160 大晦日
今日は騎士の仕事は休みだが、プライベートでセーラの部屋へ遊びに行くと約束をしている。
どうせ休みの日も一日中セーラといるんだから休みはいらないと言ったのだが、騎士団長が律義に休みを設定してくれている。
セーラの部屋へ行き、セーラと洋介に部下との会話を話したあと、騎士団本部へと向かった。
ちなみに洋介は冬休みに入ったらしい。勉強から開放されて、実に晴れやかな顔をしている。
騎士団本部は、王城に併設されている。
本部には各隊の部屋などもあるが、俺の隊の部屋はない。
俺の隊はほかよりも人数が多いので、ちょうど良い大きさの部屋がないというのが表向きの理由らしいが、要は元冒険者に部屋などくれてやりたくないのだろう。
部下たちはうちの庭で楽しそうに野営をしているし、エミジャ村に転移ゲートができればエミジャ村が本拠地になる予定なので、いまさら部屋を要求するつもりもないが。
「それで、急ぎの用事とは?」
応接室へ通された俺たち三人は、騎士団長と向かい合わせに座った。
「実は短時間で楽に経験値を稼げるモンスターがいるんです。もし良ければ騎士団全員で狩りたいなと思いまして」
「短時間で楽に?そんなモンスターがいるなんて聞いたことがないぞ」
「正月になると転移ゲート付近に現れるんですが、ご存じありませんか?」
「それなら毎年、平民からモンスターの目撃情報としてあがってくる。俺も気になって調査したことがあるが、攻撃しても動く気配はないし倒す前に消えてしまった。あんなのが本当に楽に経験値を稼げるモンスターなのか?」
「間違いありません」
そう言いながら洋介に視線を向けると、洋介は持っていた本を広げてテーブルに置いた。
これはフェルナンドが読んだことのある本で、洋介がモンスターに関する記述を思い出したので、ここへ来る前に書庫から探して持ってきたものだ。
「僕は誰も読まないような古い本を読むのが趣味なのですが、騎士団長も見たというモンスターはこちらで間違いありませんか?」
「はい、この絵の通りの姿をしておりました。フェルナンド殿下」
俺と洋介は視線を合わせた。
どうやら転移ゲートに出没するモンスターと、俺たちが思っているイベントモンスターは同一のもので間違いないようだ。
「この本にも書いてあるように、昔は経験値が稼げるモンスターとして人気だったようです」
洋介はモンスターに関する記述を指さした。
本には『このモンスターを求め、国中の冒険者が各地の転移ゲートへ集結した。三日間の戦いの末、ある者はEランクからCランクへと昇格した』と書かれている。
このイベントモンスターは王都以外にも各転移ゲートに出現する仕様になっているが、この世界でも同じようだ。
記述を読んだ騎士団長は、難しい顔で腕を組んだ。
「しかしなぜ、人気の高いモンスターが忘れ去られてしまったのでしょう」
「このモンスターは大人数で倒す必要があるんです。年に一度のことですから忘れられがちではあると思いますが僕の予想だと、人数の集まらない地方から廃れていき、その存在を知らない冒険者が増えてきた。さらに騎士団で冒険者を召集するようになり、それが加速したのだと思います」
ゲーム内でも、昔は各町の転移ゲートにプレイヤーがあふれかえっていたので、ラグの少ない場所を探すのに奔走していたが、完全に過疎化した近年では王都に集まるのが恒例となっていた。
「ですが、殿下。地方が廃れるのは理解できますが、王都には騎士団に元冒険者が大勢おります。彼らが集まれば倒せるのでは……」
騎士団長はそこまで言いかけると、顔色を変えて俺に視線を向けた。
どうやら、正月に俺の隊がフル稼働していることを思い出したようだ。
「……そうか。俺たちが冒険者の文化を奪ってしまったんだな。これだけではない、リアムが提案したダンジョンへの遠征もそうだ。騎士団は戦力を確保するために、自ら冒険者のランク上げを邪魔するような行為ばかりしていたんだ……」
冒険者は日々モンスターと戦ってこそ、輝く存在だ。
この国では定期的に強敵に襲われるので、確実に戦力を確保したかった事情はわかるが、冒険者がただの騎士に成り下がってしまっては意味がない。
「今まですまなかった、リアム。俺たちは国の大切な戦力を蔑ろにしすぎていた。これからは意識改革に努めるので、どうかこれからも国に手を貸してくれないだろうか」
「それは俺の部下に言ってくれないか」
今まで苦労したのは俺じゃなくて、部下たちだ。冷遇されながらも腐らずに今までやってきた彼らに必要な言葉だろう。
「あぁ。リアムの部下にも必ず伝えよう」
後日、騎士団長は本当に部下へ謝罪したようだ。
その際、部下からいろいろと注文をつけられて、対応に苦労しているようだ。
さすがはリアムの部下たちだ、謝罪の言葉だけで済まさないところがとても彼ららしい。
注文の内容は、かなりどうでもよいものも多かったが。
「ただのわがままは、切り捨てて良いですよ」
「あぁ。だが、彼らの願いはなるべく叶えるつもりだ」
騎士団長は真面目な性格のようなので、実は苦労人なのかもしれない。
話を終えた騎士団長は、王城内を見回るために大広間から出ていった。
今日は大晦日。
王城の大広間では、新年のカウントダウンをおこなうための夜会が開かれている。
大広間には貴族が大勢集まり、俺の部下たちもはしゃいでいるのが見える。
騎士団長の意識改革の第一歩として、今日の王城の警備は貴族生まれの騎士がおこなっており、俺の部下は全員休みだ。
例年、貴族生まれの騎士は大晦日から休暇に入っていたようなので相当の不満が出たようだが、騎士団長はイベントモンスターを餌に黙らせた。
年末年始の勤務をサボった者は、次回のイベントモンスターには参加させないとう決まりを作ったので、とりあえず貴族生まれの騎士たちは大人しく大晦日の警備をしているようだ。
夜も深まりそろそろ日付が変るころ。
大広間には、大きな時計が運び込まれた。
新年を迎えると同時に、皆で挨拶を叫ぶようだ。
十秒前から、声に出してカウントダウンが始まった。
日本ではいつもゲーム内で新年を迎えていたので、カウントダウンイベントに参加したことがない俺は、少し高揚感を覚えていた。
リアルでは、セーラと初めて迎える新年。
手を繋いでそれを迎えられるなんて、めちゃくちゃ幸せじゃないか。
二人で顔を見合わせながら、そのときを待った。
「……三、二、一。あけましておめでとう!」
と叫んだのは俺だけだ。
ほかの全員、セーラと洋介までもが「ハッピーニューイヤー!」と叫んだ。
――どうして、そこだけ欧米なんだよ!!
俺の新年は、恥から始まった。
誤字報告ありがとうございます!




