23 ステータスとスキル
休憩を終えた後、だだっ広い広場のど真ん中に置いていたソファーをマジックポーチに戻し、ダンジョン入口へと向かった。
入口に近づくと、下の階へと降りる階段が見えるのはゲーム通りだ。
だが、ゲームには無かったものが入口の横に設置されていた。
「何だこれ?」
「石板……に見えますが、何も書かれていませんね」
「飾りにしてはシンプルすぎるし何かしら?」
入口の横に大きな石板状の物が壁に埋め込まれている。
何となく気になってそれの前に立ってみると突然、石板に文字が浮かび上がった。
「これって……俺達のスキルやステータスの情報じゃないか?」
「どうやらそのようですね。各自、自分のデータが見えているということでいいんでしょうか?」
「そうだと思うわ。左上に名前が表示されているもの」
セーラに言われて左上を見てみた俺は、顔を引きつらせた。
「た……確かに、俺の名前が表示されているな……」
「その表情……もしや、正式名ですか?カイト殿」
数年前のアップデートでニックネームを表示できるようになったので、今は『カイト』に改名したが俺の正式名は『卍海斗卍』と言う。
お別れしたはずだった中二の残骸が、まさか転生先に付いて来るなんて!
「あぁ……、でもこれは俺しか見えないようだから問題ない!」
「久しぶりに見たかったわ、残念」
セーラさん、可愛い顔していじめないでください。
「そ……それより、ステータスを確認しよう!」
この石板はどうやらマジックポーチと同じような物のようだ。
石板を見ているのに、ゲーム内のステータス画面を見ているような感覚になる。
「やはり予想通り、僕たちはEランクのようですね」
「そうだな。スキルも表示されているが、なんで使えなかったんだろう」
スキル欄にはしっかりと、この前使ったスキル名が表記されている。
「……待ってください!このスキル、変ですよ」
「本当……、ホーリーランサーの攻撃範囲が360度になっているわ」
Eランクであるなら、ホーリーランサーは前方に槍が一本飛び出すだけだ。
「それってSSランクの攻撃範囲じゃ……」
「僕のスキルもSSランク仕様になっています。カイト殿のスキルはどうです?」
言われて俺のスキルを確認するが……正直わからん!
「槍のスキルは攻撃力が上がるだけだから、よく覚えてないな……ただ、体力消費は明らかにEランクのものじゃない」
なんせ、現在の体力より、消費体力が多いのだから。
「スキルが発動しなかった原因はまさにコレですね。体力が足りなきゃスキルが発動するはずがありません」
「セーラの魔法が発動しなかった理由も同じか?」
「そうみたい。これでは当分の間、魔法は使えそうにないわ。唯一、今の魔力で使えるのはヒールかしら」
「ヒールか、存在をすっかり忘れていたな。ちょっと試してみないか?」
「良いけれど、このままかけても体力が回復したのかわからないわよね」
「ちょっと待ってな!俺、走ってくるから!」
「え……、カイト……!」
突然走り出す俺を見て驚いた様子のセーラに手を振りながら、広場の中を三周ほど走ってみた。
学校の体育館ほどの大きさだが、三周走り終える頃にはかなり疲れてしまった。
「はぁはぁ……これで、はぁはぁ……少しは減ったはず……」
再び石板の前に立ってみると、体力が三分の一ほどに減っている。が、どんどん回復してるのも分かる。おそらくパッシブスキルの自然回復が機能しているのだろう。
「はぁはぁ……セーラ、自然回復する前に……ヒールを頼む」
「分かったわ!」
セーラは慌てて魔法少女の杖を取り出した。
それを俺に向かって突き出すと、スキル名を唱えた。
「ヒール!」
その言葉と共に、俺の周りにはキラキラとした光が現れ、なんとも心地良い気分になった。
息が楽になり体の疲れがほぐれ明日、筋肉痛になる心配が消えた。
まるで、温泉に入っているような気分だ。
ステータスを見ると体力はMAX値に戻っていて、どうやらヒールは成功したようだ。
「ありがとう、セーラ。ヒールで体がとても楽になったよ。体力もMAXに戻っている」
「本当?成功して嬉しいわ」
杖を握りしめて喜ぶ彼女を見て、さらに癒される。
「消費体力や魔力さえ確保出来れば、スキルは問題なく使えるようですね」
「そうみたいだな、パッシブスキルの自然回復も機能しているようだった」
「そうですか。では、これも機能しているようですね……」
洋介は神妙な表情で石板を見た。どれかのスキルを見ているのだろうか。
「これって?」
「パッシブスキルの移動強化ですよ。これ、SSランクだと地味に体力を持っていかれるんですよね」
「これか。SSランクの体力だと微々たるものだが、Eランクだときついな。だから歩くとすぐに疲れていたのか」
パッシブスキルの移動強化は移動速度を速めてくれるが、普通の速度で歩いていても体力は消費される。
ランクの体力に合わせて設計されているだろうから、俺達のような状態は想定外なのだろう。




