24 強化装備
「パッシブスキルは解除できないし、しばらくはこのままだな……」
「ヒールが使えるようになったし、これからは疲れたら私がヒールするわ」
「ありがとうセーラ、助かるよ」
お礼を言いながら笑顔を向けると、セーラも微笑んでくれる。
色々と話し合ううちに、俺もいつもの調子が戻ってきたようだ。今は失恋に浸るのはやめて、ダンジョンに集中しようと思う。
「それにしてもランクは下がったのに何故、スキルはそのままなんだろう。完全にバグだよな、これ」
「ゲームデータから人に変換される過程で、バグったと思うしかありませんね」
「私達、またチーターになってしまうわね」
「確かに……、なるべく人前でスキルは使わないほうがいいな」
ここは過疎地のダンジョンだが、ほかのダンジョンへ行くことがあれば気を付けたほうがいいだろう。
ゲームと違ってパーティーごとに部屋が出来るわけでもないだろうから、遭遇した時にスキルを見られないようにしなければ。
「スキルを使えるようになるのは、ずっと先のようですけどね」
洋介の言う通り使うスキルにもよるが、Dランクくらいにならなければ体力的に全てのスキルは使えそうにない。
「その事で思いついたのだけれど、体力を強化補正した装備を使ったらいいんじゃないかしら？」
「その手があったか！体力強化は、布にしか出来ないんだったよな」
「えぇ、この世界では強化の模様を専用の糸を使って刺繍するみたい」
「セーラ、分かるのか？」
「裁縫スキルを上げているせいか、知識として頭に入っているの。ほら、この辺りが体力強化の模様よ」
セーラは袖周りにしてある刺繍の模様を指さした。どうやらその服には体力の強化もしてあるらしい。
「刺繍か。ゲームと違って材料をそろえるだけではなくて、刺す必要があるよな。今すぐには無理か」
「それなら、体力を強化した服があるわ」
「さすがセーラ、何でも持っているな！」
体力強化の服なんて何に使っていたんだろうと思っていると、セーラはマジックポーチから赤い服を取り出した。
「それは……」
「サンタ服ですね」
「サンタ服よ」
「サンタ服だな……」
何故サンタ？と思ったが、そういえばかなり前にこの服を使ったイベントがあったのを思い出した。
「雪だるま早作りイベントか」
「そんなのありましたね。効率アップするために皆、こぞって体力強化した記憶があります」
「イベント会場はいつも吹雪で、体力がすぐに減ってしまったものね」
懐かしい。時間内に雪だるまを沢山作るため、ヒールをする間も惜しんでいたんだよな。あの時の服をセーラは今でも持っていたようだ。
ありがたくそれを借りることにした。
セーラはいつでも着替えが出来るよう、パーテーションを繋げた簡易更衣室を作ったようでそれを取り出した。
その手前にもパーテーションを広げて、相変わらず鉄壁だ。
「この時期だと、さすがに暑いな」
サンタ服と帽子・手袋・靴を装着すると、まだ温かい季節では結構な暑さだ。
こういうのは都合よく快適に補正されないらしい。
「これでギリギリ一回はスキルを発動できますね」
「俺も一回は使える体力になったが、減った状態で敵の攻撃を受けるとやばいな」
「スキルを発動したらすぐにヒールをするわね」
「そうしてくれるとありがたい」
パーテーションの陰から出てきたセーラも、サンタ服に着替えていた。
ヒールの回復量は魔法を使う本人の体力に依存するので、俺達の体力を一気に回復しようと思うと、必然と体力が必要になる。
SSランクのヒールは200％回復だったと思うが、魔法使いは極端に体力が少ないので、補正はあったほうがいいのだろう。
もしかしたら、セーラなら着たかっただけなのかもしれないが。
そして、そのサンタ服は、実に可愛い。
露出が少ないタイプのワンピースだが、もこもこしていて可愛い。
セーラサンタが家に来たら、俺はプレゼントを貰うのではなく貢ぎたい。
「ちなみに二人とも今、レベルどのくらいなんだ？俺は5レベルなんだが」
「僕も同じですね」
「私も同じだわ」
「今までスライムは俺が一番多く倒しているが、経験値が平等に分配されているなら良かった」
「ヒーラーはレベルを上げにくいですからね」
「しばらくはヒールに専念したほうがよさそうだし、戦闘は二人にお願いするわ」
「任せておけ！」
「姉上の経験値、たっぷり稼ぎますよ！」
「ふふ、二人と頼りにしているわ」
セーラの心地よいヒールを浴びられるなら、いくらでも戦えそうな気がする。
今週はお話を進めたかったので一日二回投稿させていただきました。
来週はダンジョンのターンになります。
