51 カイトの思い付き
「カイト様、その赤いのは何です?」
「これは唐辛子と言って、辛いスパイスなんです」
「南の国で採れるやつですな。名前だけは聞いたことがありますわ」
この国は北にあるから唐辛子は栽培していないようだ。
お爺さんはとても食べたそうに、こちらを見つめている。これは、辛い物好き仲間を増やすチャンスだろう。
「辛いのが大丈夫なら、試してみますか?」
「いいんですかい?貴重な香辛料なんじゃ……」
「沢山あるので構いませんよ。かなり辛いので初めは塩一つまみ取る程度にしてください」
頷いて慎重に一味唐辛子の瓶を受け取ったお爺さんは、細心の注意を払う様子で一味唐辛子を少量振りかけた。
初めてにしては絶妙な分量を振りかけたと思う。微かに粒が見える程度が、一般人の分量としては適量と言えよう。
恐る恐るターキーを口に運んだお爺さんは次の瞬間、目を見開いた。
「うっ……美味いぞーー!!!」
その叫びに、村人が一斉にこちらに視線を向けた。
「それは何だ!」「初めて見るぞ!」「カイト様、俺にも分けてくだせえ!」
「どうぞ、皆さんも試してみてください。かなり辛いので、大丈夫な人だけにしてくださいね」
そう告げると、主に男性陣がわらわらと集まり出したので、適量を指示して後は好きなように試してもらうことにした。
和気あいあいと一味唐辛子を試し合っている村人は、皆ここで生まれ一緒に育った仲間なのだろう。とても仲が良さそうだ。
「大人気ですね、カイト殿の一味唐辛子」
「物珍しいんだろう。もう一瓶あるが、洋介もかけるか?」
「僕はどちらかと言うとハーブの方が好きなんで……あ、レモンもいいですね。確かポーチに……」
そう言いながらレモンを取り出して、絞り出すと満足そうに頬張った。それを目ざとく見つけた村人がレモンをおねだりに来ている姿が微笑ましい。
「私はスイーツを奥さんたちに振る舞ってこようかしら。エミリーちゃん一緒に行きましょう」
「はい、奥様。わたくしもそろそろお菓子が食べたいと思っておりましたの」
セーラとエミリーが女性陣の集まっているテーブルへ行くと、そこから悲鳴にも似た歓声が沸き起こった。
どうやら高齢女子もスイーツには目がないようだ。
俺達が珍しい物を投入した効果もあり、ターキー祭りは大盛況だ。これで、ビールがあれば最高なのにと、楽しい食事をすると行きつくのはそれだ。
町へ行ったら是非とも樽で買おう。村人と飲み明かせる量が必要だ。
そう決意していると、俺の隣に小さなお客さんがやって来た。
「カイトさま!おにくありがとう!とってもおいしいよ!」
さっきまでセーラが座っていた場所に座ったレオくんは、右手にターキーレッグ、左手にセーラから貰ったオーナメントを握りしめている。
「それは良かった、また取ってくるから今日は沢山食べるといい」
「うん!おとうさんとおかあさんにも、たべさせてあげたいなー」
「レオくんの両親も出稼ぎに行っているんだろう?帰って来るのは秋か?」
「もりのはっぱが、きいろくなったらかえってくるよ」
「そうか、もう少しの辛抱だな」
祖父母が居るとはいえ、こんなに小さな子が半年も親に会えないのは寂しいだろうな。俺なんて、一週間祖父母に預けられただけで、大泣きした覚えがる。
出稼ぎに行かなくても良い生活が出来れば良いが。俺達で何とかできないだろうか……。
「……セバス、悪いけど村長を呼んで来てくれないか」
「はい、旦那様。少々お待ちくださいませ」
セバスが村長の元へ向かうのを見送っていると、村人と話していた洋介がこちらを向いた。
「カイト殿、どうかしたんですか?」
「出稼ぎに行っている人達を、雇用できないかなと思ってさ」
「カ……カイト様!本当ですか!」
洋介と話していた村人が驚いた声を上げると、隣のテーブルにいた村人たちが何事かとこちらへ視線を向けた。
そこへ、セバスに連れられて村長がやって来た。
「あのう……、カイト様。どうかされましたか?」
その場の雰囲気に動揺している村長を落ち着かせるように、俺は微笑んで座るよう促した。
「実は、出稼ぎに行っている人たちを俺達が雇用できないかと思いまして」
「ほ……本当でございますか!」
「はい。ただ、今思い付いただけなのでどんな仕事をしてもらったらいいか、皆さんと相談しようと思って来てもらったんです」
俺の趣旨を理解した村長は安堵の表情を浮かべ、隣のテーブルにいた村人たちは話に加わりたいと、テーブルをくっつけてきた。
かくして、雇用に向けての作戦会議が始まったわけだ。




