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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第一章 エミジャ村の夏

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53 近くて遠い距離

 皆、期待に満ちた顔で俺を見ている。


 雇用するには色々と準備も必要だから、人手はあったほうが助かる。

 それに何より、村人は家族に早く会いたいようだ。


「日雇いの人はすぐにでも呼び戻せそうだな。町についたら尋ねてみようか。皆さん、家族にその旨の手紙を書いてもらえませんか?俺達が突然押しかけても信じてもらえないと思うので」

「本当に何から何までありがとうございます、カイト様!皆、今日中に手紙を必ず書いてくれ!」


 村長の声に男性陣の野太い歓声が上がった。


 どのような内容を書けば驚くだろうと楽しそうに話し合っている様子から、この村の人たちは読み書きが出来るようだ。

 こういったド田舎だと識字率が悪いのがお決まりだが、かつては接客業を生業にしていた人達だから、読み書きは必修だったのかもしれない。


「カイトさま、おとうさんとおかあさん、かえってくるの?」

「あぁ、俺達が迎えに行ってくるから、楽しみにしていてくれ!」

「わー!カイトさまだいすき!」


 レオくんは、嬉しそうに俺に抱きついた。

 最初はませガキと思っていたが、レオくんは素直で可愛いな。

 ターキーレッグが服に着いちゃったけど俺、気にしない。




「カイト、今日はありがとう」


 村からの帰り道、最後尾をセーラと二人で歩いていると、突然セーラからの感謝があり俺はハテ?と考えた。今日は特別セーラに何かした覚えはない。


「俺、何かしたっけ?」

「雇用の事よ。村の人達とても喜んでいたわ。それにレオくんも、お父さんとお母さんが帰ってくると嬉しそうだったわ」


 セーラはレオくんを気にかけている様子だから、それに対する感謝のようだ。

 そういえば、セーラも両親と離れて育ったと言っていたな。彼女も寂しい幼少期を過ごしたのだろうか。


「幸いな事に俺達には助けるための財力もあるし、何といっても人助けはRPGの王道だろ?」

「ふふ、そうね。村人の困りごとを解決するのは、プレイヤーの務めだわ」

「村人だけじゃないさ。セーラが困っている時や寂しい時は、俺に言ってくれないか。ヘタレなりに、少しは役に立つと思うぞ。……一応、設定上の夫だしな」

「……ありがとうカイト、頼りにしているわ」


 今は洋介も一緒だし寂しさなんて感じていないかもしれないが、もしそういった感情が沸いてきた時には助けになりたい。

 俺では役不足かもしれないが、いないよりはマシだろうと思う。


「私も設定上の妻として屋敷に帰ったらその服、洗濯するわね」


 セーラは冗談っぽく笑いながら、レオくんのターキーレッグが付いてしまった部分を指さした。


「あ……ごめんな、汚しちゃって。シミにならないかな……」

「大丈夫よ、私に任せて。……それから、これはカイトの分よ」


 セーラは自分の服のポケットから何かを取り出すと、俺の手にそれを握らせた。


「これ……」

「ちょっとレアなオーナメントを見つけたの。凄いでしょ」


 俺の手の中にあったのは、光り輝くスターのオーナメントだった。


 オーナメントにはそれぞれの形ごとに光り輝くレアなものがある。ただの飾りだが、コレクターの間では地味に人気のアイテムだ。


 レオくんが手に握りしめていたのは、普通のオーナメントだった。セーラはレアなほうを俺にくれたようだ。

 子供と張り合っている自分がとても恥ずかしいが、俺を優先してくれた事が本当に嬉しい。


「ありがとう、セーラ!大切にするよ!」


 不本意ながら、年甲斐もなくオーナメントを貰って喜ぶ、中身おっさんが誕生してしまった。






 翌朝、このオーナメントを飾りたいと思っていた場所へ向かうと、先客が既にぶら下げられていた。


 つるを輪にして作られたリースの土台には、庭のバラで作ったと思われるドライフラワーと、アクセントに付けたのだろうか白銀の花のドライフラワーも一緒に飾られていた。


 セーラはクリスマスリースではなく、これを作りたかったようだ。


 俺は予定通り、そこにセーラから貰った光り輝くスターのオーナメントを飾ることにした。勝手にリースにオーナメントを付け足してしまったが、セーラも怒りはしないだろう。


 何故なら、ここは俺の部屋とセーラの部屋とを行き来するドアなのだから。


 言いそびれていたが、告白が不発に終わってセーラが逃げ出した次の日の夜、セーラは隣の部屋に引っ越してきた。

 俺の部屋と隣の部屋は元々ドアで繋がっていて、そんな場所に引っ越してきて良いのだろうかと思ったが、臆病なセーラにとってこのドアは有り難い存在なのかもしれない。


 常に開け放たれているこのドアからセーラの部屋を覗いてみたが、家具が壁のように立ちはだかっていて、ここからセーラのベッドを見る事はできない。相変わらずの鉄壁仕様だ。

 そして俺もヘタレゆえに、ここからセーラの部屋へ足を踏み入れたことは一度も無い。


 近いのか遠いのか分からない俺達の距離感を表すのに、とても相応しい部屋の作りとなっている。


 この近くて遠い距離を埋めるには、俺はヘタレモブを卒業しなければならない。

 この世界へ転生して俺達を中心に村が変わろうとしている今、モブは卒業しているのかもしれないが、ヘタレの卒業はまだまだ先の話になるだろう。


 この体の実年齢は分からないが、俺達は転生によって出会った頃と同じような年齢に巻き戻った。

 今までの十六年間を思えば、まだまだたっぷり猶予はあると思えてならない。ゆっくり構えていてもいいんじゃないかと理由を捻り出して、ヘタレ卒業を引き延ばそうという作戦だ。


ここまでお読みいただきありがとうございました。これにて第一章完結となります。

引き続き明日から第二章へ入らせていただきます。


誤字報告ありがとうございました!


年末年始は投稿時間がまちまちになるかもです。

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