159 年末
「せっセーラさん、急に……どうしました?」
最近は常に人目があるので、セーラとスキンシップを取るなんて久しぶりだ。
すっかりの元の俺に戻ってしまい焦っていると、セーラは俺に抱きついたまま静かに話し始めた。
「この国の貴族男性は、妻を三人まで娶れるわ」
「うん……」
「良い妻を多く娶ることで、貴族社会では信用度が上がり一目置かれるようになるの」
「そうなのか……」
日本なら二人の女性を愛したら信用が地に落ちるが、文化が違えば人の評価も変わるものだ。
「だから正妻は、こころよくほかの妻を受け入れなければならないわ。……私にもその心構えが必要かしら」
セーラもそろそろお茶会での令嬢たちの振る舞いについて、限界に来ているようだ。
俺はその都度しっかりと断りを入れているが、セーラに直接俺の考えを伝えたことはなかったな。
もしかして、良い相手が現れたら俺は受け入れるかもしれないと、セーラは不安だったのかもしれない。
「ごめんセーラ、俺の言葉が足りなかった。俺はどんな相手が現れようと、セーラ以外に妻を娶るつもりはないよ」
この世界では一夫多妻制は普通なんだろうが、日本人としての常識が染みついているセーラには到底受け入れられないだろう。
俺はセーラの信頼を失ってまで、ほかの妻を娶るつもりはない。
「……本当?」
「あぁ!たとえ王命だとしても蹴ってみせるよ。それに俺はリアムだからな、信用度とか世間体なんてそもそも必要ないだろう」
そういいながら振り返ると、セーラはいつものようにふふっと笑った。
「ありがとうカイト、とても安心したわ。カイトがあまりにも人気なので、ヤキモチを焼いてしまったの……ごめんなさい」
セーラは俺の正面に移動すると、再び俺に抱きつきなおした。
セーラが俺に甘えている。めちゃくちゃ可愛いぞ……。
「俺が人気なのは、俺自身というよりはステータスに惹かれているだけだろう。あまり気にしないでくれよ」
「えぇ。……けれど、泣き出してしまったご令嬢は、純粋にカイトを慕っていたわ」
「それも、英雄騎士という存在に夢を見ているだけじゃないのか?」
「そうなのかしら……。私はカイトが大好きだから、ほかの人も同じように思っているのではないかと不安になってしまうわ」
「その気持ちは、とてもよくわかるよ。俺もセーラの魅力が、ほかのやつに知られなければ良いと思っている」
今のところ、そういう場面を経験していないが、それは単にセーラがこの世界の男性と親しくなる機会がなかっただけだと思っている。
俺が危機を感じたのは、レオくんだけだ。
幸いなことに俺はセーラの護衛でもあるので、そんな場面で遭遇しようものならレオくんと同じように全力で阻止するつもりだ。
このあと、洋介を迎えに行くのをすっかり忘れていた俺とセーラは、慌てて夜の庭へと飛び出した。
年末のある日。
この世界にも新年の区切りはあり、日本の文化が妙に入り混じっているので正月と呼ばれている。
最近は王城内も慌ただしく動いている人が多い。
どこの世界でも師走は忙しいようだ。
「正月か、この世界ではどんなすごし方をするんだ?リアムは食事がいつもより豪華なだけで、ほかはあまり普段と変わらなかったようだが」
正月は貴族生まれの騎士が休暇を取りたがるので、元冒険者の騎士たちがフル稼働することが多かったようだ。
今日の洋介は宿題がないのか、のんびりお茶を飲んでいる。
「平民の暮らしはわかりませんが、王城では一週間パーティー三昧のようです」
「ちょうど正月イベントの日数と同じか」
「その期間、女性は毎日お茶会があるみたいよ……」
セーラは憂鬱そうだ。
普段からお茶会後は疲れ気味のセーラだが、それが一週間続くとなると大丈夫だろうか。
「あまり無理はしないほうが良いと思うぞ。っといっても王女が欠席するわけにもいかないしな。セーラのストレスにならないような方法は、なにかないだろうか……」
「話題がカイト殿の妻枠になってしまうのが、問題なんですよね?」
「そうなの。ほかの話題を振ってもすぐに元に戻ってしまうのよね……」
「なるほどな。いっそのこと話題を事前に決めてしまうのはどうだ?〇〇について語る会みたいな」
「掲示板のタイトル見たいですが、良いと思います。一週間も続くんですから少し趣向の違うお茶会も喜ばれるかもしれませんよ」
「そうね、とても良い案だと思うわ!お母様に話してみて許可がもらえたら、私が主催の日にそうしてみようかしら」
王城でおこなわれるお茶会は、王妃と王女が順番に主催を務めるらしい。
これで少しでもセーラのストレスが軽減されると良いが。
「ところで、正月イベントおなじみのアレは出ないのだろうか?」
「どうなんでしょう?フェルナンドは知らないようですが」
「セシリアも知らないみたいよ」
「王族は知らないかもな。リアムや部下は、正月は仕事三昧だったから参加していた様子はないな」
リアムならモンスターに関してはしっかりと覚えているはずだ。
その彼が覚えていないとなると、この世界にはないのだろうか。
翌日。
俺は、朝からうちの庭で焼き肉をしている部下たちの元へ向かった。
「あっ、お頭も食うか?」
「あぁ、少しもらおうかな。ところで、教えてほしいことがあるんだが」
「なんすか?お頭に教えられることなんてあったかな?」
「ばーか!お頭の記憶力なめんなよ!興味がないものの切り捨て方は半端ないんだぞ!」
部下にもそういう認識をされていたとは……。他人事ながら、少し恥ずかしい。
「正月に転移ゲート付近に白いものが現れると聞いたんだが、知っているか?」
「あの巨大な塊のことっすか?」
「正月に一瞬だけ出現するあれだろう?」
「私も聞いたことあるよ。モンスターなのに倒せないんだってー」
どうやら存在自体は知られているようだが、どういうモンスターかまでは知らないようだ。
あれはかなりの人数が必要なので、昔は倒していたのかもしれないが冒険者不足の今は誰かが声掛けでもしなければ無理だろう。
「お頭、それがどうかしたんっすか?」
不思議そうに俺を見つめる部下たちに、ニヤリと笑って見せた。
「新年初めの獲物はそれだ」




