22 ろくな結果にならない
村長は手紙を一通、テーブルに置きながら話を始めた。
「実はイーサ町で毎年行われるお祭りで、巨大スライムの皮を使ったお菓子が作られるのです。毎年この村に発注が来るのですが、狩りに行ける者がおらず困っておりまして」
「去年まではどうしていたんですか?」
「近年は滅多に冒険者もこの村を訪れませんでしたので、町に駐留している騎士が請け負ってくれていたのです。今年もお願いする予定でしたが彼らは今、王都に召集されていまして……」
「召集?戦でも始まるのですか?」
「あまり詳しくは私も存じ上げないのですが、彼らの隊長が行方不明だとか。カイト様でしたらご存じでしょう、隊長はあの英雄リアム様です」
「あー、彼ねぇ……。それは、心配ですね」
そんな人、全く知らない!
ゲーム内にそんな人物は出てこなかったが、辺境の村人でも知っている有名人のようだ。
「はい……。リアム様はこの地域に冒険者が減ったことで、モンスター被害が出ないよう町に騎士を置いてくださるお優しい方なのです」
「なるほど。それなら騎士達も必死で探しているでしょうから、いつ戻るかわかりませんね。俺達でも巨大スライムくらいは狩れると思うし……、受けてもいいよな?」
洋介とセーラを見ると二人とも頷いてくれたので、この依頼を受けることにした。
依頼料に関しては、俺達の存在を隠してもらうの条件ということで無料にした。
俺達の素性も良く分からないし、今は出来るだけ噂になりたくない。
それにこの村はあまり裕福そうに見えないので、これからも金銭は受け取らないでおこうと思っている。
セバスとエミリーには屋敷に戻ってもらって、俺達はダンジョンへ向かった。
森を進んでいる間、セーラと洋介はずっと二人でひそひそ話をしている。
この世界へ来てからあまり二人の時間がなかっただろうから、俺は離れて歩くことにした。
なんでこんなに気を使っているんだろうと思いつつ後ろから二人を眺めていたが、次第にいつも通りのセーラに戻って楽しそうに話しているのを見てほっとした。
今朝、セーラは何に対して気を落としていたのかは未だに分からないが、元気になってくれて良かったと思う。
のんびり歩いてきたが、緩やかな上り坂だったのでそれなりに息は切れたため、今はダンジョン前広場でソファーに座ってくつろいでいる。
「ここのダンジョンって確か、スライムしか出なかったよな」
「そうですね、五色のスライムにボスが巨大スライムだったと記憶しています」
「三人で入るのはβテスト以来ね」
「そうだな、俺達ここで知り合ったんだよな」
「ふふ、あの時は驚いたわ」
あのMMORPGはダンジョンへ入るとパーティー別の部屋が割り当てられるので、ダンジョンの中で他人に出くわす事は無い。
しかし部屋には限りがあるようで、βテストのように大量のプレイヤーが押し寄せると、同じ部屋に割り当てられる事が稀にあった。
ここのダンジョンは難易度が低くすぐにクリアできるため、ダブルブッキングの可能性は低かったのだが俺はあの日、無謀にも3レベルでダンジョンに挑んでしまった。しかもポーション無しで。
強化された装備も無い状態では一匹倒すのも一苦労で、一匹倒しては体力を自然回復させての繰り返しをしていた。
そんなペースでやっていたから、かなりの時間が経過していたようで、後からセーラと洋介が同じ部屋に転送されてきて、俺達は出会った。
「ポーションも持たずにダンジョンへ挑むカイト殿は、大物になると僕はすぐに確信しましたよ」
「初めてのMMOだったから良く分からなかっただけだよ。二人に出会えたおかげで俺は無事にダンジョンを出られたんだ」
二人に助けてもらいながらクリアしたダンジョンがあまりにも楽しくて、その後すぐに友達申請して毎日二人と遊ぶようになったんだよな。
思い返せば初対面の時から二人は仲が良かった。
示し合わせたように同じ色の髪の毛と似たような色の瞳を見た時点で、俺は気が付くべきだったのかもしれない。
「……それにしても、あの頃から同じ色の髪にするような仲だったんだな」
なんで俺、自分の傷口をえぐるような事を言ってしまうんだろう……。
だが、二人の関係が気になって仕方がない。
「これは、偶然同じになってしまったのよ」
「そうなんですよ。ですが僕は、姉上ならこの色を選ぶだろうなと思って選びましたけどね」
「そうなの?洋介は昔から私の真似をするのが好きよね」
「そりゃ僕はシスコンですから」
「ふふ、それなら私だってブラコンだわ」
別に今は俺達しか居ないんだから、わざわざ姉弟設定なんか使う必要ないのにな……。
なんだか、こうやって会話している二人を見ると、本当の姉弟に見えてくるから不思議だ。
本当は恋人同士なのに、寝不足のせいで頭がおかしくなっているのかもしれない。




