25 ダンジョン潜入
ダンジョンの入り口に入った瞬間から、広場の柔らかな雰囲気が一気に消え、ジメジメとした石造りの空間となる。
三人が並んで歩いても余裕のある階段を下り始めると、人に反応するように所々に設置されている灯りがともる。
灯りに照らされた階段は、長年に渡って人が通ってきた為か角が丸みを帯び、さらに濡れているようで光沢感がある。
「滑らないように気を付けて」
こういう場所も慣れていないだろうと思い、セーラに手を差し出してみると彼女は「ありがとう、カイト」と微笑んで俺の手を握った。
手を繋ぐのはこれで二度目だし、重要任務だと思えば俺もこれくらいの事は出来る男だ。
慎重に階段を下りて下の階にたどり着くと、そこは奥へと繋がる廊下となっている。
遺跡風なこのダンジョンは、ダンジョン内も石造りの構造物なので、穴を掘っただけの通路と違って気味の悪さはさほどない。
それほど長くない廊下の先に部屋の入り口が見えた。
「ゲームと違って最初からスライムが見えていますね」
洋介の指摘通り、ゲーム内では部屋に入った瞬間にモンスターが現れるが、現実だと初めから存在しているようだ。
「ここからでは部屋の中を全て見渡せないけれど、それほど多くは無さそうね」
「あぁ、しばらく人が来ていなかったのなら、もっとうじゃうじゃしているのかと思ったが、そうでもないらしいな」
ここから見える雰囲気としては十匹程度か。
まずは洋介にスキルを使ってもらうことにする。
洋介は弓を構えると、ゆっくり部屋の中へと入った。
モンスターにターゲットとして認識される前に、素早く入り込んだほうが良いが、それだと体力が減ってスキルが発動できないと判断したのだろうと思う。
洋介の後をセーラが追い、俺も見学のために続く。
部屋に入って素早く辺りを見回した洋介は、弓を引きながらスキル名を唱えた。
「ガストアロー!」
「ヒール!」
洋介の放ったガストアローは前方180度に突風の如く、無数の光の矢が突き刺さる。セーラのホーリーランサーよりも攻撃範囲は狭いが、威力はこちらの方が上だ。
部屋の中にいた十数匹のスライムは、その一撃で一掃された。
「さすが、チート性能!楽勝だな」
俺はすかさずスライムの皮を拾い始めながら、洋介を褒めたたえた。
皮は一分程度で消えてしまうので、二人も拾い始める。
「それは、喜ぶべきなのでしょうか。スライム相手だと微妙すぎますね」
「楽に沢山狩れるのはいいと思うわ。今日は村の人達にたくさん皮を渡せるわね」
「俺達も今夜は皮料理だな」
楽な狩りに味を占めた俺達は、それからもひたすら洋介のガストアローで皮を大量ゲットした。
セーラはヒールの役目があるが、俺はただ皮を拾うだけという地味すぎる仕事を黙々とこなした。
これがゲーム内ならかなり使えない奴だろうが、今日は皮集めが目的なので問題ないだろうと自分に言い聞かせる。
だが六部屋目の手前で、洋介は手のひらを肩のあたりでパタパタさせた。
「大変です、矢がもうありません」
彼の背中に視線を向けると、背負っている矢筒は確かに空っぽになっていた。
「早すぎないか?ダンジョンに入る前は沢山あったように見えたが」
「ガストアローは矢を五本消費しますから。一本ずつしか射るのに使っていませんが、しっかりと残りの四本も回収されていたようです」
「そこだけ妙にゲームっぽいな。仕方がない……、次は俺が戦うか」
槍のスキルはほかと違って少し特殊だが、ヒールのタイミングはセーラに伝えなくても彼女は熟知している。
部屋の入り口まで来ると、槍を構えて部屋に飛び込んだ。
端の方にばらけているスライムをまず一匹、通常攻撃で突き刺し、大きく腕を引いてから飛びかかってきた二匹目を斜め上に向かって穂先で切り裂く。
そのままの勢いでセーラに向かっていた三匹目に、槍を斜めに振り下ろして穂先で切り裂いた。
遠心力で一回転してから、スライムが一番群れている場所に飛び込んで槍を地面に向かって突き刺しながら、スキル名を唱えた。
「インパクトスピア!」
「ヒール!」
突き刺した周囲にいたスライムはインパクトスピアの衝撃波で一気に倒れる。
が、弓や魔法に比べると威力は高いが攻撃範囲が狭いので、多少スライムが残ってしまった。
槍を構えなおすと、二秒数えてからスキル名を唱える。
――1……2……。
「クラッシュスピア!」
「ヒール!」
高速で移動しながら、複数回攻撃を仕掛けるスキルだ。これにヒールできるセーラは凄いと思う。
これで残りのスライムもすべて倒すことが出来た。
槍のスキルは通常攻撃を三回繰り出した後でなくては発動できないし、スキルを途切れさせるとまた一からやり直さなければならない。
スキルの連携は三秒で途切れるので、さっきは三秒ギリギリで次のスキルを発動するよう調節した。
何故そんなことをしていたかというと、ヒールの待機時間も三秒あるからだ。
皮を拾い終えるとセーラが俺の元へやってきた。
「ヒール届いていたかしら?」
「しっかり届いていたよ。さすがはセーラだ!」
「ふふ、カイトの戦いも素敵だったわ」
今まで何度か他のヒーラーともダンジョンへ行ったことはあるが、俺の経験した中ではセーラが一番技術が高い。
危険な範囲にもヒールをかけに飛び込んでくるので驚く事もあるが、ヒールを当てに出来る分安心して戦いに専念できた。
洋介も援護を絶妙なタイミングで射ってくれるし、俺達には十六年で培ってきた信頼関係がある。




