32 カイトの提案
「まぁ、いいです。それよりスキルについてですが、矢の羽根部分は命中率に影響していると思うので、全体攻撃ではあまり必要ないんじゃないかと思うんです。単体スキルでは命中率にかなり影響が出るかと思いますが、現状はスライムしか狩りませんし、羽根つきの矢は町で購入でいいんじゃないかと思います」
ガストアローは無数の矢が飛び出すから命中率なんて必要なさそうだ。
「なるほど、羽根を付けなくていいなら手間も省けるし、明日はそれで試してみよう」
そう言いながら鍛冶台へ戻ると、そこは大変な事になっていた。
「セバス、ストップ!今日はそれくらいで十分だ」
「そうでございますか?」
気が付けば俺が適当に出したインゴットを、セバスは全て矢じりに変えつつあった。その数、ざっと見て五百個ほど……。
Sランクで作成速度が速いにしても異常な数だ。
「それだけあればダンジョンを、十周くらいできそうですね」
「当分は矢に困らないな。ありがとう、セバス」
苦笑しつつセバスにお礼を言ったが、彼はまだ作り足り無さそうな顔をしている。
せっかくだから、何か作ってもらった方が良いだろうか……。
「もしよければ、鍬も作ってくれるか?サポキャに畑を耕してもらうのに二十本くらい欲しいんだ」
「お任せください、マスター!」
追加のインゴットと柄を作るための道具を渡すと、セバスは張り切って制作を始めた。
明日中に出来ればいいと言っておいたが、結局セバスはその日のうちに鍬二十本を完成させてくれた。
セバスがこんなに喜ぶとは思わなかったので、これからも何か作ってもらう物を考えた方がいいかもしれない。
日暮れまで作業をしてから、夕食の時間だ。
「セーラの作った皮料理、すごく美味いよ」
「ありがとう、カイトの焼き鳥もとても美味しいわ」
「エミリー嬢、ケーキは最後に食べるものなんです。主食を食べなければ後でお腹が空いてしまいますよ」
「まぁ、そうでしたの。教えてくださりありがとうございます、洋介様。あら、セバスさんは何も食べませんの?」
「沢山あると、何を食べたら良いか分からないもので……」
「セバス、好きな物食べていいんだぞ。ほら、これとこれ食べてみたらどうだ」
「お手数お掛けしてしまい申し訳ありません、マスター」
夕食はセーラが作ってくれたスライムの皮料理と、俺が作った焼き鳥、エミリーが作ったケーキ、それからマジックポーチに入っている料理が適当に並んでいる。
ポーチに入っている料理は種類に限りがあるので、屋敷に居る時はなるべく作ろうと食事を作る前に決まった。
セバスだけではなくエミリーも生産スキルは全てSランクのようで。俺達三人も料理は程よく上げているので、ローテーションで三人が好きな物を一品ずつ作り、足りない分をポーチの料理で補うことにした。
ちなみに後片づけは料理をしなかった二人がする予定だ。
全てサポキャに任せられたら楽なのだが、彼らの仕事は割と雑だということが分かってきた。
おそらくサポキャには生産スキルがないのだろう。
ゲーム内ではサポキャを出して生産スキルを使うと、成功率が上がったり完成個数が増えたりするアイテムだった。
プレイヤーと一緒に作成するモーションが流れるので可愛かったが、同じ課金アイテムでもセバスやエミリーのようにはいかないようだ。
単純作業は任せられるが、考える作業には向いていない。
口に入る物はあまり雑にはしたくないので俺達で作る事にしたのだが、皆で料理を作るのは割と楽しいので俺はそれでいいと思っている。
食事を終え、セーラ達の後に風呂へ入ってから部屋に戻った。
ドアを開けるとすでに灯りが付いていて。
「おかえりなさい、カイト」
「ただいま、セーラ」
どうやら彼女は、今日もここで寝るつもりのようだ。
ソファーに座って何かをしている。
「何をしていたんだ?」
「外套に体力強化の刺繍をしていたの。少しでも増えたほうが良いと思って」
隣に座ってセーラの手元を覗き込んでみると、細かい刺繍をしている途中だった。
裁縫のスキルを上げていない俺から見ると、気の遠くなりそうな作業だ。
「一つ完成させるのも大変そうだな」
「そんなこと無いわ。これはもうじき完成するし、カイトと洋介の分はもう出来上がっているの」
「俺達の分まで?もしかして午後はずっと刺繍をしていたのか?」
「えぇ、洋介の分はエミリーちゃんがしてくれたのよ」
「今は少しでも体力が欲しいし助かるよ、ありがとうセーラ。エミリーにも感謝だな」
俺は嬉しいが、どうせなら洋介のをセーラが刺繍すれば良かったのに。この二人はほんとよく分からないな。
淡泊すぎる二人の関係。本人達はそれでいいのかもしれないが、俺としてはセーラには幸せになってもらいたい。
差し出がましいのは分かっているが、お節介を焼いてみることにした。
「なぁ、セーラ。俺と洋介の部屋を変えようか?」
「……え?」
セーラは刺繍の手を止め、戸惑っている様子で俺を見た。
「私、迷惑だったかしら……」
「あ、いや!そういう意味ではなく、部屋が大きいって理由でここにいるなら、洋介と変えたほうが何かと都合がいいだろう?」
「……都合?」
セーラは不思議そうに首を傾げる。洋介と同じ部屋で嬉しくないのか?
「……俺より、恋人と同室の方がいいだろう?」
「……恋人?」
――あれ……、なんか反応がおかしいぞ。
「いや……だから、セーラと洋介が……」
「…………」
セーラはあっけにとられたように俺を見つめてから、持っていた刺繍道具を離すと口元に手を当て。
そして、クスクスと笑い出した。




