27 巨大スライム
伸びていると言っても巨大スライムなので、現在の高さは俺の腰くらいある。
二人がよじ登るにはきついだろうから、三人の中で一番背が高い俺が先によじ登ってから二人を引き上げた。
「ぷにぷに感、半端ないな」
中央へ移動するのも一苦労なほど、ぷにぷにと体が沈み込む。
何とか寝ころんでも落ちない辺りまでたどり着くと、セーラは気持ちよさそうに体を横たえた。
「満足したか?セーラ」
「うん!ありがとう、カイト」
嬉しそうにぷにぷにを味わっているサンタ娘が可愛いすぎる。
「こんな事をしても起きないなんて、冬眠でもしているのでしょうか」
「今は冬じゃないけどな。人が来ないからさぞ寝心地は良いだろうな」
洋介は体を大きく揺らしながら、ぽよぽよさせて遊んでいる。
その振動が段々と全体に伝わってきて、俺達の周りも揺れ始めた。
「なんか、トランポリンみたくなってきたぞ」
「わっ、体が浮くわ」
次第に揺れは大きくなり、俺達は宙に浮いてはぷにぷにに落ちるを繰り返し始めた。
それも、どんどん大きくなり、飛び跳ねる高さも高くなってくる。
「おー!めちゃくちゃ高いぞ!」
「面白いですねー!」
「空を飛んでいる気分だわー!」
そして、今までで一番高く跳ね上がった時、やっと俺達は気が付いた。
「大変です!二人とも!」
いつの間にか目覚めた巨大スライムは、大きく口を開けて俺達を食べようとしていた。
「やばい!食われる!」
「きゃー!」
口の中はどろどろの液体だろう。このまま口の中に落ちればそれなりの衝撃を受けるはずだ。
そう思った俺は、とっさにセーラの腕を掴み、力いっぱい腕の中へ引き寄せた。
洋介に手を伸ばすには遠すぎる。男は強く生き延びてくれ!
引き寄せる動作だけで精一杯だった俺は、そのまま巨大スライムの口にめがけて落下した。
液体に落ちる衝撃が背中全体に伝わり、思わず息を全て吐き出しそうになるのを何とかこらえた。
ドロドロしているせいか、水の中のように泳ぐのは難しそうだ。
このままでは俺達、巨大スライムの中で溺死してしまう。
俺はセーラを抱きしめたまま、片腕で槍を動かした。
どう頑張ってもここからでは皮に当たらないが、ここは巨大スライムの中だ。モンスターに攻撃している判定になってくれと願いながら槍を三回突く動作をした。
――クラッシュスピア!
心の中で唱えて発動するのかは賭けだったが、俺の体はグンッと動くと巨大スライムの皮を複数回攻撃して突き破る事に成功した。
そのまま外へ飛びだされ、地面に勢いよく背中を打ち付けたので痛みが走るが、息は出来るようになったので大きく息を吐いた。
スライムの液体まみれで気持ち悪いが、それよりセーラの無事を確認したい。
「セーラ大丈夫か!」
「えぇ……、カイトは大丈夫?」
俺の上に寝そべった状態のセーラに声をかけると、彼女は自分の体よりも俺を心配そうに見つめた。
そういえばスキルを使った後、地面に強く打ち付けられたのだから、そこで体力が尽きても良さそうなものだが……。
ダンジョンへ入る前より数レベル上がっている気はするが、落ちた時にも背中を打ち付けているし、スキルを使った後は体力が僅かしか残っていなかった筈だ。
「……もしかしてセーラ、ヒールしてくれたのか?」
「カイトがスキルを使ったみたいだから、声に出さなくても使えるのかと思って試してみたわ」
あの状況で咄嗟にヒールが出来るなんて、驚きを通り越して笑いがこみ上げてくる。
「くっ……ははは!セーラ最高だよ!おかげで命拾いした、ありがとう!」
「ふふ、成功したようで、良かったわ」
セーラはほっとしたように表情を和らげると「それからね……」と言葉を続けた。
「さっきは、……かばってくれてありがとう。私、とても嬉しかったわ……」
恥ずかしいのか顔を真っ赤にしたセーラは俺の胸に顔を埋めたが……。
――その体勢は非常にまずい!
「ちょ……セーラさん!?」
傍から見たら抱きついているように見えるんじゃ……、ってか抱きついているも同然ですよね!
助けを求めるように洋介へ視線を向けるが「さすが巨大スライムの皮は大きいですね!」と皮に興味深々で、こちらに気を留めもしない。
――もう、なんなんだこのカップルは!お互いに自由すぎるだろ!




