びすることもできますが」
「そうだな……どうしようか?」
俺としては、大衆居酒屋みたいなところでビールを飲みたいが。
「せっかく町へ来たのだから、色々なお店へ行ってみましょう」
「そうですね。朝食だけ運んでもらったらどうでしょう」
「それじゃ、そうしようか」
それから洋介は色々と主人に指示を出していた。こいつ、高級宿に泊まり慣れているな……。
宿の主人が部屋を去ってから、話は戻り王女の話題になった。
「他人の空似とはいえ、あんなに似ているんじゃ姉上も外を歩きにくいのではありませんか?」
「そうよね、あまり注目を浴びるのは避けたいわ」
「かといって、せっかく来たのに宿に閉じこもっているのもつまらないしな。変装でもしてみたらどうだ?」
「変装?そうね……試してみるわ」
セーラはそういうと、寝室へと入って行った。それから十分ほど。
「これで、村娘に見えるかしら」
村娘っぽさを出すためだろうか、着替えた服は確かドイツ民族衣装だったと思う。
ビール好きなら誰もが憧れるであろうドイツのオクトーバーフェストで、女性たちが着ている民族衣装だ。セーラらしく露出度は低めになっている。
それに加えて麦わら帽子で顔を隠れるようにして、髪の毛は後ろで一本に三つ編みしている。
絵姿とはかなり印象が変わったが、あふれ出る可愛さは変装では隠しきれないようだ。
むしろいつもと違う姿に、新鮮さがプラスされて可愛さ倍増というべきか。
とにかくセーラは何をしても可愛いということだ。
「とても似合っていると思うよ」
「そうですね、顔はともかく王女っぽさは消えましたね」
「ふふ、ありがとう二人とも」
「それじゃ、昼飯でも食べに行くか」
宿屋を出ると、隣には宿屋の主人が言っていた通り高級そうなレストランがあった。フランス料理っぽいコース料理が食べられるようだ。
だがそこはスルーし、広場沿いに歩いてファーストフードっぽい店にたどり着いた。
ここもゲーム内にあった店で、世界観無視の某ハンバーガー屋に似せたメニューが並ぶ。
どんな味なのか気になるという話になったので、昼食はここに決定した。
注文を終えると早速、午後の予定を立てることにした。
「皮の納品は明日だし、まずは出稼ぎに来ている人たちに手紙を渡しに行かないか?村に連れて帰るにしても、準備とかで数日必要だろうし。おっ、このテリヤキソースはあの店と同じ味だな」
「そうですね、ここで回る順番でも決めておきましょうか。このポテトのパサパサ感もあの店そっくりです」
「アップルパイも同じ味で美味しいわ」
洋介の提案に従い、俺はマジックポーチから手紙を取り出した。
村人から預かった手紙は七通。二通渡してきた家もあれば、手紙を渡してこなかった家もある。
皆、住所の他に簡単な地図も書いてくれたので、家を探すのはそれほど苦労しなくて済みそうだ。
この手紙を預かった時にわかったのだが。なんと、この世界の文字は日本語だった。
ゲーム世界にそっくりな世界だからといえば納得はできるが、文字の成り立ちが気になるところだ。
思えば、ダンジョン広場の石板でステータス画面を見た時に、気がつくべきだったのかもしれない。俺の名前なんて、しっかり卍まで表示されていたのだから……。
「地図を見る限り、夫婦と女性は壁の中に住んでいるが、男性は壁の外に住んでいるようだな」
「壁の外は治安が悪そうですね」
「衛生環境も悪そうだわ……体調を崩していなければ良いけれど」
町に入る前に見た限りでは、良い環境とはお世辞にも言えないような場所だった。外の方が家賃は安く済みそうだが、二人が言ったように色々と心配だ。
「夜に壁の外へ行くのは危険そうだが、昼間は仕事をしているだろうし後回しにしよう」
「女性は酒場の手伝いや内職をしていると言っていましたね。今なら家にいる確率も高そうです」
「お昼を食べたら、女性の家を回ってみましょう」
女性は四人いて、そのうち二人は夫婦で出稼ぎに来ている。レオくんのお母さんもその一人だ。
「まずはレオくんの両親の家へ行ってみるか」




