41 食欲は可愛いに勝る
セバスのトラウマになっていないか心配な夕食も終え、今は食後のスイーツタイムだ。夕食の風景と大差ないのは気のせいではない。
「食後のスイーツは別腹と申しますが、本当にいくらでも食べられますわね」
「ふふ、エミリーちゃんはスイーツが大好きなのね。このケーキ、とても美味しいわ」
女子はキャッキャと紅茶を飲みながらスイーツを楽しんでいるが、エミリーは夕食時もスイーツしか食べていない。
どこで別腹の線引きをしているのか気になるが、聞いたところで理解できそうにないと思うので聞かないでおく。
そんな二人を眺めつつ、雑談をしたり洋介の矢の組み立てを手伝ったりしながら時間を潰し、二十二時少し前。
モンスターの部屋からカランっと音がし、全員の視線がそちらへ向いた。
「十二時間湧きで決定のようだな」
「二十四時間じゃなくてよかったですよ、それだと毎日同じ時間に倒さなきゃどんどん湧き時間がズレて面倒ですから」
洋介の言葉に、過去にそんなレアモンスターが居たなと思い出す。
湧き時間を知っている特定の人だけが狩れる状態になってしまって、結局は湧く時間がランダムになったんだよな。
最近はイベント限定ダンジョンばかり出していた運営だったが、昔はレアモンスターばかり出していたのが懐かしい。
皆で手分けして出したアイテムをポーチにしまい、部屋の入り口へ移動した。
入り口から部屋の中を覗いた俺達は、視線が天井に釘付けとなった。
モンスターは一体どこから現れるのだろうと少し気になっていたのだが、天井の隙間から雫が落ちるように、スライムが滲み出てきては床にぽたっと落ちている。
天井のあちこちから滲み出てくる色とりどりのスライム達は、透き通った体が部屋の灯りに照らされてとても艶やかだ。
「出現方法がリアルですね、さすがは現実です」
「床に落ちる様子が可愛いわ」
感想を述べている洋介とセーラの後ろで、セバスとエミリーも食い入るようにスライムが現れる様子を見ている。初めてのダンジョンでこれを見られた二人は幸運と言えるだろう。
初めての光景に、俺も思わず見入ってしまう。
ダンジョンの隙間を縫ってここまでたどり着くのか、もしくはここで生まれるのか。どちらにせよ、始まりを見られたのはとても貴重な体験だ。
しばらくかかっていつも通りの数が湧くと、それ以上は天井から滲み出て来なかった。
「よし、時間も遅いしぱっぱと終わらせて屋敷へ帰ろう。洋介頼む」
「了解であります!」
各自武器をポーチから取り出すと、洋介は弓を構えて部屋の中へ飛び込んだ。
「ガストアロー」
「ヒール」
このダンジョンも三周目ともなればもう慣れたものだ。二人も全く気合の入らない声でスキル名を唱える。
ちなみに、巨大スライムに飲み込まれた際に、声に出さなくてもスキルは発動すると判明したが、ヒールをかける都合上なるべく口に出そうと話し合いで決まった。
スライムが一掃されると洋介とセーラは、慣れた手つきでスライムの皮を回収し始める。
セバスとエミリーにも皮拾い体験をさせてやろうと思って、二人に視線を向けた俺は思わず一歩後ずさった。
「ちょ……二人共、何故泣いているんだ!」
「だって……ひくっ、あんなに可愛いスライムでしたのに……可愛そうですわ……え~ん」
「洋介様の……無慈悲な攻撃には、圧倒されてしまいました……ぅぅ」
エミリーは人目もはばからず思い切り泣き、セバスはハンカチで目頭を押さえている。
「湧き方がちょっと感動的だったから、仕方が無いか……」
「僕、完全に悪者ですね……」
皮を拾い終えた洋介は、二人の視線を受け肩を落とした。
姉として慰める気は無いらしいセーラは、彼の横を通り過ぎ一直線にエミリーの元へ向かった。
「エミリーちゃん、泣かないで!スライムの皮で作ったスイーツはとても美味しいのよ」
「スイーツ?……あの子たちは食べられますの?」
スイーツに反応してぴたりと泣き止んだエミリーは、期待を込めた視線でセーラを見た。
「えぇ、シロップに漬けておくと甘くて美味しくなるのよ。少し味見してみる?」
セーラはポーチから、シロップに漬けておいたらしい皮を取り出してエミリーに渡した。続いてスライムの皮の煮込みも取り出しセバスに差し出す。
皮料理を受け取った二人は、顔を見合わせてからそれを口に運んだ。
「まぁ!なんて美味しいのかしら!ゼリーよりも弾力のある食感がたまりませんわ!」
「そうですね、とても美味しいと思います!」
二人とも皮料理は気に入ったようだ。
そういえば昨日セーラが作ってくれた皮料理は、俺ばかり食べていて二人は食べていなかったのかもしれない。
無意識のうちにセーラの作った料理を独り占めしていたとは、恥ずかしい限りだ。
可愛いモンスターから、一気に食材へと意識が変わった二人はその後、率先して倒した後の皮集めをしてくれた。
皮の回収要員が増えハイペースで進んだ俺達は、あっという間にボスの部屋へとたどり着いた。
ちょうど巨大スライムも、天井から滲み出る場面に居合わせることができた。
巨大な塊がぼてっと落ちる瞬間はなかなか迫力があり、そして着地した瞬間は床が少し揺れた。
今回の巨大スライムはオレンジ色だ。それを見たエミリーはぽつりと呟いた。
「大きなミカンのようで、美味しそうですわ」
巨大スライムも、完全に食材として認識されてしまったようだ。
今週から土日も余裕がある時は更新しようかなと思うのでよろしくお願いいたいます。
誤字報告ありがとうございました!




