31 矢作り
「セバスは俺と一緒に矢じりを作ってくれるか?矢じりはいくらあっても構わないから、疲れない程度に沢山作ってくれ」
「お任せくださいませ、マスター!」
セバスにも鍛冶の知識は入っているようで、何も教えなくても次々と作っていく。
――さすがSランク、俺のより質が良い……。
セバスの作った矢じりに思わず見入ってしまう。
ちなみに生産スキルにもランクがあり、これは本人のレベルには比例しない。
上げたいスキルに応じた修練法で、ランクを上げていく仕組みだ。
生産スキルはまだSSランクが実装されていなかったのでSランクが最高となる。
鍛冶は材料集めが面倒なので俺は現在Aランクだ。
修練なしで全ての生産スキルがSランクとは、セバスこそチートと呼ぶべきだろう。
洋介は大量の木材をサポートキャラに持たせて帰ってきた。
その場で加工したようで、何本かはすでにシャフト――つまり棒状になっている。
「木材はこのくらいあれば、とりあえずいいでしょう」
「そうか。ところで羽根はどうする?ゲーム内では材料になかったが必要だよな?」
「そうですよね……。大量の羽根を確保できるでしょうか?」
「そんなの鳥のモンスターでも狩れば、簡単に確保できるんじゃないか?村の南にいただろう」
エミジャ村の南には鳥型のモンスターであるターキーが居たはずだ。あのゲームのモンスターは大抵五色いるのでターキーも種類存在する。
その他にクリスマスイベントでは、サンタ帽子を被ったサンターキーなんてものもいたな。
「鳥の確保は簡単でしょうが、その後に羽根をむしる作業がありますけど、カイト氏はお得意ですか?」
「いや……ちょっと無理。っというか絶対無理!」
たとえ死んでいたとしても、羽根をむしるなんて可愛そうじゃないか。都会育ちの俺には出来ない!
「洋介は慣れているんじゃないか?鳥を絞めたり」
「とんでもありません!うちの両親はスローライフに憧れて田舎暮らしをしていましたが、所詮は都会人のお遊び。肉はスーパーで買っていましたよ」
「そうか……っとなると……」
何となくセバスに視線が向いてしまう俺達。セバスなら言えばやってくれそうだが……。
彼は俺達の視線に気がつくことなく、嬉々として矢じり作りに精を出している。
「いやいや……、王子にこの仕事は似合わないだろう」
「ですよね、たとえ彼がやってくれたとしても、女性陣から苦情が出そうです」
二人並んでジト目で見られたら、新たな性癖が生まれてしまいそうだ。
「矢作りは諦めるしかないのか……」
「諦めるのは早計ですよ、カイト殿。少し試したい事があります」
そう言うと洋介は神妙な顔で、矢じりとシャフトを繋ぐ作業を始めた。
その表情は何だ……ただ、はめるだけだよな?洋介くん。
いきなり職人ぶらないでくれないか。
五本作り終えた洋介は、マジックポーチから弓を取り出した。
「これでスキルが使えるか実験してみましょう」
鍛冶台セットや温泉に当たらない位置まで移動すると、洋介は弓を構えた。
「ガストアロー!」
洋介の叫びと共に、普通の矢の時と同じく無数の光の矢が飛び出した。
「おー!普通に使えるんだな」
「はぁはぁ……多分ですが、はぁはぁ……はぁ」
「……いや、説明は後でいいからポーション飲め」
「はい……はぁはぁ」
歩いたりしなくても、スキルで体力を消費したらこうなるんだな……覚えておこう。
洋介は今にも倒れそうな青い顔をしながら、何とかポーチからポーションを取り出した。
それを一気に飲み干すと、嘘のように血色がよくなり息切れが収まったようだ。
ゲーム内ではそんなの気にせず、体力をギリギリまで減らしてからポーションを飲んだりしていたが、キャラは過酷な状況を繰り返していたようだ。俺のキャラごめんな。
洋介は一息つくと、ジト目で俺を見る。男にジト目されても何の感情も沸かないのだが。
「カイト殿は姉上ばかりではなくて、僕にもポーションを差し出すくらいの優しさがあっても良くはありませんか?」
「あー、すまん。何か、冷静に観察してしまった」
「ひどいですよ……未来の弟だというのに……」
「未来?設定上、すでに弟だろう」
未来って何だ?
設定以外で俺と洋介が兄弟になれるプロセスが、全く思い浮かばないのだが。




