03 現在位置
俺の全速力も空しく洋介はあっという間に、スライムに飲み込まれてしまった。
液体の中に浮いている洋介はまだ目覚めていない様だが、あんな状態ではすぐに窒息してしまうだろう。
――スライム如きに洋介を食われてたまるか!
俺は全力疾走のまま槍を構えると、そのままスライムめがけて突進した。
「スライムめ!串刺しにしてやるー!」
洋介には当たらないように気を付けながら、スライムを槍で突き刺した。
先ほどと同じくスライムの中身が流れ出し、それと一緒に洋介も流れ出て来るのを確認すると、俺は一気に力が抜けてよろけそうになるが、槍を杖にして何とか踏みとどまった。
全速力で走ったので、またも息が上がっている。
本当に運動不足だな……と思ったが、今の俺はゲーム内の容姿をしていると先ほど確認を取ったし、三十代の体ではないんだよな。
――SSランクの俺にしてはひ弱すぎないか……?
そんな事を思いながらも洋介に目を向けると、スライムの液体まみれだった彼は、スライムが消え去るのと一緒に液体も消えたようですっかり乾いていた。
なんというか……、ご都合主義仕様でありがたい。
「カイトー!洋介は大丈夫ー?」
「あぁ、肺が動いているから生きてはいると思う」
後ろから駆けてきたセーラは安心した様子で到着すると、洋介の横に屈みこんだ。
「洋介、朝よ。早くしないと、会社に遅刻しちゃうわよ?」
「はうえ!?今、何時だ!?今日は朝から会議なのに!!あれ?俺のスーツも鞄も無いぞ!どこ行ったんだ!」
洋介は飛び起きると右往左往し始めた。
さすがは社畜、こんな森でも最初に探すのはスーツと鞄なんだな。
パニックになっているようで頭を抱えている洋介の肩に手を置いた。
「落ち着け、洋介。お前は社畜という世界から解き放たれたんだ……、卒業おめでとう」
「カイト……殿?それに、セーラ嬢も……。それは、どういうことですか?」
やっと俺たちに気が付いたらしい洋介は、不思議そうに俺達を見た。
「俺達はどうやらあのゲームに似た世界に転生したらしい」
「何と……!やはりあの時は僕……。ところでお二人の容姿から察するに、僕ももしかして……?」
「そういうことになるな。イケメン公爵」
彼は自分の顔や髪の毛をペタペタ触れると納得した様子で、叫んだ。
「うおおおおおお!ついに僕は勝ち組に昇格したぞおおお!」
「ふふ。皆、まず最初に考える事が同じでおかしいわね」
「そうだな。キャラは自分の理想を形にしたようなものだし、俺も正直嬉しいよ」
三十四歳独身、平凡すぎな顔に生まれた俺は唯のモブでしかなかった。
おかげで、可愛いと噂のセーラには会いたいと言い出せないまま、こんな歳になってしまったわけだが。
そういえば彼女も同い年で独身だが、可愛くて性格も良いのに相手がいないのだろうか。
二人が容姿の話題に花を咲かせている間、そんな考えにふけっていると洋介の言葉が耳に入って来た。
「いつまでもここにいても仕方がありませんし、ひとまず村へ行きましょうか」
「洋介、ここがどこだか分かるのか?」
「気が付いていませんでしたか?ここはゲームで最初に訪れる森ですよ。ほら、この大きな木はこの森にしか生えていません」
洋介が指さした木は、確かに普通の木よりも何倍も大きくて、おかげで日の光があまり差し込んで来ない。初めに思った既視感はこれだったのだと納得する。
「久しぶり過ぎて私、もう道を覚えていないわ」
「俺も覚えてないな。洋介は分かるのか?」
「お任せ下さい。僕はサブキャラ育成で何度も訪れましたから、目をつむっていてもたどり着けますよ」
二歳下の彼は、あのゲームについての知識は群を抜いて豊富なので、安心して任せても問題ないだろう。
洋介の案内で、俺達三人は冒険者がゲームを始めて最初に訪れる村へと歩き出した。
しかし、このまま村へ行っても良いのだろうか。
ゲーム内では歓迎されるが現実で同じ待遇を受けられるとは限らない。そもそも、こんな軽装の俺達が森からやって来たなんて不自然だろう。
「なぁ、二人とも。村へ入る前に少し情報を整理しないか?何も理解していないまま村へ入るのは危険だと思うんだ」
「そうですね、ゲームと全く同じとは限りませんし、初心者丸出しの装備では良いカモになりかねません」
「それなら東屋へ行かない?確かこの辺りにあったわよね。そこまで行けばもうモンスターのテリトリーからは外れているから安心だわ」
セーラの提案通り、俺達は東屋へ向かう事にした。
東屋はそこからそう遠くない場所で発見することが出来た。
ここはゲームを始めたばかりの冒険者がスライム狩りの休憩所として使っていた場所で、βテスト時はプレイヤーで溢れていたが、今は誰もいないようだ。
この世界では、冒険者は初めにここを訪れないのだろうか。
いくつも点在する東屋の一つに入ると、セーラは俺の隣に座り洋介は俺たちの向かい側に座った。
「それじゃ、今の状況を整理しようか」




