39 留守番の二人
俺とセーラは、作業をしてくれる村人に薬草とスライムの皮を渡すためダンジョンを出た。俺一人でも良かったのだが、ヒールが必要だということでついてきてくれるらしい。
確かに村と屋敷を回ってダンジョンへ戻るとなると、結構疲れるのでありがたい。
村では干す準備をして待ってくれていた八人に出迎えられた。
「お帰りなさいませ、カイト様セーラ様。こちらで作業を行う予定でございます。どうぞご覧くださいませ」
村長自ら作業のリーダー役を務めるようで、作業場へと案内してくれる。
薬草やスライムの皮は干す前に洗う必要がある為、広場の水場に近い空き家を作業場としたようだ。
中に入ると、作業台や道具が一通り運び込まれていて、いつでも作業を始められる状態になっていた。
「足りない道具があれば言ってください。鍛冶は俺達何人か出来るんで一通りの物は作れます。今回の作業と関係なくても必要な物があれば請け負いますよ」
「ありがとうございます、カイト様。ですが現在、村には鍛冶場が無いもので……」
「一通りは持ってきてあるので大丈夫すよ」
そういうと、村長は変な物を見る目で俺を見た。どうやら鍛冶台や炉は普通持ち歩かないらしい。
村長は定期的に作業を請け負うなら、包丁やハサミがあるとありがたいと言った。ここにあるのは家で使っている物を持ち寄ったらしく、数にあまり余裕がないらしい。
明日中には人数分そろえられると言ったら、さらに変な目で見られてしまった。普通はもっと時間がかかるようだ。
改めて考えてみると、セバスの矢じりを作った速度は明らかにチートだったが、セーラの刺繍速度も現実の世界と考えれば十分にチートレベルだろう。
ここはゲーム世界ととても似ているが、ゲームの中ってわけじゃない。そう考えると俺達の生産スキル――特にSランクの生産スキルは尋常ではないと考えたほうがいいのかもしれない。
作業場に薬草とスライムの皮を置いて、次は屋敷へと向かった。
「お帰りなさいませ、マスター、セーラ様。おや、洋介様はどちらへ?」
出迎えてくれたセバスは、二人しかいない事に気が付き不思議そうに俺達を見た。
「洋介はまだダンジョンにいるんだ。ちょっと調べたい事があって俺達もこれから戻る予定で、帰りが遅くなると連絡しにきたんだ」
「そうでございましたか、お戻りは何時ごろに?」
「そうだな……場合によっては明日になるかもしれない」
湧き時間が二十四時間だと確実に帰るのは明日の昼頃になるだろう。そう話すと、セバスは残念そうな顔になった。
「どうかしたか?」
「実は、皆様の帰りが夕方のご予定でしたので、エミリーさんと夕食の準備をしてお待ちしておりましたが、皆様がこちらでお食事を取られないのでしたら、食材が無駄になってしまいました。申し訳ありません」
セバスは深々と頭を下げて謝罪する。
今の説明によると謝る必要は何一つ無いと思うが、セバスらしいとは思う。
「急に予定を変えた俺達の方が申し訳なかったよ。せっかく作ってくれた夕食だし、ポーチに入れてダンジョンで食べようかな……」
と言うと、セーラが俺の腕をぽんぽんと叩くので視線を向けると、彼女は背伸びをして俺に耳打ちする体勢を取った。
――耳が……耳がぁ……とても幸せだ。
セーラの話を聞き終えると、俺は笑顔で頷いた。
「良かったらセバス達も、ダンジョンへ一緒に行かないか?ダンジョンに行くまでの森はあまりモンスターが出ないし、出たとしても俺一人で倒せるから危険はない。ダンジョンも特に危険はないから安心してくれ」
ダンジョンに危険が無いとは変な表現だが、実際あのダンジョンは危険がとても少ない。部屋に入らなければ完全に安全が確保されるので、一般人の見学にはとても適したダンジョンと言えよう。
食材を無駄にした事でしょんぼりしていたセバスは、一気に顔が明るくなった。
「是非、お供させてくださいマスター!」
随分と嬉しそうな返事だ。
初めてポーチから彼を出した時に、ギルドの本拠地で俺達が帰るのを指折り数えていたと言っていたから、俺達と行動を共にするのはセバスにとっては嬉しいことなのかもしれない。
食事の準備を続けているというエミリーにも伝えるため厨房へ向かうと、そこはまるでスイーツビュッフェのような状態になっていた。
「こ……これは、どういう状況だ?エミリー……」
「マスター、お帰りなさいませ!昨日、洋介様がケーキだけではお腹がいっぱいにならないと教えてくださいましたので、色々な種類のお菓子を作ってみましたの!」
主食はケーキにクッキー、口直しにマカロンやシュークリーム、水分代わりのゼリーとプリン、甘い物だけじゃなくてしょっぱい物も食べたいわというニーズに答えて、ピザとパスタといったところか。
一体、どこでその情報を得たんだエミリーよ。
「な……なるほど。セバスはどれを作ったんだ?」
「私は何を作って良いのか分かりませんでしたので、エミリーさんのお勧めでこちらのケーキを作らせていただきました」
セバスが指さしたケーキは、独創的なデコレーションのケーキだった。美的センスはSランクでは補う事が出来ないようだ。
この自由奔放さを見る限り、どうやら俺達が居ない間も、二人で楽しく過ごしていたようだ。
一話目の前に人物紹介と設定を入れてみました。
さほど設定も無いのですが、これなんだっけ?という時に良かったらどうぞ。




