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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第一章 エミジャ村の夏

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38 幸せ空間

 因みに洋介がしていた寝落ち対策は、スライムが湧く部屋に矢を立てて並べるという事だったらしい。

 スライムが湧けば矢が倒れて音が鳴る仕組みらしいが、そんなので洋介が起きるのかは疑問だ。


 昼食を終えた後も、その矢は未だ直立したままだ。あの細い矢を立たせられるなんて、洋介は無駄に高度な特技を持っているようだ。


 現在の時刻は十三時ちょうど。


「午後はどうします?カイト殿」

「俺は湧くまで待ってみようかな。二人は屋敷に戻りたかったら戻ってもいいし、好きに時間を使ってくれ」

「私はここで刺繍をしているわ」

「僕は長丁場に備えて、昼寝でもしましょうかね。姉上、ベッドを出してください」

「ふふ、洋介はほんと寝るのが好きね」


 どうやら二人も湧くまで帰る気はなさそうだ。


 ベッドにソファー、テーブルとその上にお茶とお茶菓子が出されると、ダンジョンの廊下が完全に、くつろぎ空間となってしまった。


 俺の服に刺繍をしてくれているセーラの姿を眺めながら、二人で雑談をする午後。


 幸せってこういう事を言うんじゃないだろうか。ダンジョンの廊下だけど。


 会話が少し途切れた後、あまりの心地よさに俺はいつの間にか寝てしまっていた。

 普段は昼寝など滅多にしないが、二日ほど良質な睡眠を取れていなかったせいもありぐっすりと眠ってしまったが、なんだかフワフワした心地でとても気持ちよく眠ることが出来た。


 そして、何時間経ったのだろうか?満足して目覚めた俺は、目を開いた瞬間セーラと目が合った。


「おはよう、カイト。よく眠れたかしら?」

「……あぁ、いつの間にか寝てしまっていたようだな。ごめんな、一人で暇だっただろう」

「ふふ、カイトの寝顔を見ながら、楽しく刺繍をしていたわ」


 そう微笑むセーラを見ながら、何か違和感を覚えた。


 俺は今、仰向けに寝ていてセーラは俺の顔を上から覗き込む体勢になっている。

 そして、後頭部には温かくて柔らかい感触があり、とても心地よい。

 それらの事実から推測するに、俺は今……。


 ありえない状態に、スライムより先に俺の顔からは冷や汗が湧き出した。


「セ……セーラさん、どうして俺はこの体勢で寝ているのでしょうか……」


 俺はソファーに座った状態で寝ていたはずなのに、気が付けば膝枕!


 セーラの膝枕で寝ていたんだから、気持ちよく眠れたのは当たり前だ。


 本来なら一刻も早くここから立ち退くべきだろうが、俺の本能がまだここに居たいと駄々をこねている。


「カイトは初め、私の肩に頭を乗せて寝ていたのだけれど、途中でずり落ちてしまって膝に着地したのよ」


 セーラの肩に頭を預けて寝ていただと……、その記憶が全く無いのが悔やまれる。


 幸いにもセーラは嫌そうにしていないので、図々しくもこの体勢を維持してみる。


「そうだったのか、刺繍の邪魔をしてしまって申し訳ない」

「そんなことないわ、刺繍はもう完成したもの。けれど、そろそろ夕方だし起こさなければと思っていたの。薬草を届けなければならないでしょう?」


 そう言われてテーブルの上に置いてある時計を確認すると、ちょうど十六時半を回ったところだった。

 村人も準備して待ってくれているだろうから、あまり遅くならないうちに村へ薬草を届けなければならない。


 俺は心の中で泣きながら、もう一生出会えないであろうセーラの膝とお別れをした。


「そうだな。スライムはまだ湧いていないようだし俺は一旦、村まで薬草を届けてセバス達にも遅くなると連絡を入れてくるよ。洋介は……っと、まだ寝ているのか」

「今、起こすわね。カイトはこれに着替えたらどうかしら?」


 セーラが差し出してくれたのは、出来上がったという刺繍されたシャツとズボンだった。

 黒地に白銀の刺繍が中二心をくすぐるかっこよさだ。


「ありがとう、セーラ!早速、着替えてみるよ」


 俺が着替えている間、洋介はまたも社畜な起こされ方をしていた。どうやらセーラは、まだ異世界バージョンを考えていないようだ。


 着替えを終えた俺を見て、二人は感想を述べる。


「とてもカイト殿らしい装いになりましたね」

「ほんとね、とてもカイトらしくていいと思うわ」


 俺らしいとはイコール、中二っぽいということだろうが、セーラが刺繍してくれたこの服は本当に気に入ったので素直に嬉しい。


「ありがとう、とても気に入ったよ。セーラがせっかく刺繍してくれたんだ、大切に使わせてもらうよ」


 この世界へ来てからセーラには気を使ってもらったり、アイテム面でも随分と助けられている。

 何かお礼をしたくなった俺は、何が良いだろうかと考えを巡らせた。

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