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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第一章 エミジャ村の夏

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26 ポーション

 セーラは俺を褒めてくれた後、困ったような表情になった。


「けれど、今ので魔力が尽きてしまったわ。多少はパッシブスキルで回復するけれど、次の部屋に到着するころに一回分の魔力がたまるかどうか……」


 ステータス画面で自分の体力や魔力を確認した為か、俺達は自分たちの残量を何となく認識できるようになっていた。

 セーラにはパッシブスキルの自然魔力回復があるけれど、魔力の回復には植物や月光から放出される量に大きく影響するため、このような人工物の中だとあまり回復は見込めない。


「ならしばらくは通常攻撃で倒すか。時間はかかるが仕方がない」

「通常攻撃なら、僕もお手伝い出来ますよ。スライムなら弓で殴っても倒せる気がします!」


 洋介は邪道が好きらしい。その発想力、嫌いではないが。


 セーラはマジックポーチに視線を向けると、瓶を一つ取り出した。


「それか、魔力ポーションを使うという手もあるわ」

「それか……」


 俺もポーションの存在は思い出していたが、これを人が飲んでも大丈夫な代物なのか疑問に思う色をしている。


「物は試しです。皆で飲んでみましょう」

「そうだな……。ずっと使わないでいるのも無理だし飲んでみるか……」


 ポーションには、体力を回復する体力ポーションと魔力を回復する魔力ポーション、ほかには解毒ポーションなどがある。

 瓶の大きさはさまざまだが中身は同じなので、要は沢山回復したければ沢山飲めということだ。


 ゲーム内ではそれで良かったが、現実では飲むには限度がありそうだ。


 俺と洋介もポーチから体力ポーションを取り出した。


 灯りに向けて瓶をかざしてみると角度によって青いポーションが、ゆらゆらと紫や水色に変化するのが実に怪しげな薬に見える。


 セーラの持っている魔力ポーションは紫だが、同じく怪しげに色が動くのは同じだ。


 これを飲むには勢いが必要だな……。


「二人ともいいか……?」


 俺達はそれぞれ瓶の蓋を開け、二人は俺の合図を待っている。


 俺はポーションの瓶を軽く上げた。


「では、初ダンジョンを記念してカンパーイ!」

「「カンパーイ」」


 乾杯したからには一口飲まなければならない社会人としての性。俺は一気に飲み干した。


 青い飲み物など味が想像できなかったが、意外とさっぱりとした酸味と甘みのある味、例えるならグレープフルーツジュースを薄くした感じだ。


「意外と美味いな」

「そうですね、これなら飲みやすいです」

「魔力ポーションも美味しいわ。ブルーベリーのような味よ」

「姉上のも一口飲ませてください」

「いいわよ、洋介のも飲みたいわ」


 洋介とセーラは味見で一口飲んだだけのようだ。お互い交換して飲むとは、仲がよろしい事で……。


 と思っていると、洋介は魔力ポーションの瓶を俺に差し出した。


「カイト殿、お先に味見しますか?」


 彼氏が間接キスを他人に譲るとか、お前の頭はどーなってんだ?


「いや、俺はいいよ」

「そうですか。ではいただきます」


 お互い一口飲んだ後は、また自分のを受け取り飲み干していた。


 俺と洋介は元々体力満タンだったので効果は分からないが、セーラは小さい瓶でも魔力を全回復できたようだ。


 再びダンジョンを進み始めた俺達は、俺のスキルを使いながらどんどん皮を回収し、十部屋目を抜けた。


「次がボスの部屋のはずです」

「そうか。ボスの部屋の手前で、セーラは一応ポーションを飲んでくれ」

「分かったわ。カイトならスキル一回で倒せそうだけれど、ヒールは五回までと覚えておいてね。もしそれで足りなければまたポーションを飲むわ」

「了解!」


 ボスの部屋までたどり着くと、ボスの巨大スライムもすでに部屋の中に出現していた。


 ゲーム内では俺の身長の、軽く1.5~3倍はありそうな大きさだったが。


「あれは……、どういう状態だ?」

「寝ている……のでしょうか」


 水色の巨大スライムは重力に逆らうことなく、でろんと伸びた状態になっていて、まるでもちもちクッションのようになっている。


 俺達はゆっくりと巨大スライムへ近づいてみたが、起きる気配はない。


「ダンジョン内の敵は、近づけばすぐにターゲットとして認識されるのに不思議ですね」

「まさか、すでに死んでいるのか?」

「死んだのなら消えてなくなるのではないかしら」


 セーラはスライムをぷにぷにつついているが、それでも動き出す様子はない。


「そうだよな、一応は生きているならこのまま倒してしまうか」


 俺が槍を構えると、セーラは俺とスライム間に立ちはだかるように移動した。


「待って、カイト……」

「どうした?セーラ、何か問題があるのか?」

「私ね……、巨大スライムの上でぷにぷにするのが夢だったの……」

「……ん?」


 ――ぷにぷに?


 セーラの夢は叶えてやりたいが、ちょっと理解力が足りない俺で申し訳ない。


 俺が考えている間に、セーラの顔はどんどんと赤みを増していく。

 それを見かねたのか、洋介が補足してくれた。


「姉上は巨大スライムをクッションにしたいんですよ!ほら、人をダメにするタイプのクッションがあるでしょう?あの雰囲気だと思ってください!」

「あぁ、なるほど」


 要は、この上に乗ってみたいらしい。ゲームをしていたら『こうしてみたい』って願望は出てくるもんだよな。


「せっかくのチャンスだ、やってみるか」


 俺がそう言うと、セーラの表情がぱぁっと明るくなった。

 わざわざ言う必要もないが、とても可愛い。

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