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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第一章 エミジャ村の夏

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40 成長の日々

 エミリーとセバスが作った料理……っというかほぼスイーツを、全てマジックポーチに収納してから屋敷を出た。


 こんな田舎では泥棒もいないだろうが、一応サポキャに俺達が帰るまで屋敷に誰も入れるなと指示を出してみた。

 サポキャに留守番する能力があるか分からないが、しないよりはマシだろう。


 辺りはすっかり暗くなってしまったので、片手にランタンもう片手にセーラの手を握り、ダンジョンへと歩き出した。


「暗いから気を付けて」

「ありがとう、カイト」


 後ろの二人も大丈夫だろうかと振り向いてみれば、セバスとエミリーも手を繋いで歩いていた。どうやら俺達を見て学んだようだ。暗い所ではこうするのだと認識したのだろうか。


 二人は大人の容姿をしているし必要な知識は入っているようだが、その他は子供と同じなのかもしれない。

 二人の教育の為には、あまり変な行動はとらないよう気を付けたほうがいいな。


「……転生した日も、カイトはこうしてくれたわよね。あの時は、とても嬉しかったわ……」


 セーラは思い出したようにぽつりと呟いた。

 まぁ、あの時は腕を貸すつもりだったのだが、思いがけず手を繋ぐことになってしまって大慌てしたんだよな。

 あれから数日しかたっていないが、俺はこうして自然と手を繋げるほどには成長したらしい。


「あの時は、ランタンの存在なんて思い浮かばなかったから苦労したよな」

「ふふ、今となっては良い思い出だわ」


 もう一歩踏み出してみたら、俺とセーラの関係も何か進展があるのだろうか。

 恋愛経験ゼロの俺には、どのような一歩を踏み出したら良いのか、見当も付かないが。




「今度は、ちゃんと起きていたようだな」


 ダンジョンへ到着し、階段を下りて廊下を進むと、洋介が何かをしているのが見えた。


「二人ともお帰りなさい。おや、セバス殿とエミリー嬢もいらっしゃったのですね」

「時間もかかりそうだし連れてきた。まだ湧いていないようだな」


 部屋に視線を向けると、まだ器用に立てられた矢が直立したままだ。


 現在の時刻は十九時を、少し過ぎたところだ。


「ここまで湧かないとなると、十二時間に一度か二十四時間に一度といったところでしょうか」

「その可能性が高いな。どちらにせよ一日一周しか出来そうにないな」


 レベル上げを急ぎたいわけでもないが、せっかくダンジョンへ来たのに一日一周しか出来ないのもちょっとつまらないな。


 そう思っている間に、セーラは夕食の準備を始めていた。

 大きなダイニングテーブルを出し、料理……というかスイーツを並べていく。テーブルに置ききれなくなったのか追加のテーブルが出された。


「あのう……姉上、そのスイーツは何ですか……」


 洋介の反応は極々普通のものだろう。今は三時のおやつでは無く夕食時なのだから。


「今日はエミリーちゃんとセバスさんが作ってくれたのよ」

「洋介がケーキだけでは腹が膨れないと助言したから、沢山作ってくれたそうだ」

「あー、なるほど。とてもよく理解出来ました……」


 洋介は引きつった笑みを浮かべている。エミリーの誤解を解く作業は洋介に任せる事にしよう。

 まぁ俺としては、二人はまだ人間になりたてだし、しばらくは本能のままに好きな物を食べればいいと思う。


 灯りも沢山設置するとダンジョンの廊下にいるはずが、どこか古城を改装して作ったレストランにでもいるような雰囲気になった。


「マスター、ダンジョンとはとても楽しい場所ですわね。わたくし、もっと怖い所だと思っておりましたわ」


 エミリーはほっぺにクリームを付け、満足げにケーキを頬張りながらそう感想を漏らした。


「まぁダンジョンは楽しいが、今の状況はかなり特殊だな。普通は家具を出してのんびり食事なんてしないし、強いモンスターが出るダンジョンだとエミリーの想像も間違いではないだろう」


 俺はそう言ってからエミリーが作ったピザにかぶりついた。さすがはSランクの料理、とても美味い。

 これにビールがあれば最高だが、あいにくゲーム内のアイテムにビールは存在しない。町へ行った時に出会えないだろうかと、ひそかに期待をしている。


 セバスはピザを取り皿に移してから心配そうに俺を見た。


 ちなみにセバスは食べ物を選ぶ方法として、俺と同じものを食べるという技を習得したようだ。

 相変わらず自主性は無いが、言わなければ何も手を付けられなかった時よりは成長したようだ。


「マスター、食事中に襲われたりする事はございませんか?」

「このダンジョンは廊下にモンスターは出ないから安心してくれ」

「そうでございますか」


 ほっとしたように微笑んだセバスは、俺の真似をしてタバスコを手に取り「あ……」と、俺が注意しようとするよりも早く、バシャバシャ振りかけ口に運んでしまった。


 危惧した通り、彼の顔は一瞬にして赤くなってしまう。


「悪い……セバス。俺、辛い物好きなんだ……」

「とれも刺激的な味れ美味しいれす……マスター」


 舌がヒリヒリしているのが伝わってくる喋りだ。


「大丈夫?セバスさん、お水を飲んだ方が良いわ」

「申し訳ありまへん、セーラ様」

「セバスさん、お口直しにこちらをどうぞ」

「ありがとうございます、エミリーさん」


 セバスはセーラから受け取った水を一気に飲み干してから、エミリーの差し出したプリンを掬って食べた。


「うっ……とても甘くて……美味しいですね、エミリーさん」


 険しい表情になったセバスは、どうやら甘いものも苦手らしい。

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