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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第二章 イーサ町

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55 楽しい?馬車の旅

 臆病なセーラは馬車も怖いのだろうかと思っていると、馬車は村を抜け町に向かう山道へと入った。

 ここからは人目に触れることもないので、一気に加速することになっている。


 なぜなら課金アイテムであるこの馬車は、空を飛ぶことができるからだ。


 一気に加速した馬車は、飛行機が離陸する時のような浮き上がる感覚とともに、空へと舞い上がった。


「キャー!」


 悲鳴とともに、俺にきつくしがみつくセーラ。


 ――はあぁぁ、可愛い。


 ふわふわ心地よい暖かさに、体の力が抜けてしまう。

 もしかして俺は馬車に乗るたびに、こんな天国みたいな状況を味わえるのだろうか。


 そう思いながらセーラを見下ろすと、俺とは逆に地獄を見ているかのような青ざめ具合だ。


 ここでイケメンなら、落ち着かせるために抱きしめて頭でも撫でてやるのだろうが、俺がそれをしてセーラが喜ぶかは疑問だ。


 なので、会話で気を逸らせる方法を取ろうと思う。


「セーラは飛行機とかも怖いのか?心配しなくても、ファンタジーな課金アイテムは飛行機より安全だと思うぞ」

「そうではないの、洋介の運転が怖いのよ……」

「え……?」


 洋介の?そう思った瞬間、馬車は突然の急降下を始めた。

 地面すれすれまで落ちた馬車は、それから急上昇し左右に大きく揺れる。


「うわー!どーゆーことだ、セーラ!」

「洋介は運転が下手なのよー!キャー!」


 雲に手が届きそうな位置まで急上昇した馬車は、ジェットコースターの如く宙返りを決めると、俺の意識は遠のきそうになった。


「うっ……」

「カ……カイト、大丈夫?……キャー!」

「気持ち悪くなってきた……」

「今、ヒールをかけるわ!」


 セーラは悲鳴を上げながらも、なんとかポーチから杖を取り出すと、俺にヒールをかけてくれた。

 嘘のように気持ち悪さが消えたセーラのヒールは、どうやら乗り物酔いにも効くらしい。


 しかし、それも束の間。

 馬車が回転するたびに気持ち悪さが復活して、その都度セーラにヒールをしてもらう羽目になってしまった。


 そんな状態が二時間ほど続き――実際の時間はわからないが、それくらい長く苦しめられた気がする。休憩のために馬車が地上へ降りると、俺たちは這い出るように馬車から降りた。


「うぅ……、死ぬかと思った……セーラ大丈夫か?」

「えぇ……なんとか……生きているわ……」


 セーラは魔法も使ってくれていたから、なおさら疲れたのだろう。

 よろよろと道の真ん中まで移動するとポーチからベッドを取り出し、布団に潜り込むとダンゴムシのように丸くなった。


 さすがにヒールで、心の疲れまでは癒せないようだ。


 俺もセーラのおかげで気持ち悪さはないが、感覚が麻痺しているようでまだグルグルと回っている気分だ。


「カイト殿、僕の操縦テクはどうでした?」

「最悪でした」

「おかしいな……。お二人のために、吊り橋効果を狙ってみたのですが」

「わざとかよっ!」


 吊り橋効果とはご存知の通り、男女が危険な場所でドキドキすると、お互いに恋愛感情だと誤認するというものだ。

 しかし、二時間セーラと抱き合っていた俺の心にあった感情と言えば、恐怖と気持ち悪さだけだ。


 彼なりに俺を応援してくれているのだろうが、余計なお世話にもほどがあるとは、まさにこの事だ。この子爵やろう!

 ちなみにかなりどうでもいい豆知識だが、俺たちはDランクになったので洋介の貴族服も子爵に爵位が上がっている。


「この後は、お願いだから安全運転で行ってくれ!」




 セーラが復活するまで休憩を取った俺たちは、再び馬車に乗って大空へと飛び立った。


 この後は俺のお願い通り、彼なりに安全運転をしてくれたようだ。

 セーラは洋介の運転にトラウマがあるのか、またも震えながら俺にしがみついていたが、俺にとっては許容範囲の揺れだった。

 ヒールをかけてもらうほどの状態にはならずに済んだので、俺は存分に至福の時を過ごした。


 雲よりも低い高さを飛んでいる馬車の窓から景色を見下ろすと、町への道沿いにところどころ村のような場所が見えた。

 ゲーム内ではエミジャ村とイーサ町の間に村は無かったが、実際にはこんなに距離が離れているのだから村が数か所あっても不思議ではない。


 西側は山脈がある辺りまでひたすら森が広がっていて、東には少し離れた所に大河が見える。

 直線距離にすると、この辺りと大河はそんなに離れていない。イーサ町へ行くより、よほど近いが道が無いようだ。


 大河沿いにも、点々と町があるようだ。

 ゲーム内にもいくつか町はあったが、建物の密集具合からそれよりも人口が多いように思える。

 大河の恩恵で漁業は盛んだろうし、航路があるから交易も盛んだろう。住むには良さそうな土地だ。


 イーサ町の手前、森の端が見え始めた頃、馬車はゆっくりと降下して地面に着地した。

 舗装されていない道を進むので乗り心地は悪くなったが、地に足がついているという安心感は出たのか、セーラは小さく息を吐きながら俺から離れた。

 念のためなのか、俺の服はまだ掴んでいるが。


「……ごめんなさい、カイト。ずっと窮屈だったでしょう?」

「いや、全然。俺としては楽しい空の旅だったよ」


 できれば馬車から降りるまで、ずっとあの体勢で居てほしかったくらいだ。

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