44 畑と厨房
庭は育つのを待つだけなので、俺はサポートキャラを引きつれて屋敷の奥にある畑へと向かった。
木々に囲まれたそこは、ダンジョン前広場と同じくらいの大きさはある畑だ。ここも手入れは放棄されているので荒れ放題になっている。
「まずは、雑草の除去だな。皆、ここの除草作業をしてくれ!」
ここは庭と違って、背丈の高い雑草がわんさか生えているので少し時間がかかりそうだ。
しばらく彼らに任せて再び洋介の元へ向かった。
厨房へ入ると、がらりと雰囲気が変わっていて驚いた。
「壁紙を貼ったのか。明るい雰囲気になったな」
「姉上のハウジングアイテムなので少女趣味ですけどね」
青みがかった薄い緑色に白い花の模様がびっしりと入っている。
少女趣味とは言うが、色がピンクとかではない辺り、一応は俺達にも配慮してくれているのではないかと思われる。
「それにしても、この壁紙すごいんですよ!ザラザラの面に貼っても剥がれませんし、いくら使っても減らないんです!そして……、適当に貼っても不思議と柄が、ぴったり合うんです……」
最後の方はまるでお化けでも、見たかのような表情で青ざめる洋介。
確かに、普通ならこのロールが何本も必要なはずだ。
洋介が手に持って見せたロール状の壁紙は、この部屋全面に貼ったにも関わらず、未使用の如くたっぷり残っていた。
「柄でも動いたのか?」
「そりゃもう……自分の半身を探すかのように、うようよと……」
「……さすが課金アイテム、訳が分からないな」
課金アイテムというよりは魔法アイテムと言うべきか、非現実的な課金アイテムだらけのこの屋敷は、まるで魔女の住む館のようだな。
そのほかは特に問題なく作業を終えたようだ。
コンロは暖炉の中にとりあえず設置してあるのだが、これはそのままにするそうだ。
換気扇が無いので、暖炉の煙突をそのまま利用している。石で囲まれているので壁紙に引火する心配もなさそうだ。
流し台の横には作業台があり、その上に電子レンジや調理家電が並んでいて、その隣に冷蔵庫がある。
部屋の真ん中にも大きな作業台があり、向かいの壁には食器棚が設置されている。
食器はゲーム内の料理を消費すると残った食器がどんどん増えていく仕様だ。
カツ丼千個を完食した暁には、どんぶりを千個ゲットすることになるだろう。
昼食を済ませ、午後も俺は引き続き畑の整備だ。
作業の進捗具合を見に行くと、三分の二ほど除草作業が終わっていた。
「二十匹ほど、こちらへ来てくれ!」
作業中のサポキャに声をかけると、半分くらいがこちらへやってきた。
俺はポーチから、この前セバスに作ってもらった鍬を取り出し、次々とサポキャに配っていく。
二十本渡し終えたところで、鍬が当たらなかった数匹には除草作業に戻ってもらった。
次に畑を二つに分けるため、中央に端から端まで棒で線を付けた。
「ここから木々に囲まれている所まで鍬を使って耕してくれ」
サポキャ達はそれぞれ自由に畑を耕し始めた。
これでは耕し残しが出来そうだが、ここに植えるのもゲーム内アイテムだし何とかなると思う。
またも、することが無くなったので、洋介の元へ戻る。
彼は午後、露天風呂に屋根を付ける予定だそうで、セバスも手伝うと張り切っていた。
すでに作業を始めているようで、先ほど森から木を切る音がしていた。俺はそちらへ足を向けた。
「おぉ、かなり板が出来上がっているな」
今は切り倒した木をカットして板を作る作業をしていた。
洋介とセバスが道具を使って、サポキャ数匹が板を運ぶ作業を手伝っている。
普通は板を作るには、切り倒した丸太を長期間乾かす作業が発生するが、ゲーム内の道具を使えばそれが不要らしい。実にありがたいご都合主義仕様だ。
「もうすぐ板は揃うので、組み立て作業に入れそうですよ、カイト殿」
「そうか。それにしても、よくこんな綺麗な板が作れるよな」
「そりゃ僕とセバス殿は木工Sランクですから、このチェーンソーでちょちょいのちょいですよ!」
ニヤリと笑った洋介は、緑色のボディーのチェーンソーを手に持つと、あっという間に板を作り上げた。
途中、見ていた筈なのにぼやけて認識できない部分があったが、とにかくチェーンソーだけで板が出来上がった。
寸法はどれもぴったり同じ、表面はずっと触っていたくなるほどつるつるだ。
「カンナとか使わないのかよ!」
「どの道具を使っても出来栄えは同じですが、チェーンソーが一番早く完成するみたいです」
ちなみにこのチェーンソーはハウジングアイテムで、ゲーム内では単なる飾りだ。
「Sランクとゲーム内アイテムがあれば、後は適当でいいんだな……」
非常識すぎて、とても村人には見せられない作業風景だ。




