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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第一章 エミジャ村の夏

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35 翌朝のカイト

 前日に寝ていなかったおかげで、何とか睡眠時間は確保できたが今朝の気分は割と悪い。


 昨日はセーラと洋介が恋人ではなかったと分かって、ほっと胸をなでおろす暇もなくセーラに告白してしまったが結局、返事は貰えずじまいだ。

 セーラの気持ちは分かったが、その相手は果たして俺なのか。そもそもセーラが俺を好きになるなんて事ありえるのか。


 ――こんな経験、人生で初めてだった俺には、ちょっと難易度が高すぎたよな……。


 告白のタイミングを自分で決められなかったのも想定外だし、明確な返事を貰えなかったのも想定外。

 告白したら必ずイエスかノーを貰える展開しか知らない俺は、これからどう動けばいいのか全くプランが沸かない。

 そもそも一方的に好きだと思っていただけで、セーラに振り向いてもらうプランすら無かったのだが。


 そんな事を思いながら、今は朝食の準備をしている。


 今日の朝食当番は、俺とエミリーと洋介だ。

 各自好きな物を作っているが、エミリーは昨日に引き続きお菓子を作っている。


「カイト兄上、顔色が悪いですね?どうかしたんですか」


 アスパラにベーコンを巻き付けていると、洋介が俺の元へやってきた。


 ちなみにベーコンはポーチの中にあったのを使っているが、アスパラは村人からスライムの皮のお礼に貰ったものだ。


 俺は顔を引きつらせながら洋介に視線を向けた。


「お前も露骨な奴だな……」

「何がです?昨日は設定上の弟だと認めてくれたではありませんか」


 意味ありげな笑みを浮かべているところを見ると、すでにセーラから情報を得ているのだろう。

 二人はこういう事も話せる仲の良い姉弟のようだ。


「……セーラは、どう思っているんだ?」

「僕の口から言うわけには……。ただ、名指しで言われなかったので、誰に対してなのか確信が持てなかったようですね」

「……はい?」


 あの時は告白することだけで精一杯で言葉を選ぶ余裕も無かったが。

 改めて昨日の発言を思い出してみる……。


『あぁ……、いるよ。十六年間ずっと一緒にプレイして来て、ずっと想い続けてきた。ずっと会いたいと思っていた人と、やっとこの世界で出会えたんだ』


 確かに……、俺は一言もセーラとは言っていない……。

 セーラも言わなかったが、俺も言っていなかったとは気が付かなかった。


 ――これでは、告白になっていないだろう……ただの恥ずかしい打ち明け話だ!


 これに返事を貰おうと思っていた俺もどうかしている。


 一気に脱力感に襲われて、その場に屈みこんでしまう。


「俺って、馬鹿すぎる……」

「カイト殿は悪くありませんよ。普通ならあれで伝わる筈ですから」

「ならどうして、セーラには伝わっていないんだ……」

「姉上には、かなりはっきり言わなければ伝わらないんですよ。極端に臆病なんで」


 臆病か……心細いと俺の部屋に来るほどだから、鋼のメンタルではなさそうだが。


 十六年間も一緒にプレイしてきたのに、俺はセーラの事を分かっているようで、何も分かっていなかったんだな。


 はっきり伝えろと言われても、それを出来るならそもそもこんなに長期間、こじらせてはいない。


 臆病さなら俺だって負けていないぞ。




 朝食を終えた俺達は、セバスとエミリーに留守番を頼んで村へと向かうことにした。

 ダンジョンへ行く前に村へ寄って、洗い終わった巨大スライムの皮をマジックポーチに保管する予定だ。


 村に向かって歩き出すと、セーラが俺の横に小走りでやってきた。


「カイト……、手を繋いでもいいかしら……」

「あ……ああああ、いいよ!繋ごうか」


 ぎこちなく手を差し出すと、セーラは手を握り頬を少し染めながら微笑んでくれた。


 今日も、セーラは天使のように可愛い。


 俺の告白は不発に終わったようだが、それでもこうして手を繋ぎたいと言ってくれるということは、少なくとも嫌われてはいないんだよな?


 セーラは昨日、自分に向けての告白だと確信を持てていたなら、どう答えるつもりだったんだろう。


 結婚したいのは俺、もしくは結婚したい人がいるから俺とは付き合えない。


 俺が曖昧に言ってしまったから、セーラも曖昧に答えるしかなかったのだろうか。


 悪い結果だったにせよ、こうして手を繋ぎ微笑んでくれるということは、仲間として今まで通り接してくれる気はあるんじゃないかと思う。それが分かっただけでも俺の心はかなり楽になった。


 望みを言えばセーラとは想い合えたら幸せだが、一番に優先すべきは一緒にいられる事だ。

 今回はそれが分かっただけでも、十分な収穫だったんじゃないかと思う。




 道の左側は村を見下ろせるので何となく視線を向けると、各家の庭にスライムの皮が干されているのが見えた。十五枚も渡したので、傷む前に長期保存用を作っているようだ。


 それから広場に視線を移動すると、人が集まっているのが見える。

 巨大スライムの皮はもう洗い終えているだろうし、何をしているんだろう。


 村へ入り広場へ近づくと、あの要注意小僧が俺達をいち早く見つけて手を振ってきた。

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