163 約束と報告
午後のセーラは、一週間続くお茶会の初戦だ。
セーラが第二妃に相談をしたところ、俺たちが考えた案は採用されたどころか、一週間いろいろなテーマのお茶会を開くことになったらしい。
いつも楽しそうにお茶会に参加している女性たちだが、心の中では誰もが飽き飽きしていたようだ。
今日は正妃主催で、テーマはお気に入りの服を見せ合う会だそうだ。
セーラはそのまま振袖で参加したので、とても注目を集めていた。
王城にきて初めて、セーラはお茶会をストレスなく終えることができたようだ。
続いて、夜は新年を祝う夜会だ。これも一週間続くそうだ。
王族が貴族からの新年の挨拶を受け終えると、俺たちはディデリクさんの元へ向かった。
今日のディデリクさんは、奥さんと長男も連れてきている。もちろんアメリーヌさんも一緒だ。
「改めまして、うちの妻と長男を紹介させてください」
奥さんは事前情報通りとてもスレンダーな女性だが、アメリーヌさんの母親なだけありとても美人だ。
長男も爽やかな青年という印象を受ける。いずれは彼が男爵を継ぐのだろうから、今から人脈作りのために連れてきたようだ。
「ディデリクさんも、一週間参加されるんですか?」
「はい。まだ男爵になったばかりですから皆様にご挨拶もせねばなりませんので、一週間滞在する予定です」
「貴族との付き合いも大変でしょう。俺も力になりたいですが、残念ながら俺自身が貴族との付き合いが苦手なんですよね」
「リアム様のお噂はかねがね」とディデリクさんは苦笑する。
準男爵だったディデリクさんにまでリアムの言動を知られていたとは、有名人すぎて恥ずかしい。
「幸い洋介様からいろいろなアドバイスをいただきましたので、なんとか貴族の皆様ともうまくやっていけそうです」
ディデリクさんは王子という強い味方を手に入れて、安心している様子だ。
洋介は完全にディデリク家を手中に収めたらしい。
気がつけば、さっさとアメリーヌさんを連れてどこかへ消えているし。
相変わらず手際の良いやつだ。
ディデリクさんとの話を終えると、ディデリクさんの奥さんと一緒に飲み物を取りにいっていたセーラが戻ってきた。
「カ~イトぉ~!これ、とっても美味しいわよぉ~」
ずいぶんと陽気な声で、セーラは持ってきた飲み物を俺に渡してくれる。赤いジュースのようだ。
「ありがとうセーラ」
一口飲んでみると、イチゴのような甘みのあるジュースだ。確かに美味い。
だが、同時にアルコールの味が口に広がった。
「セーラさん……、もしかしてコレ飲んじゃいました?」
「ふふ。美味しいから、二杯も飲んでしまったわ~」
そう言いながら、セーラは俺に抱きついた。
「はぁ~……、油断していた……」
俺は頭を抱えた。
まさかセーラがカクテルに手を出すとは……。いや、彼女自身もきっとジュースだと思って飲んだのだろう。
また、ヒールをさせるのに苦労しそうだ。
だが改めて考えると、酔ったセーラは俺に対する独占欲が強くなるだけなんだよな。
婚約者となった今なら、さほど困りはしないんじゃないか?
「カイトぉ~?頭痛いのぉ?」
「ん?いや、大丈夫だ。ほかにも飲みたいカクテルがあるなら、試してみようか?」
「うん!あそこに、いろんな色の飲み物があるのよ~」
「セーラは一口だけな。残りは俺が飲むから」
セーラは飲むこと自体は好きだと言っていたので、今年は酒も酌み交わせるカップルになってみようと思う。
しかしそのあと、セーラが俺とキスしたいと言い出して俺は困り果てるのだった。
酔うと大胆発言が出ることを、すっかり忘れていた。
明日のセーラが心配だ……。
そして翌日。
セーラは酔っても記憶が残っている。
俺が心配した通り、彼女は慌てふためていていた。
「かっ……カイト、昨日はその……ごめんなさい。約束までしてしまって……その……」
セーラは耳まで真っ赤だ。
公衆の面前でキスしたいと言い出したのだから、今すぐ穴にでも潜りたい気分だろう。
「だっ……大丈夫だ。約束は守るから!」
「うん……」
俺は昨日、困り果てた結果、セーラとある約束をした。
「約束ってなんですか?なにか将来を誓い合うお約束でも?」
当然のようにセーラの部屋にいる洋介は、今日はアメリーヌさんを連れている。
「なっ、なんでもないよ。なぁ、セーラ」
「えぇ……洋介には関係ないわ」
セーラに関係ないと言われた洋介は、わざとらしく悲しむように頭をアメリーヌさんの肩に乗せた。
アメリーヌさんが硬直しているが、大丈夫だろうか。
「僕は重大な報告をお二人にしようと思ったのに、ひどいですよ」
「重大ってなんだ?」
「私も聞いていないわ」
セーラと顔を見合わせていると、洋介は注目しろと言わんばかりに咳ばらいをした。
そちらに視線を戻すと、洋介はアメリーヌさんの肩を抱いた。
「聞いて驚いてください!僕たち、婚約することになりました!」
突然の発表に俺とセーラは、一瞬だけ固まった。
「おっ……おおぅ!おめでとう洋介、アメリーヌさん!」
「……驚いたわ。おめでとう二人とも!洋介で本当に良いの?アメリーヌちゃん」
セーラに呼ばれて、硬直していたアメリーヌさんは意識を取り戻した。
「はっはい!私は一目惚れでしたから、本当に嬉しいです。ふつつか者ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。セーラ……お姉様」
「ふふ、私も妹ができて嬉しいわ。これからもよろしくね」
なんでも報告し合っているイメージのセーラと洋介だが、これは完全に洋介のサプライズだったようだ。
セーラは驚きつつも嬉しそうに微笑んでいる。
話を詳しく聞きたいからと、セーラはアメリーヌさんを連れて隣にある侍女の部屋へと行ってしまった。
女子だけの話は、さぞ盛り上がることだろう。
「めでたいが、ずいぶんと急だったな」
洋介が着々と準備を整えていたのは気がついていたが、友達以上にはなれないんじゃなかったのか?
そんな俺の疑問を見透かしたように、洋介は答えた。
「僕には僕の事情があるんです。それをお話しして受け入れてくれた彼女と、僕は添い遂げる決心をしました」
「事情ってなんだよ?」
「それは、秘密です」
「お前も肝心なところで秘密主義だな」
「はは。よく言われます」
照れ笑いをしているが、別に褒めてはいないぞ。




