52 作戦会議
「出稼ぎに行っている人たちは、どんな仕事をしているのですか?」
まずはどんな仕事ができるか把握するためにこの質問をしてみたが、村長の顔色はかんばしくない。
「定職に就ける者はあまりおりません。殆どの者が日雇いの仕事を転々としており、男性は工事現場や建設作業が多く、女性は食堂や酒場の手伝い、農地の収穫作業や内職のようなものをしている者もおります」
「それではあまり稼げそうにありませんね」
「はい……。イーサ町も昔ほど景気は良くありませんので。王都まで行けば仕事は沢山ありますが、ここからでは旅費だけでも大変な出費になります」
東の大河に航路が出来たことにより衰退したのは、この村だけではないようだ。
「裏を返せば広く浅く色々出来ると言う事ですね」
「そうだな、それはそれで強みになるだろう」
洋介と俺の言葉に村長はほっと息を吐く。
「俺がとりあえず考えたのは、家畜を飼ってその世話をしてもらえないかなと。そうすれば村の食糧事情も改善できるし一石二鳥だと思うんです。畜産のノウハウがある方いますか?いなければうちの執事を指南役にと思っているんですが」
「それなら俺と息子ができます!うちは元々家畜を飼っていたので世話には自信があります!」
そう手を上げたのは、隣のテーブルに座っていた村人だ。老いて尚、骨太な骨格はとても頼りになりそうだ。
「それではお二人を中心にお願いします。取り敢えず牛と鶏と羊を飼いたいですね」
牛と鶏は食糧用で、羊はセーラの手芸用だ。
「牛舎と鶏舎は手直ししたら使えるとは思いますが、羊舎は無いので新たに立てる必要があります」
「お!それなら、おいらの出番だな!うちは代々大工をしていたんで、息子も今は建設現場で働いています」
元畜産農家さんの隣に座っていたお爺さんがにやりと笑った。洋介とセバスに建ててもらった方が早いとは思うがここはお願いすることにしよう。
「それじゃ羊舎の建設はそちらにお願いします。村もあちこち傷みが激しいですし、そちらの補修もお願いしようかな」
「お任せください!カイト様!」
「農地も拡大させれば、とりあえず男性の職場は確保できそうだな。女性には何をしてもらおうか」
「女性の事は女性に聞くのが一番ですよ、カイト殿」
洋介の言うことはもっともだ。セバスにセーラたちを呼んで来てもらうと、結局は村人全員での会議となった。
レオくんを俺の膝の上に乗せると、セーラは元いた俺の隣に座った。
「カイト、なんのお話しをしていたの?」
「出稼ぎに行っている人達にこの村で働いてもらおうと思って、どんな仕事がいいか考えていたんだよ」
「まぁ!それは良い考えね」
セーラが微笑む後ろで、ご婦人方も手に手を取り合って喜んでいる。自分たちの子供が帰って来るのはやはり嬉しいようだ。
「それで、男性にしてもらう仕事は決まったんだが、女性にはどんな仕事が向いているだろうかと思って」
「そうねぇ……、ちなみに男性はどんな仕事をするの?」
「主に畜産と農業だな」
「それなら、加工品を作って町で売ったらどうかしら。ここで採れたものをそのまま売りに行くのは大変でしょう?加工したほうが売りに行く頻度も減らせていいと思うわ」
「なるほどな、どんな加工品がいいかな」
そう言いながら考えようとしたら、ご婦人の一人がすかさず声を上げた。
「セーラ様とエミリーさんはとてもお菓子作りがお上手ですもの、お二人に教えてもらってお菓子を作ったらいいと思うわ!」「そうね!日持ちするお菓子ならきっと貴族にも売れると思うよ!こんなに美味しいんだから!」「それなら来年は小麦を植えましょう!」「いいわね!果樹もあればきっと美味しいお菓子が作れるわ」「果物を作るならジャムもいいわね!」「それだわ!ジャムは日持ちもするしきっと美味しいわ!」「スライムの皮でジャムを包んでも美味しいと思わない?」「貴女天才!そんなもの作ったら王族にだって売れてしまうよ!」
――どうしよう……、話に入り込めなくなってしまった。
同じく唖然と様子を伺っている男性陣に向かって、俺は呟いた。
「っという事で、加工品はご婦人方にお任せしましょう。来年の畑は女性陣からの要望がある作物を優先的に植えるということで……」
「……カイト様、小麦はいいですが果樹は植えてから実を付けるまでに、何年もかかりますよ……」
女性の夢を壊さぬよう小声で訴えてくるこのお爺さんは、きっと日頃から奥さんの尻に敷かれていると思われる。
「それについては問題ありません。既に育った果樹をポーチに入れてありますので」
「はぁ……」
そんな事が出来るのかと不安げに見られたが、うちには魔木と呼べるような、不可思議なハウジングアイテムの果樹があるから心配無用だ。ただ、あの奇怪な果樹を村人に見せるのはちょっと躊躇われるが……。
「それで、出稼ぎに行ってる人たちはいつ呼び戻すんです?」
洋介に問われ、俺は周りにいる人たちを見回した。
当初の予定よりお話が長くなりそうなので、章分けする事にしました。そんな訳で、突然ですが明日で第一章終わりになります。




