15 厨房
セーラちゃん改めエミリーは長かった髪の毛を、バッサリとショートカットにして戻ってきた。
「マスター、ショートカットは似合っていますか?」
「あぁ、似合っているよ。けど、そんなに短くして良かったのか?」
「わたくし、ショートカットに憧れておりましたの。長い髪の毛は同じ顔のセーラ様で楽しませていただきますので、両方を堪能出来るなんてお得ですわ」
セーラで楽しむとは?と思いながら、後から入ってきたセーラに視線を向けてみれば、彼女も髪型が変わっていた。
しかも、まさかのツインテール。
――なんだこれ、めちゃくちゃ可愛いんだが!?
「エミリーちゃんが結んでくれたの。作業するのに邪魔だったから……その、変……かしら?」
「いや、とても似合っているよ。ゲーム内では髪を結んだりできなかったしな、すごく新鮮だよ」
ツインテールは落ち着いたセーラのイメージではなかったから尚更、新鮮だし照れた表情が可愛い。
「ありがとう、カイト。中身の年齢を考えると、とても恥ずかしいのだけど……」
「俺たちはもうあの体に戻ることはないんだし、中身の年齢なんて考える必要ないんじゃないか?」
「そうかしら……、そう言ってくれると嬉しいわ」
セーラは安堵したように微笑みながら、ツインテールを眺めている。
そもそも俺達はリアルで会った事がないんだから、恥ずかしがる必要もないよな。
転生すると分かっていれば、一度くらい勇気を出してセーラに会っておけば良かったと、今更ながら後悔してしまう。
リアルの彼女はどんな感じだったのだろうか。話し方と同じで落ち着いた雰囲気だったのかな。
そういえばゲーム内ではもっと砕けた話し方だったが、今のほうが彼女の素みたいだ。
洋介も慌てて飛び起きた時に『俺』って言っていたし、二人ともキャラに合わせた話し方をしていたようだな。
掃除も終わり、いよいよ家具の搬入だ。
まずは食事を作れるようにキッチンから始める。
厨房は領主の屋敷なだけありかなりの広さはあるが、使用人が使う場所なため屋敷内にしては殺風景な場所だ。
落ち着いたら、薄暗い雰囲気の壁をどうにかしないと気が滅入りそうだ。
備え付けられているのは暖炉と流し台だけで、後はきれいさっぱり撤去されている。
セーラはマジックポーチの中身を眺めながら、悩んでいるようだ。
「どのキッチンにしようかしら、何種類かあるので迷ってしまうわ」
「皆で調理するなら真ん中に作業台があると便利そうだな」
「コンロも多いほうが便利だと思います」
俺と洋介が意見を述べると、セーラはこてりと首を傾げた。ツインテ効果でますます可愛い。
「ところで、ガスとか水道って使えるのかしら?」
「そういえば……」
「全く頭から抜けていましたね」
「水道は水を外から引っ張ってくれば、蛇口から出すことは出来るんじゃないか?」
「問題は火ですね、ガスなんて通っていないですし。セーラ姉上、薪を使うハウジングアイテムはありますか?」
「ピザ窯とバーベキューコンロならあるわ。後はそこに備え付けられれている暖炉かしら」
暖炉=暖房と思っていたが、元の住人はそれを使って調理をしていたのかもしれない。冬はいいが、夏は暑そうだな。
「とりあえずはそこの暖炉を使っておくか。洋介、薪の確保を頼めるか?」
「おまかせください、薪割はリアルでもしたことがありますのでお手の物ですよ」
洋介は街灯のない田舎に住んでいたようだが、薪割までしていたなんて自給自足でもしていたのか?
「部屋の真ん中に作業台を設置するわね」
セーラは部屋の雰囲気に合わせたようでアンティーク風な作業台を設置した。真ん中に流し台がついているもので、アイランドキッチンという名称だった気がする。四方向に扉もついていて収納力もありそうだ。
「この流し台から水が出せたら便利だよな」
設置された流し台の蛇口を何の気なしにひねってみる。
ここに水を出すには配管はどのように、と思いながら床から屋外へ視線を伸ばしていると。
「カイト……、お水が出ているわ」
「はい?」
言われて蛇口に目を向けると、綺麗な水が流れているではありませんか!
「なんだこれ!?どーゆー事だ?」
「分からないわ……、きゃ!カイト、止めて!床に漏れているわ!」
「うわ!」
慌てて蛇口を閉めるが、結構な量の水が床に漏れてしまった。
「布で吸い取るしかないわね」
セーラは一度作業台をポーチにしまうと、布とバケツを取り出して水を吸い取り絞って、の繰り返しをして床を綺麗にしてくれた。
「ありがとう、セーラ助かったよ」
「ふふ、このくらいお安い御用よ。それにしても何故、水道からお水が出たのかしら」
「ご都合主義と言ってしまえばそれまでだが……。魔法がある世界だし、不思議な力が働いているのかもな。もしかしてコンロも使えるんじゃないか?」
セーラはポーチからコンロを取り出す。
恐る恐るといった様子でスイッチを押すと、ボッっと火が付いた。
「おー!原理は理解不能だが便利すぎるな」
「これなら、とても便利に暮らせそうで嬉しいわ」
「あぁ、ほかに何か使えそうな物は無いか?」
「そうね……」
セーラはポーチの中を眺めてから、ハッとしたように俺を見上げた。
「カイト……私ね、露天岩風呂なんてものを持ち合わせているのだけれど……」
「露天風呂……だと?」




