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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第二章 イーサ町

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56 イーサ町の宿屋へ

 森を抜けると農地が広がっていた。

 今は農作物が一番成長する季節だ。どこを見てもすくすくと育った農作物には重そうに実がなっている。

 土が良いのか、村の畑よりも豊作に見える。


「村の畑になかった野菜があれば、お土産に買っていこうか」

「そうね、夏野菜がとても美味しそうに実っているわ」


 イーサ町は円形に作られた町だ。

 エミジャ村と同じく町の中央に大きな円形の広場があり、村よりも規模が大きい。

 村とは違い、中央の水場は噴水となっている。


 広場の周囲を建物が囲っていて、一階が店で二階が住居という建物が多い。

 その裏側に町をぐるりと一周できる道があり、その道沿いにも建物が立ち並んでいて、そこはアパートのような三階建てくらいの建物が多い。

 さらにその外側には、建物より少し低い壁が街を囲っている。


 ゲーム内ではそれが全てだったが、実際には壁の外側にも建物が多く立ち並んでいる。

 平屋の住居というよりは小屋のようなものが、壁にくっつくように数多く建てられているが、洗濯物が干してあったり煮炊き用と思われる石を囲った焚火などが見えるので、これらの小屋は住居で間違い無いようだ。


 正直、エミジャ村に住んだ方がよほど良い暮らしができるのではと思えるほど、壁の外は貧相に見えた。


 そんなことを思いながら馬車はゲートをくぐり、壁の中へと入って行く。

 壁の中は人が大勢住んでいるようで、ゲーム内よりも規模が大きくなり道も増えているが、ゲーム内にあった店の配置はだいたい同じようだ。


 石畳の道路に背の高い建物。

 エミジャ村から来た身としては突然、都会へ放り込まれたような気分だ。


 中央広場沿いにある宿屋の前で馬車が停まると、NPCとして見たことがある宿屋の主人が慌てた様子で建物から出てきた。


「これはこれは、ようこそおいでくださいました!本日はお泊りでございましょうか?」

「はい、三人部屋は空いていますか?」

「もちろんでございますとも!一番良い部屋をご用意させていただきます!」


 別に普通の部屋で良いのだが……、完全に貴族と間違われている気がする。

 馬車は町の手前でポーチにしまうべきだったか。


 気のせいか広場にいる人たちも、全員こちらに注目している気がする……。


 セーラも馬車から降りると、周りから一斉にざわめきが起きた。

 セーラの可愛さに皆、驚いているのだろうか。とても良くわかる。


「ここここここれは、セシリア王女!ようこそ、このような辺境の町へ!」

「はい……?」


 何を言っているんだろうこのおっさん……ではなく、宿屋の主人。

 広場にいる人たちも、歓喜と興奮に満ちた様子でこちらへ近づいて来る。


 セーラと顔を見合わせていると、主人は遠慮がちに口を開いた。


「あのう……王女ではないのですか?」

「えぇ、違うわ」

「それは失礼いたしました……。とてもよく似ておられましたもので」

「へぇ。この町の人たちは皆、王女の顔を知っているのですか?」


 馬車を宿屋の人に預けた洋介もこちらへやって来て、興味深そうに尋ねてきた。


「はい、このような田舎の町でも王女の成人記念の絵姿は入手できますので」

「そうなんですか、僕たちしばらく村で暮らしていたもので。姉上にどれほど似ているのか見てみたいなぁ」

「ふふ、そうね。私も興味があるわ」

「宿の壁に飾ってございますので、どうぞご覧くださいませ。さっ、中へどうぞ」


 宿の中は左側に受付があり、右はちょっとしたカフェのような場所になっていて、その奥に二階への階段がある。

 内装も家具も屋敷と変わらないような上質な物を揃えているところからも、この宿屋は富裕層向けのようだ。

 ゲーム内では町に一つしか宿屋がなかったが、実際にはもっとリーズナブルな宿屋もありそうな気がする。


 王女の絵姿は入り口から見て正面の壁に、金色のごてごてしたレリーフの額縁に入れて飾られてあった。


「本当に姉上そっくりですねぇ」

「自分を見ているようだわ」


 白黒の絵姿なので、実際に髪の毛や瞳の色まで同じなのかはわからないが、顔は本当にセーラと瓜二つ、エミリーも加えたら瓜三つだ。

 っというか、好きな人を瓜にばかり例えるのはどうなんだ?宝石三つとでも言っておこう。


「驚いたな、ここまで同じ顔の人がいるなんて」


 しかし、ゲーム内では限られたパーツの中から組み合わせて顔や体を作るのだから、全く同じになる確率はゼロではないと思う。

 ゲーム内では王宮の中は未実装だったので外観しか拝めなかったが、既に王女が作られていたならゲーム内のパーツででき上がっている事に何ら疑問は無い。


「噂によりますと、先月成人したばかりだというのにご体調が優れないようで、隣国の王子との結婚が延期になったそうですよ」


 噂好きの主人なのか、声を潜めつつも話したくてしょうがないといった様子で教えてくれる。


「まぁ、それはお気の毒に。早く回復されると良いわ」

「まったくでございます。さぁ、お部屋へご案内いたしましょう」

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