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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第一章 エミジャ村の夏

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34 手のかかる姉(洋介視点)

 俺は洋介、セーラの実の弟だ。

 洋介というのは本名で、当時MMORPGが初めてだった俺は、キャラクター名の意味がよく分からずに本名を設定してしまい、ゲーム内で合流した姉さんに笑われてしまったという思い出深い名前だ。


 因みに、皆の前とでは随分と印象が違うではないかと思うかもしれないけれど、ゲーム内では違う自分を演じて楽しんでいた為、何となくこの世界でも続けている。

 現在、素の俺を知っているのは姉さんだけだ。


 俺と姉さんは実の姉弟だけれど、別々の家で育った。

 姉さんは田舎で暮らすには不自由が多かったため祖父母に預けられ、俺はスローライフが趣味の両親と田舎で育った。

 年に数回、祖父母の家で会える姉さんはとても可愛く優しくて、俺は姉さんに会うのがいつも楽しみだった。


 そんな姉さんともっとコミュニケーションを取りたいと思い、始めたのがあのMMORPGだ。

 二人で始めたゲームはとても楽しくて俺はすぐにのめり込み、初めてダンジョンへ行ったあの日、俺たちはカイトさんと出会った。


 すぐに俺たちはカイトさんと仲良くなり、毎日三人で遊ぶようになった。そして、姉さんがカイトさんに惹かれ始めたのもすぐだった。

 姉さんにとっては人生で初めて、不自由さを感じない空間で普通に出会った男性だった。


 けれど、これまでの人生ですっかり臆病になっていた姉さんは、なかなかカイトさんに想いを告げられずにいた。

 俺もさりげなく協力をしていたつもりだったけれど、その甲斐むなしく気が付けば皆いい大人になってしまっていた。


 そんな中、俺たちはこの世界へと転生することになってしまった。




 お風呂から上がり部屋でゆっくりしていると、ドアをノックする音が聞こえた。

 この時間に俺の部屋へ訪問する人なんていたかな?と考えながらドアへ向かう。


 セバスさんが何か困っているか、エミリーさんが夜這いをかけにきたか……。後半はただの願望だ。


 ドアを開けると、そこには予想外の人物が立っていた。


「姉上、どうしました?」

「部屋に入れてくれるかしら……」


 手に持っている布で顔半分を隠しているけれど、顔を真っ赤にしているのは一目瞭然だ。

 これは何かあったなと思いながら、我が姉を部屋に招き入れる。


 ソファーに座らせて、俺も隣に座った。


「どうしたの?姉さん。カイトさんと何かあったの?」


 そう言いながら顔を覗き込むと、姉さんは顔全体を布で覆い隠した。

 そこで俺は、ある物に気が付きぎょっとする。


「姉さん!それ刺しかけの刺繍じゃないか、針が刺さると危ないからよけて!ほら、代わりの布あげるから」


 俺は向かいのソファーに置きっぱなしだった上着を取って差し出すと、姉は素直に交換してくれた。


 現在、姉は俺の上着のにおいを堪能しているやばい人に見えるけれど、それを指摘すると面倒くさい事になるので黙っておこうと思う。


 危険物の除去には成功したのでほっとしながら、改めて聞き直す。


「それで、カイトさんと何があったの?」

「カイトがね……」


 上着の中でぼそぼそ話すので聞き取りにくいけれど、何とか状況は掴めた気がする。


「つまり、この世界に結婚したい人がいるかどうか聞いただけなのに突然、告白されてしまったと。しかもその告白が誰に向けてなのか確信を持てなかった。そういう事?」

「……うん」

「はぁ……。十六年間一緒にプレイしてきたって時点で、当てはまるのは姉さんしかいないじゃないか。それともカイトさんは俺に気があるとでも言いたいの?」

「そうではないけれど……、はっきりと言われなければ自信を持てないわ」


 姉は極端に臆病だ。それは仕方がない事なのかもしれないが、これからはもっと自信を持って生きてほしい。


「それで逃げてきたなんて、カイトさんが可哀そうだなぁ」

「私だって、伝えるべき事は伝えてきたわ……」

「どうかな?姉さんの言い方だと、セバスさんも当てはまるんじゃない?」

「そこまで考えていなかったわ……どうしよう洋介」


 やっと顔を見せた姉さんの表情は不安そのものだ。

 俺はわざとらしく人差し指を立てて提案する。


「俺のオススメとしては、今からでもカイトさんの部屋へ戻ることだけど」

「無理よ、恥ずかしくて死んでしまうわ」


 だろうね。仕方がない、カイトさんのフォローは俺が受け持つか。


「まぁ、温泉でのカイトさんの発言は、誤解によって生じたものだと分かっただけでも良かったじゃないか。過ぎた事を悔やむより、明日からまた地道な活動に励めばいいよ。明日はダンジョンまで手を繋いでみたらどう?」


 転生した初日、姉にしては珍しく積極的に行動していたので、その後は俺が焚き付けて積極性を保っているけれど、行動が地味すぎてカイトさんには伝わっていないかもしれない。


「……頑張ってみるわ。話を聞いてくれてありがとう、洋介」

「いえいえ」


 お互いに微笑みあって一件落着したので、俺はソファーから立ち上がった。


「俺はもう寝るよ。おやすみ、姉さん」

「…………」


 姉さんは俺の上着を抱きしめながら、仲間にしてほしそうにこちらを見上げている。


「……もしかして、ここで寝るつもり?」

「カイトの部屋には戻れないし、一人では心細いもの……」

「この部屋でベッドを出すには家具をよけなければならないよ。面倒くさいなぁ」

「大きなベッドだもの、一緒でいいじゃない」


 確かにこのベッドはキングサイズだ。二人で寝ても何ら狭さを感じないはずだ。


「あのねぇ……、俺だって一応は男なんだけど?ついでに言うと、俺達DNA上はもう姉弟じゃないんだよ」

「ふふ、冗談を言っていないでもう寝ましょ」


 割と本気で言ったにも関わらず、あっさりとスルーされてしまった。

 童心に帰って姉と一緒に寝たい気持ちもあるけれど、ここで未来の兄を裏切る行為は出来ない。


「俺、ソファーで寝るから毛布出してよ」

「そんなの悪いわ、一緒に寝たくないのなら私がソファーで寝るわよ」

「何言ってるの。ソファーで寝て風邪でも引いたら、俺がカイトさんに怒られちゃうよ。日頃からよくソファーで寝落ちしている俺の方が適任だと思わない?」


 ゲームをしながらソファーで寝落ちは日常茶飯事なので、姉も納得してくれたようで毛布を出してくれた。


 姉がベッドに入ったのを確認すると灯りを消して、俺もソファーに体を沈ませた。

 

「ところで姉さん、その体にはそろそろ慣れてきた?」

「えぇ、大分違和感は無くなってきたわ。それに今日は、カイトが手を貸してくれたし……」


 カイトさんはダンジョンで随分と親身に姉に手を貸していた。姉はそれが嬉しかったようだ。

 逃げ出してきた割にしっかりとのろけ話はしたいらしい。


 こちらの世界へ来てからゆっくり話す機会があまりなかったので、この後俺達は深夜まで話し込んでしまった。

 主に話題はカイトさんについてで、ほぼ姉ののろけ話だったので、途中で寝落ちしてしまって悪かったと思う。

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