28 クリア報酬
洋介が巨大スライムの皮を回収し、セーラはやっと俺から離れてくれて、俺は色々な感情がミックスされて訳が分からなくなっている中、俺達は最後の部屋へと向かった。
「ゲームなら次の部屋に宝箱が置いてありますが、ここでそれがあるとは思えませんね」
「そうだよな。宝箱が置いてあったとしても、とっくに誰かが開けているだろう」
「広場へ戻るにはどうしたらいいのかしら?転送装置でもあればいいけれど」
それぞれに疑問を持ちつつ、最後の部屋だけは扉が付いているので、俺はそれを押し開けた。
部屋の中がそれほど大きくないのは、、ゲーム内とは変わらないようだ。
期待していなかった宝箱はもちろん無く、その代わりというべきか。
「螺旋階段ですね。これで地上まで戻れという事でしょうか」
円筒のようなこの部屋は、壁に設置されている螺旋状の階段が遥か上まで伸びていて、その渦巻を見ただけで眩暈がしそうだ。
「そのようだな。最後にこれは結構きつい……」
「途中でヒールをかけるわ。あと少しがんばりましょ、カイト」
セーラに慰められてやる気を振り絞り、俺達は螺旋階段を上り始めた。
洋介は一人でどんどん先へ進むので、結局途中から俺がセーラの手を引いて上ることになった。
「ごめんなさいカイト、余計に疲れてしまわないかしら?」
「ゆっくり上っているし、セーラのヒールもあるから大丈夫だよ」
洋介が途中で疲れて座っているところで合流しては、ヒールをかけてもらいながら俺達は何とか最上部まで上り詰めた。
「さて、ここはどこに繋がっているのかな?」
ドアを開けると、一気に明るい日差しに包まれる。
一瞬、眩しくて辺りが白飛びして見えたが、次第に目が慣れてくるとここは一面、野草や野花に囲まれているのだと分かる。
その周りを森の大きな木々が囲っているが、木のてっぺんが見えるということは、ここは相当な高さ――おそらくはダンジョンがあった崖の上だと推測される。
今はちょうどお昼頃だろうか、日光が真上から降り注ぎ温まった外気に触れ、サンタ服ではめちゃくちゃ暑くなってきたので、俺は帽子と手袋を取り服のボタンを少し外した。
「やっと外へ出られたな」
「いい天気ですね、ここでお昼にしませんか?」
「いいわね。お花も咲いていて、とても綺麗だわ」
とりあえず暑いので、螺旋階段で着替えを済ませてから昼食をとることにした。
セーラはマジックポーチから庭で使うようなテーブルとイス、それから日よけのパラソルを取り出した。
今日の昼食は、俺はかつ丼、洋介はカレーライス、セーラは海老ドリアだ。
そんな材料どこから仕入れてきたんだと思うだろうが、これはゲーム内でセーラが作ったものやNPCから購入したものだ。
ほかにもイベント報酬だったものや、期間限定でドロップされたものなど、食べ物は俺達のポーチの中にいくらでも入っている。
ゲーム内の食べ物なんて食べられるのかと思っていたが、試しに五年前から入れっぱなしだった食べ物を出してみたところ、普通に熱々の食事として取り出すとことが出来た。
村長夫人はマジックポーチに入れた食べ物は数か月食べられると言っていたが、ゲーム内で入手した食べ物に関しては賞味期限がないようだ。
かつ丼だけでも俺は千個ほど所持しているので当分、米に飢えることは無さそうだ。
食事を終え、セーラの出してくれたティーセットでお茶を飲んでいると、セーラは野草に視線を向けて首を傾げた。
「この草花って、もしかして薬草じゃないかしら?」
「「え!?」」
俺と洋介は同時に野草に目を向けた。
「確かに、よく見れば薬草ですね。こんなにあるとは驚きです」
「ここは薬草の群生地だったのか。ってことは、ここがダンジョンのクリア報酬という訳だ」
ゲーム内において薬草は畑で育てられない為、森で群生地を探すしかない。
ダンジョン報酬として宝箱に入っていることはあったが、群生地として出現したのは初めてだ。
「このまま枯れてしまうのも勿体ないですし、採取していきませんか?」
「そうだな、俺達は今のところ必要ないが、村人が必要かもしれないし」
「今日はお土産が沢山ね」
俺達はちょうど採り頃の薬草だけを採取してまわった。三人とも植物学のスキルを上げていたので、どれが良いものかは知識として頭に入っていた。
そこそこの量を採取した後、俺達は崖の下へ降りる道を見つけて、ダンジョン前広場へと戻ってきた。
石板の前に立ち、レベルがどれくらい上がったのかを確認する。
「俺は12レベルになったようだ。二人は?」
「僕も同じです」
「私も12レベルだわ」
「経験値は均等ってことで間違いないようだな。後、二・三周すればDランクに上がれそうだが……」
「効率を考えると僕のスキルがあったほうがいいですよね」
「だよな。一旦、戻って今日は矢作りでもするか」
戻るよりダンジョン行った方が早いだろうとは思うが、俺達はついつい効率を重視してしまうので、午後は矢を作る事にした。




