01 新規レアアイテム
「ここが最終ボスの部屋みたいですね。どうします、このまま突っ込みますか?僕の補助スキルはあと三分ほどありますが」
ダンジョンの最奥前、弓を持ったイケメン公爵(っという設定)の洋介は、わざわざ神妙な顔を作りながら俺たちに問いかける。
中二な黒いコートに槍を携えた俺も、それに釣られて神妙な顔を作った。
「俺も同じくらいだ。セーラは?……って、君はオート機能があるから問題無いか」
たれうさ耳カチューシャにメイド服姿のセーラは、流れを無視してウインクをする。
「私はいつでも大丈夫よ。最初は私も戦っていいかしら?カイト」
「ああ、頼む。それじゃ今回のイベントも俺たちが勝たせていただきますか」
「お宝は何かしら、楽しみ~」
「またあのギルドから小言を受けそうですね」
「放っておけ。行くぞ!」
「は~い」
「はーい」
何とも気合の入らない返事を受けながらも俺達が部屋へ飛び込むと、ボスの名前が画面いっぱいに表示される。
―― フライングダークオーガ ――
「いや……マジで、意味が分からない」
「わぁ~……ダークオーガが飛んでるよ……」
「運営の迷走ぶりが伺えますね……」
正式サービスが始まってから十五年間続いているこのMMORPGは、新規プレイヤーがめっきり減ってしまっただけでなく、既存プレイヤーも全盛期に比べると半分以下に減ってしまい運営はかなり焦っているようで、最近ではイベントのたびに訳の分からないボスを投入してくる始末だ。
ちなみに、オーガも五種類くらい色がある。
「でも、闇属性だから私ラッキー」
「今回はセーラ嬢に華を持たせて差し上げようではありませんか」
「そうだな、俺達は援護に徹するよ」
「援護も必要ない気がするけれど、いざという時はお願いね。それではいきま~す」
セーラはこのゲーム内に一つしかない限定レアアイテムの杖を握り直すと、呪文を唱えた。
「ホーリーランサー!」
杖からは無数の光の槍が出現し、放射線状に飛び出していく。
ランクが低いと一定方向にしか光の槍を飛ばせないが、SSランクである彼女はどこから放っても三百六十度全方位に槍が放出されるえげつない代物になっている。
フライングダークオーガはホーリーランサーの直撃を受け、あっけなく倒されてしまった。
「もう少し、手ごたえのある敵にしてくれると嬉しいんだけどなぁ……」
「俺達に合わせると、他に倒せる人がいなくなるからなぁ……それこそほかのギルドから苦情が来るよ」
このゲームにおいて、SSランクの冒険者は俺達三人しかいない。
この三人はβテストの時からの腐れ縁で、俺がギルドマスターを務めるギルドに所属している。
一時期は百人を超える大規模ギルドだったが、誰でもSランクに到達できる時代になった頃には、次々と辞めていくようになった。
理由はさまざまで、飽きてしまったり進学や就職でプレイする時間がなくなってしまったり、他のゲームに移ったりと。結局、残ったのはこの三人だけだった。
Sランクに到達した後も飽きることなく経験値を稼ぎまくった俺たちは、運営が到達には数年掛かるだろうと満を持して実装したSSランクにあっさりと昇格してしまった。
おかげで今まで競っていたほかのギルドとは、比べ物にならないほどの格差が生まれてしまい俺達は今、チートも同然の状態となっている。
それでも他のギルドとの軋轢を少しでもなくそうと、イベントで得たアイテムは良心的な値段で譲るようにはしている。
フライングダークオーガが消えると、奥の部屋のドアが開いた。
いつものようにそこには大きな宝箱が一つ置いてあり。本来は数十人で倒すことを想定しているのだろう、中にはイベント限定アイテムがぎっしりと詰まっている。
宝箱を開けて、三人でそのアイテムを振り分けていく。
「この杖、ヒーラーのあの子が欲しがっていたのだから譲ってもいいかな?」
「セーラが使わないならいいんじゃないか。こっちの槍はあのギルドの奴が欲しがっていたな。俺はすでに二本持っているから譲るとするか」
「今回は弓が多いですね。一本は僕が頂いて残りは主要ギルドに振り分けますか」
基本的に三人が使う武器はそれぞれ好きにしていい決まりだが、多少の助言程度は口を出しても良い事になっている。
「少しは露店にも出さなければ少数ギルドからも苦情が出るぞ」
「そうでした、では二本は露店に出しましょう。ところで、今回の新規レアアイテムは無いのでしょうか?」
洋介が弓をマジックボックスに入れながら神妙な顔を作る。お前、その顔好きだな。
「確か公式には、今までの常識では考えられない素晴らしいアイテムって書いてあったよね」
セーラはアバターアイテムをとっかえひっかえして遊んでいる。
彼女はアバター集めが趣味なので基本的には彼女に全て渡しているが、そのフライングダークオーガの羽根マント、ちょっとほしい……後で掛け合ってみよう。
「それっぽいアイテムはなさそうだが……待てよ、底の方に見慣れないアイテムが見える」
ポーションをかき分けて、四角い箱のような物を手に取ると画面には『?????』と表示された。
これが新規アイテムだろうか、運営は名前を付け忘れたのか?
二人に話しかけようと、キーボードに手を置いた瞬間――。
ガガガガガガガガガガガガガ。
「何だ?バグか?」
机の横に置いてある自作ハイスペックPCから異音がしたのでそちらに目を向けると、側面がアクリルのPCケースには明らかに異変が起きているのが目で見て取れた。
CPUの辺りから光が溢れだした瞬間、俺は悟った。
――あぁ……、これは死ぬやつ。
どうする余裕もなく、ただ光が視界一杯に広がるのを見守るしかなかった。
それは一瞬の出来事だったため、爆発だったのかどうかさえ分からないまま、俺の意識は途切れてしまった。