166 国王の気持ち
「たっ確かに、俺はティファちゃん推しだが一番はその……、セーラだと覚えておいてもらいたい……」
「うん……、私もカイトが一番よ」
「おっおう……、嬉しいよ」
はにかむように微笑んでセーラは、やはり可愛い。ケモ耳も良いが、この笑顔にはかなわない。
セーラが大鍋で雑煮を作り始めると、匂いに誘われたのかテントで仮眠をしていた部下たちが外へ出てきた。彼らは夜勤組のようだ。
「お頭ー、なに作ってんの?」「王女が料理をしている!俺も食いたい!」「なんで王族が勢ぞろいしてんだ……」
「起こしたようでわるいな。セーラが餅入りスープを作ってくれているんだ。お前らの分もあるぞ」
俺は餅を網で焼きながら、部下たちに大人しく待っているよう指示をした。
セーラが作っているのは雑煮だが、そう言っても通じないだろうから餅入りスープと呼んでいる。
雑煮は各家庭で味が違うだろうが、セーラが作ってくれているのは醤油味の雑煮だ。
醤油はもちろんゲーム内アイテムだが、この世界にもマイナーだが存在しているようだ。フェルナンドが読んだことのある世界の食材という本に書いてあったらしい。
だしは、セーラがゲーム内で作ったものを使っている。東の大河で釣れる海藻と魚のモンスターを鍋に投入すれば完成するだしだ。
ちなみに大河は文字通り川だが、海の食材をひと通り釣ることができる。
野営地と化したうちの庭で、雑煮を求めて並ぶ部下たち。
その横では国王一家が豪華な家具を広げて、くつろぎながら雑煮を食べている。
同席させられているディデリクさん一家はとても居心地が悪そうだが、いずれはアメリーヌさんが洋介の元へ嫁ぐので、こればかりは慣れるしかなさそうだ。
「セシリアが、こんなにも料理上手になって帰ってくるとは……。可愛い子には旅をさせよとは、まさにこのことだな。王城の料理長よりも美味いぞ、セシリア」
「ふふ、お父様ったらおおげさよ」
国王は親バカなのでなんでもセーラが一番なんだろうが、実際のところセーラは料理がSランクなので料理長より美味いのは確かだ。
「リアムはこの一年弱で、セシリアとフェルナンドにさまざまなことを教えてくれたようだな。二人とも見違えるような成長ぶりだ」
セシリアは駆け落ちをする前に料理などをがんばって覚えていたようだが、所詮は王族が習う料理。追っ手から逃げながら限りある道具と食材で料理をするのは難しかったようだ。
その程度のレベルだったセシリアが、こうして野営地で見たこともない料理を振る舞うのは、王族にとっては驚きの光景だろう。
「俺はやり方を教えただけです。二人はとても努力をしていましたよ」
初めはリアムに頼るしかなかったセシリアとフェルナンドだったが、リアムから狩り以外にも日常生活に必要なさまざまなことを教わり、二人で火をおこし煮炊きをできるまでに成長していた。
もし本物の二人が帰ってきたとしても、国王は同じように二人を褒めただろう。
「そうか。これからも二人をよろしく頼む、リアムよ」
「はい。三人で助け合いながら暮らしたいと思います」
実際の俺は二人に助けられてばかりだ。頼りないリーダーだが、団結力には自信がある。
これから俺とセーラは結婚し、洋介も新たな人生に向かって歩んでいくのだろうが、この三人の団結力はこのさきも揺らぐことはないだろうと思っている。
このあと、ここがすっかり気に入ってしまった国王は、午後のお茶会もここで開催しろと言い始め、騎士たちが慌てて王城へ連絡を入れにいった。
急遽、野営地というむさくるしい場所に馬車で連れてこられた貴族令嬢やご婦人たちだったが、国王がくつろいでいるので表向きはとても喜んでいた。
申し訳なく思ったセーラはポーチの中身をフル活用し、なんとか女性陣を満足させることはできたようだ。
俺はというと、国王の酒につきあわされディデリクさんと三人で夕方まで飲み続けたが、夜会もここで開催したいと言われる前になんとか追い出すことには成功した。
「はぁ……、やっと帰ったな。国王はあんなに厚かましいキャラだったか?」
「確かに今日の父上は厚かましかったですが、カイト殿が提案したイベントに参加することで、支持していることを見せたかったのかもしれませんね。それに父上が連れてきた護衛は、上位貴族の息子ばかりでした。元冒険者騎士の現状も見せたかったのではないでしょうか?」
「なるほど。部下たちは好んでここに居座っているだけだが、騎士団本部に居場所がないのも確かだしな」
これも、騎士団長が言っていた意識改革のひとつなのかもしれない。
この野営地を見せたところで貴族生まれの騎士たちの心が動くとは思えないが、少なくとも国王が騎士団の現状を把握しているのは伝わっただろうし、俺たちの側についてくれたのも伝わっただろう。
これからランクの底上げするにあたり不満も出てくるだろうから、少しでもその軽減に繋がるのならありがたい。
俺たちが王都へ連れてこられて三ヶ月。
騎士や貴族としての生活にもすっかり慣れた俺は、いつものようにセーラの護衛を終えて屋敷に帰り、自分の部屋のベッドに入っていた。
さきほどからずっと時計を見つめていた俺は、針が十二時を指し日付が変ったことを確認した。
「あああー!ついにこの日が来てしまった!どうしよう、全く眠れない!睡眠不足で、明日死んでしまう!!」
俺が絶望に打ちひしがれていると、部屋のドアが勢いよく開いた。
「もー!リアムくんさっきから、うるさいよ!私たちまで眠れないじゃない!!」
「アーリ……、俺はどうしたらいいんだ……。最悪なコンディションで朝を迎えたら、セーラに会わせる顔がない……」
「三十分ごとに同じことで騒がないでよ。明日が楽しみじゃないわけ?」
「楽しみに決まっている。だからこそ失敗できないんだよ……。あああ!俺はどうしたらいいんだ!!」
「もう、付き合ってられないよ。私、外で寝るからね。叫んだって、もう来てあげないから」
アーリは俺を見捨てると、部屋を出ていってしまった。
入れ替わるように、トム爺がドアから顔を覗かせる。
「トム爺……、人生の先輩として俺にアドバイスをくれ!」
「悪いな、リアム坊。もうアドバイスは尽きてしまった。俺も外で寝るからな……ゆっくり叫ぶといい」
そう言って、トム爺も出ていってしまった。
俺の家族、冷たすぎないか?
はぁ……、どうしよう。今日はいよいよ、結婚式だ。
緊張しすぎて、眠れない。




