19 ゲーム内では気づけなかったリアル
そんなことを考えていると、セーラはマジックポーチを抱えながら俺を見た。
「カイトの部屋が一番大きいから、ベッドを並べられると思って」
「あ、うん。俺も広すぎるなーって思ってたから、ちょうど良かったよ」
――やっぱり、そうですよねー!
まぁ、そこまで期待はしていなかったから、気軽に誘ったんだけどな。
セーラはポーチからベッドを取り出すと、俺のベッドから少し離れた場所へ設置した。
――別にそんな離さなくても、くっつけて設置していいんですよ。
と思っていると、次にあのクローゼットをデデンと三つ取り出して並べた。
――それを設置するなら、別に同じ部屋にいる必要なくない?
っと思うのは、俺だけか?まぁ、セーラが一緒にいたいならいいんだけどさ。
「これでいいわ。カイトはもう寝るのかしら?」
「そうだな、特にすることもないし……」
「わかったわ。おやすみなさいカイト」
「あぁ、おやすみセーラ」
灯りを再び消した後、ベッドに入ろうとしたところ。
「あのね、カイト……」
「ん?」
「今日は、不機嫌な態度をとってしまってごめんなさい」
セーラちゃんを出した時のことを言っているのだろう。あれは、むしろ俺が悪いと思うが。
「いや……、ゲーム内ではともかく現実で自分そっくりな子に、あの服着せていたら気分悪くするよな。気が回らなくて俺のほうこそごめん」
「……そうではないの。私が不機嫌になっていたのは……その、カイトがセーラちゃんを見て……嬉しそうだったから……、とにかくごめんなさいっ」
「……はい?」
俺が理解をする前に、セーラは自分のスペースへと引っ込んでしまったようだ。
俺がセーラちゃんを見て嬉しそうだったから不機嫌になったということは、つまりヤキモチを焼いていたのか?
――え……どうして?
それではまるで、セーラが俺の事を好きみたいに聞こえるんだが?
いやいや、それはないだろう。
もっとよく考えろ、俺。
そもそも俺は、セーラちゃんを見て嬉しそうにしていたのか?
確かにあのメイド服には大いに衝撃を受けたが、嬉しかったと言われれば……嬉しかった!
必死に隠したつもりだったのに、セーラにばれていたなんて恥ずかしすぎる!
あれがセーラだったら尚良かったのにとか思っていたとは、とても言えない!
なんかもう、わけがわからなくなってきたが、とりあえずもう眠れる気がしない!
恥ずかしすぎて眠れないぞ!
結局俺は、一睡も出来ないまま朝を迎えてしまった。
ベッドの上で上半身を起こしぼーっとしていると、セーラが自分のスペースから出てきた。
「おはよう、カイト」
「……おはよう、セーラ。よく眠れたか?」
「えぇ、カイトはまだ眠そうね?」
「そうだなぁ……まだ眠いかも」
っというか、まだ寝てません。
「ふふ、朝食は私が作るからそれまで寝ているといいわ」
「何から何まで悪いな……」
「いいのよ。私、洋介を起こしてくるわね」
「……洋介を?」
「洋介ったら私が起こさなければ起きないのよね。困った甘えん坊さんだわ」
「……へ?」
俺の眠気が一気に吹っ飛んだと同時に、セーラは部屋から出て行ってしまった。
今のはどういう意味なんだ、毎朝起こしているように聞こえたが。
いやいや、その前に毎日起こすということは、一緒に住んでいたと思うべきだろう。
――実は姉弟だった?
それは無いよな、洋介は地方出身だし、セーラは俺と同じ街に住んでいた。
となると、残りは一つ……二人は付き合っているのか……。
二人がそんな関係だったなんて、全く気が付かなかったな。
いつからだったのだろう……。
俺とセーラがゲーム内で結婚した時も、洋介は祝福してくれたし、今回も夫婦設定を考えたのは洋介なのに、わけがわからない。
とにかく、俺の儚い恋は終わったようだ……。
まぁ、いいさ。どうせ叶うなんて思っていなかったし。
ヘタレモブにはお似合いの結果だ。
俺、泣いてもいいですかね!




