46 無自覚なカイトと畑
っとは言いつつ屋敷へ戻った俺は、窓から存分にセーラ達の様子を眺めることにした。
ストーカーと思われないか心配だが、あの空間を作ったのは俺だ。これくらいは許されるだろう。
バラの色には無い、薄い紫色の髪の毛をした二人は、バラ園のアクセントとしてとても映える。
談笑しながらお茶を飲み、クリームでも付いているのだろうか、エミリーの頬に触れているセーラはまるで双子の姉の様だ。
庭園に舞い降りた双子の天使。
二人をモデルに、そんな題名の絵画を誰か描いてほしい。部屋に飾りたい。
「おや、カイト殿はお茶会に参加しないのですか?」
いきなり声をかけられて、驚きながら後ろを振り返る。声の主は洋介だ。
「あの空間に俺が入ったら台無しだろう。俺はここから眺めているだけで幸せなんだ」
「そうでしょうか……、姉上は喜ぶと思いますが。ところで、姉上には何と言って渡したんですか?あの庭」
洋介はにやにやしながら隣に立ち、窓から庭の様子を眺めた。
「何って、刺繍とか色々世話になったから、そのお礼だと」
「はぁ?カイト殿、正気で言っているのですか!?」
「へ?なんか変だったか?」
洋介は突然、声を荒げたかと思うと、床にへたり込んだ。
「あんな大きな花束を渡しておいて、ただのお礼だなんて信じられません……」
「いや……言ってる意味が分からないのだが……」
そう返すと、洋介は勢いよく立ち上がり俺の両肩に掴みかかった。
感情の起伏が激しすぎるぞ、洋介。
「カイト殿は、プロポーズ級の場を用意しておきながら、それをただのお礼に使ってしまったのですよ!」
「……俺、そんなにすごいシチュエーションを作っていたのか?」
プロポーズと言えば夜景というイメージだが、バラ園でも成り立つのか?
「そうですよ!無自覚にもほどがあります!ったく、事前に聞いておけばよかった……カイト殿を信じた僕がバカでした……」
「……そこまで言わなくても良くないか?洋介くん」
二人は喜んでくれたのに、何故こんなにも俺の評価が落ちる?
「はぁ……もう少し先の事も考えてみてくださいよ……。プロポーズ……いえ、告白でもいいです。その時にこれ以上の場を用意できますか?」
「これ以上の……?」
さっきも思ったように俺の中で、プロポーズと言えば夜景だ。夜景が綺麗でちょっと高級なレストランとか定番だろう。
綺麗な夜景ならこの世界でも都会へ行けばあると思う。だが、今回はこの庭を俺自身が作ったのだから、夜景も俺自身が作る必要があるのではないだろうか。
――うん、普通に無理だ。
きっと、すでに作られた物を見せても、セーラはがっかりする筈だ。
俺は知らぬ間に、告白の難易度を上げてしまったようだ!
「すみません、洋介先生。俺がバカでした……」
「理解していただけたなら良いです。……まぁ、これで姉上の好感度がグンと上がったとは思いますよ。姉上は、ああいうの大好きですから」
「そっ……そうか?それならいいんだ……」
今回の目的は純粋にお礼であって好感度アップが目的ではないが、上がる好感度はいくらでも上がってくれて構わない。
洋介の説明だと俺は完全に詰んだようだが、セーラが喜んでくれたなら俺としては満足だ。
「俺、畑の様子を見てくるよ。洋介は屋根作りは終わったのか?」
「様子を見に来ただけなので、僕も戻ります」
どうやら洋介は俺を気にして見に来てくれたようだ。
せっかく来てくれたのに、洋介が思うような展開にならなくて申し訳なかったな。
セーラとの事ではいつも気を遣ってくれているが、洋介はそんなに俺を兄したいのだろうか。
俺を兄にする為に姉を差し出そうとするなんて、俺も随分と懐かれたものだ。
洋介とは裏口で別れて、俺は真っすぐ畑へと向かった。
除草作業はすでに終わっていて耕し作業はまだやっているが、耕されていない場所を見つけては鍬を入れているようだ。
大体は終わっているのか、うろうろしているだけの者が多い。
「今日はこのくらいでいいか。皆!今日の作業はこれで終わりだ。鍬はここに置いて、各自屋敷へ戻ってくれ」
鍬を持っていたサポキャは俺の前に鍬を置き、それぞれ屋敷へと戻っていった。
彼らに食事は必要ないし自我があるのか不明だが、屋敷の中で仕事を与えていない時は、うろうろしたりイスに座ってみたり自由に過ごしている。
たまに俺の部屋まで入ってきて、ソファーでくつろいでいたりする様子はまるで猫のようだ。
実際、二足歩行の動物型なので猫の容姿をした者もいるが。
サポキャを見送り鍬をポーチにしまってから、俺は畑を見渡した。
指示通り半分は耕してあり、もう半分は除草しただけだ。
現状、野菜は村人から貰えるので、村の畑に無い物を植えようと思っている。だが、まずは気になっていたものをポーチの中から探し出した。
ハウジングアイテムには庭を整える為の物も数多く用意されていた。
庭を畑にすることも出来たが、飾りとしての木を植えることも可能で、装飾としての木の中には果樹も数種類あった。
――果たして、これを植えたらどうなるのだろうか。
とりあえずリンゴの木を選び取り出してみた。
木を植えるなら穴を掘らなければならないから、大きさを確認しなければならない。
その為に取り出してみたのだが、ポーチから出てきたリンゴの木は地面に着地すると、木の根がうようよと動いて土の中へと入っていった。
「気持ちわるっ!」
課金アイテムじゃなくても、ゲーム内アイテムというだけで十分に怪奇現象の要素はあるようだ。




