43 庭の整備
翌日、今日はダンジョンを休みにして各自、やりたいと思っている作業をすることにした。
昨日のダンジョンで俺達はDランクになったので、Dランク装備をポーチから取り出せるようになったセーラは、エミリーと一緒に刺繍をするそうだ。
洋介は中途半端なままの厨房を、使いやすいように改造するのだと張り切っている。
セバスには、村人へ渡す包丁とハサミ作りを任せ、俺は屋敷の前庭へ来ていた。
雑草で荒れ果てたこの庭は、よく見れば細い川が流れていて中央には池がある。整備すればかなり雰囲気の良い庭になる筈だ。
俺は後ろに控えているサポートキャラ五十体に視線を向けた。
「さぁ皆、ここにある雑草を全て抜いてくれ!」
俺の指示を聞くと、サポキャ達は一斉に庭の除草作業除を始めた。雑草ではない植物も抜かれるとは思うがそれは想定内だ。
ぬいぐるみのような彼らは細かい作業には向いていないが、人海戦術には大いに役立ってくれる。この広い庭でも一時間もあればきれいに除草されるだろう。
ここはしばらくサポキャに任せて、俺は洋介の作業を見に行った。
「うまく取り払えたようだな」
壁に備え付けられていた流し台が、綺麗に取り払われているのを確認しながら洋介に声をかけた。
「はい、軽くハンマーで叩いたらあっさりと壊せました」
満足げにハンマーを手に握っている様子は、とても見た目が貴族の所業には思えない豪快さだ。
「そうか……、排水溝は使えそうか?」
「ここにホースを通して、隙間を埋めれば大丈夫だと思います」
洋介がやろうとしていたのは、備え付けの流し台をハウジングアイテムの流し台に変える作業だ。
備え付けの流し台では蛇口が無い為、いちいち井戸から水を汲んでくる必要があった。
そして、ハウジングアイテムの流し台は蛇口から水が出る便利仕様だったが、排水処理はする必要があったので、今こうして付け替え作業をしているわけだ。
ここへ引っ越してきてからはダンジョンが忙しかったので、ずっと流し台を外に置いて使っていたのだが、今日からはやっと屋内で使用することが出来る。
すでにセーラから、ここに設置するのにちょうど良い流し台を受けとっている洋介は、ポーチからそれを取り出した。
細かい調節作業を手伝ってから、俺は次にセバスの様子を見に行った。
「マスター、包丁とハサミは出来上がりました!」
「ありがとう、セバス。相変わらず早いな……」
十本ずつ頼んだが、小一時間ほどで完成したようだ。
出来具合を確認をしてみたが、店で売ったら高く売れそうな素晴らしい出来だ。
「これを村まで届けてもらえるか?広場の横にある家で何人か作業をしている筈だ」
「お任せくださいませ、マスター」
これで村人の作業も捗るだろう。
村に向かうセバスを見送ってから、作業中の庭へと戻った。
サポキャに任せた除草作業は半分ほど終わっていた。
雑草が取り払われて綺麗になると、あちこちにレンガで囲まれた花壇が出現していた。さほど傷んではいないようだし、このまま使えそうだ。
俺は、マジックポーチからママンプKという肥料を取り出した。
これは課金アイテムで、『ママでも簡単にガーデニングを楽しめる肥料』と書いてある万能肥料だ。そこまで大量にはストックしていないが、今回は惜しげもなく使う予定だ。
種を植える際に使う肥料は土の中に混ぜ込む必要があるが、これは課金アイテムなので適当に撒くだけでいい気がする。万能だから。
試しに撒いてみると、ふかふかの土が完成した。
さすがは課金アイテム、土の改良までこれで網羅できるようだ。
次にバラの種を取り出した。花壇ごとに色や品種を変えて撒いていく。
それから、じょうろを取り出して池の水を汲んでから、じょうろの中にハイパーネクストという液体肥料を溶かし込んだ。
これも課金アイテムで、『すくすく育ちすぎる液肥』と書いてある、植物の成長を促進させるものだ。
成長速度は植物学のランクに比例するので、これは俺自ら撒く事が重要だ。
ゲーム内ではこのアイテムを使って数時間で開花まで持って行けたが、現実では果たしてどれくらいで開花するだろうか。
液肥を溶かした水を花壇に撒き終わる頃には、もう半分のエリアも除草作業が終わっていた為、同じ作業を繰り返した。
もう半分も終わる頃には、初めに撒いた種は芽を出し始めていた。このペースだと今日中には開花出来る気がする。
一連の作業が終わり、視界が良くなった庭を見渡して、俺はふぅっと一息ついた。
何故、こんな事を始めたかと言うと、昨日セーラにお礼をしようと考えた時に、思いついたのがこれだったからだ。
セーラは花を愛でるのが好きだと言う事は、長年の付き合いで既に把握している。
現状で一番良さそうなお礼は庭の整備だろうと思いついたのだが、果たして喜んでもらえるだろうか。




