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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第一章 エミジャ村の夏

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47 伝えたい気持ち

 怪奇現象が収まるのを見届けてから視線を上に移動させると、ゲーム内と同じく枝には生い茂った葉と共に、丸々と育ったリンゴたちが重そうに実っていた。

 真っ赤に熟した艶やかなリンゴは、まさに魅惑の果実。手を伸ばさずにはいられない。


 ゲーム内では単なる装飾アイテムだったので、収穫することは出来なかったが。


 試しに一個もいでみると、バラと同じくもいだ場所からまた小さなリンゴが出てきた。

 この様子だと全て収穫しても、一日も経てばまた収穫できそうだ。


 もぎたての良い香りのするリンゴにかぶりついてみると、歯ごたえのある果肉から果汁が滴り落ちる。


「やばい……めちゃくちゃ美味い」


 これはエミリーが住み着きそうなレベルだ。


 そう思っていると、本当にエミリーの声がしてきた。幻聴か?と思いながら振り返ると、本物のエミリーがこちらへやってくる。


「マスター!」

「どうした?エミリー」

「わたくしそろそろ夕食の準備をしたいので、セーラ様のお相手をお願いできないかと思いまして」


 エミリーは決めた当番に関係なく毎食、食事……というか、スイーツを作りたいようだ。


「あぁ、良いよ。スイーツを作るなら、ここのリンゴを全部使ってもいいぞ」

「まぁ!嬉しいですわ!今日はリンゴのお菓子にいたしましょう!」


 エミリーが広げたエプロンにリンゴをとりあえず十個ほど入れてやると、彼女は嬉しそうに屋敷へと戻っていった。


 ――さて、セーラの相手と言われたが、洋介に色々言われた後だと何となく気まずいな……。




 庭へ戻ると、セーラは花壇に腰かけてバラを眺めていた。

 愛おしそうに見つめているその表情から、本当に花が好きなのだと伝わってくる。


 ――やっぱりこのまま遠くから眺めていたほうが、絵になるのではないだろうか。


 そんな事を思っていると、セーラがこちらへ気が付いて立ち上がる。

 ここで引き返すわけにもいかないので、セーラの元へ向かった。


「呼び出してしまってごめんなさい。カイトとこのお庭をお散歩したくて……」

「構わないよ。行こうか」


 そう言いながら、自然と手を差し出した自分に衝撃を受ける。


 ――何だこの手は!ジェントルマンかよ、俺!


 早くも西洋風な異世界の雰囲気に飲まれている自分が怖い。


 しかし、今のは完全に身に付いた動作という感じだった。

 きっと俺が転生する前のこの体は、そういう事を普通にしていたんだろうな……。

 前の体の持ち主は、ヘタレでは無かったようだ。


 道が悪い場所でもないのに手を握るなんて、嫌がられていないだろうかと思いながらセーラの表情を確認してみたが、彼女はそれより散歩するのが嬉しいのか柔らかい表情を浮かべていた。


 散歩といっても、立ち止まって花を眺めつつゆっくり歩いても十分程度で見終わる広さだ。


 セーラは立ち止まってはバラに関して色々と話しているが、申し訳ないが俺はそれを半分も聞いていなかった。


 俺はそれより、ある考えで頭がいっぱいだった。

 洋介に言われたからというのもあるが、二人で俺が作った庭を散歩している今、絶好の告白タイムなのではないかと。


 この前、不発に終わった告白の続きを、今ならまだ間に合うはずだと俺の心の中にいる誰かが煽っている。


 今度はセーラの事が好きだとはっきり伝えて、付き合ってもらえるかどうかも聞かなければならない。

 この前みたくセーラに逃げられないよう、しっかり手を握っている事も重要だ。


 このまま歩いて、池の前まで来たら実行に移す。


 そう決意しながら池の前にたどり着いた俺は、力が抜けたようにセーラから手を離した。


「……やっぱり無理だ~~~!」

「どうしたの?カイト。どこか調子が悪いの?」


 頭を抱えて叫んだ俺を、セーラは心配そうに見つめる。


 突然叫びだすなんて俺はどうかしている。慌てて取り繕ってみるも。


「あ……すまない。封印したはずの邪眼が疼き出してしまったもので……」

「ふふ、カイトの中二発言を久しぶりに聞いたわ」


 誤魔化すつもりが中二発言になってしまった!もう泣きたい。


「いや、今のは忘れてくれ……」

「お散歩中ずっと上の空だったけれど、どうかしたの?」

「そ……そうか?一日中外で作業していたから、疲れたのかな……ははは」

「ここまで綺麗にするのは大変だったでしょう?私達の為にありがとう、カイト」

「あ……いや、喜んで貰えて俺も嬉しいよ」


 やばい、頭の中が真っ白すぎて何も浮かばない。先ほどまでの計画が何一つ思い出せないぞ!

 やはり俺には告白なんて大それたことは無理なのか。


「あのね……私、カイトとこの世界で出会えて毎日がとても楽しいの。ゲームの中でも毎日楽しく過ごしていたけれど、現実でこんな風に出会えるなんて思っていなかったから、本当に嬉しいわ」


 まるでタンポポの綿毛でも飛ぶようにふわっと微笑んだセーラを見て、俺の焦りも一緒にどこかへ飛んで行ってしまった。


 俺は何故、こんなにも急いでいたのだろう。

 周りや雰囲気に流されて無理に言葉を探して告白したところで、それで俺の想いが伝わるとは到底思えない。


 それより今、伝えたいのは。 


「俺も同じ気持ちだよ。セーラと現実で毎日会えるなんて思ってもみなかったし、毎日がとても新鮮だ」

「これからもこの屋敷で楽しく暮らせると良いわね」

「そうだな、よぼよぼの爺さんになっても、セーラや皆とここで暮らしていたよ」

「ふふ、私がしわくちゃのおばあちゃんになっても、こうして一緒にお散歩してくれるかしら?」

「あぁ、もちろんだよ」


 セーラとずっと一緒にいたい。


 遠まわしな言い方になってしまったが、これが今俺が伝えられる精一杯の言葉だ。


 そして彼女も少なからず、これからもここで暮らしていたいと思っている事が確認できただけで、俺はこの上ない幸せな気持ちになれた。

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