18 お部屋拝見
風呂上がりにセーラの手料理を堪能するという至福の時間を過ごした後、セーラは俺たちの部屋を案内してくれた。
部屋の事などすっかり頭から抜けていたが、彼女は各部屋に家具を入れてくれていたようだ。
「カイトはここの主人なので、一番大きな部屋にしてみたのだけれど」
「別に気を使ってくれなくても皆と同じで良かったのに」
「村人の目に触れる機会もあるかもしれませんし、カイト殿には主人らしい待遇で良いと思います」
「そうか?なんか悪いな……。部屋を整えてくれてありがとう、セーラ」
「ふふ、足りない物があったら言ってね」
とりあえず寝起きできるようにしてくれたらしいが、一通りの家具はそろっているし、とてもくつろげる空間になっている。
っというか一人の部屋としては広すぎるのだが……、ここはきっと夫婦の寝室かなんかなんだろうな。
続いてセーラはほかの四人の部屋を案内してくれる。
俺の部屋が建物の真ん中あたりで、左側に洋介の部屋とセバスの部屋、右側がセーラの部屋とエミリーの部屋になっていた。
プライベートを守るため、各部屋の間に空き部屋を挟ませるという、屋敷だから出来る無駄遣いをしている。
「私とエミリーさんまで同じ階でよろしいのでしょうか。三階に使用人部屋がありましたが」
セバスはここでも恐縮している。
二階に領主家族が住み、三階が使用人の住居だったようで、三階は壁紙や装飾が一切ない簡素な作りをしていた。
部屋がこんなに余っているのに、わざわざそこへ二人を住まわせる必要などない。セーラもそう思って二人の部屋を二階に作ったのだろう。
「さっきも言っただろう?俺たちのことは仲間だと思ってくれと。エミリーも必要な場面以外では俺達のこと仲間だと思ってくれよな」
「まぁ!お心遣い感謝いたしますわ。わたくし、セーラ様とはもっと仲良くしたいと思っておりましたの」
「ふふ、私もよエミリーちゃん。またお揃いの服を着たりしましょう」
そういえばセーラは、NPC時代のエミリーの服をとっかえひっかえして遊んでいたよな。
セーラは意外とセーラちゃんを気に入っていたのかもしれない。
「セバスもエミリーを見習って、俺達と仲良くしてくれよな」
「はい、マスターにご迷惑をおかけしないよう、努力したいと存じます」
固いセバスも今のうちだと信じて、見守ることにする。
後は朝まで自由時間ということで、解散することにした。
別に自由時間など決める必要もないが、決めて置かなければセバスが朝まで仕事をしていそうで怖い。
セバスに夜は眠くなったら寝るものだと教えてから、自分の部屋に入った。
俺は、マジックポーチから日常生活に使えそうな物を探したりしながら、寝るまでの時間を潰した。
テレビもネットもない場所だと時間を潰すのも一苦労だ。
いつもなら今頃はゲームで、セーラや洋介と三人でダンジョンに行っていた時間帯だ。
現実で二人とずっと一緒にいられるのも楽しいが、あの生活が無くなってしまったのはちょっと残念に思う。
今日は早めに寝ようと思い、パジャマに着替えてベッドへ潜り込んだ。
明日は何をしようかと考えていると、ドアをノックする音が聞こえて。
「はい」
誰だろうと思いベッドから出てドアを開けると、そこにはパジャマ姿の彼女が立っていた。
「セーラ……、どうした?」
「ごめんなさいカイト、もう寝ていたかしら?」
「いや、暇だからベッドに入っていただけだし、大丈夫だよ」
「そう……あのね、カイト……」
「ん?」
寝る前にわざわざ来たなんて、何か重要な話でもあるのだろうか?と思いながら、セーラの言葉を待つが、彼女は一向に次の言葉を発しない。
言いにくそうに下を向いて、もじもじしている。
その仕草も可愛いからずっと見つめていてもいいんだが、このままでいたら風呂上りであろう彼女が風邪をひきそうなので、何をしに来たのか考える。
そして、ふと初日の事を思い出した。
『私、大部屋がいいわ。一人では心細いし……』
村長の家で、彼女はそう言っていた。
もしかして屋敷が広くて心細いの……か?
「えっと……、一緒に寝るか?」
そう尋ねてみると、彼女は顔を上げ風呂上がりの顔を火照らせながら微笑んだ。
「うん……、ありがとうカイト」
どうやら当たりだったようだ。これで間違っていたら、ヤバイ奴になるところだったので、ほっと息を吐く。
セーラを部屋に入れて、灯りを付けた。
この屋敷には今、ほかに人間が三人いる。
しかも一人は女性だというのに、俺のところへ来たという事実を、俺はどう受け取れば良いのだろうか。




