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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第一章 エミジャ村の夏

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14 セーラとメイド

 思い出した時にはすでに手を放してしまった後で、メイドはポーチから出てくると軽やかに着地した。


 黒いミニスカートのメイド服に、たれうさ耳カチューシャ。髪の毛は薄い紫で長く垂れ下がり、瞳はアメジストのように輝いている。


 上品に微笑んだ彼女は、手を前で組むと胸の谷間が強調される。


 ――ほんと、勘弁してください。


「お久しぶりです、マスター。お会いできるのを楽しみにしておりました」

「や……やぁ、久しぶりだね、セーラちゃん……」


 それが彼女の名で、ちゃん(・・・)までが正式名だ。


 セーラがこのメイド服を着たがらなかった理由が今ならよくわかる。


 リアルの破壊力に思わず視線を逸らすと、ミシンの手を休めてこちらを観察していたらしい、セーラと目があった。


 ――もう死にたい。


「あ、あのぅ……セーラさん、ほかの服を貸していただけないでしょうか……?」


 恐る恐るそう尋ねてみると、セーラはマジックポーチから、ロング丈のクラシックなメイド服とメイドがよく付けているヘッドドレスとやらを取り出し、ジト目でそれを俺に差し出した。


 その表情も可愛いけど、今はやめてほしい……。


 それを別室で着替えるようセーラちゃんに渡して、何とか直視できる服装になった。


 セーラちゃんは俺が悪ノリしてセーラそっくにり作ったメイドのNPCだ。

 だが発案者である俺だけが悪いわけではなく、当時ギルドにいた男性陣の総意として作られたものだ。

 決して俺だけの暴走ではないし、作る前にセーラの了解は得ているという事実は把握しておいてもらいたい。


「マスター、新しいメイド服は似合っていますか?」

「うん、とても似合っているよ、セーラちゃん」


 ――そーゆー事言わせないでくれ……セーラの視線が痛いから!


 セーラにコスプレさせているようで、罪悪感がひしひしと沸いてくるが、これはセーラが選んだ服だから俺は悪くないぞ。


 見た目はもうどうしようもないが、名前は早急に何とかしなければ!


「ゴホン……、事情を説明する前に、セーラちゃんの名前を改名してもいいかな?セーラとセーラちゃんではややこしいだろう?」

「はい、マスターが付けてくださる名前でしたら、どのようなものでも嬉しいです」

「そうか……」


 どんな名が良いだろうかと思いながらセーラに視線を向けてみるが、もう興味をなくしたのか彼女は雑巾作りに戻っていた。


 ……っというか、口を尖らせているように見えるんだが、拗ねているのか?セーラちゃんの服装に関して怒るのは分かるが、何で拗ねるんだ?


 そう思っていると、洋介がほうきを抱えて戻ってきた。


 彼はセーラとセーラちゃんを見比べ、セーラちゃんに向けて口を開いた。


「おや、セーラちゃんではありませんか、随分と露出度が下がりましたね」


 ――ちょっとは空気読もうね?セーラさんがまたジト目になってますよ。


「洋介くん、それセクハラだからやめようね。それより、よくこっちがセーラちゃんだって分かったな」

「そりゃ、セーラちゃんのほうが胸がっ」


 直球すぎるだろ!


 危険な発言をしようとしている洋介の口を慌てて手で塞ぐ。


 そう……、セーラちゃんはセーラそっくりに作ったはずなんだが、どういうわけか胸がセーラより大きくなってしまったんだ。実に不思議だ。


 さっさと話題を変えて、洋介に良い名前の案はないかと尋ねてみたところ、『エミリー』が良いと提案してくれた。理由は『何となく』らしい。


 セーラちゃん改めエミリーに事情を説明すると、彼女はセバスよりは吞み込みがよかった。

 彼女は談話室に設置されていたから、プレイヤーの会話を見聞きして覚えたのだろうか?


「そんなわけで、エミリーもこれからは好きなように生きられるが、これからの希望はあるか?」

「わたくしはメイドの仕事に誇りを持っておりますので、今まで通り皆様のお世話をさせていただきたいです」

「分かった、セバスにも伝えたがこれからは給料と休暇も出すから、好きな事を探すといい」

「まぁ、うれしいですわ。お金をためて、素敵なお洋服を買いたいと思います」


 やはり女の子はそういうのが好きなようだ。目標を持ってくれるのはいい事だと思う。

 エミリーは「それから……」とセーラに視線を向けた。


「わたくし、髪の毛を短くしても良いでしょうか?」

「エミリーがそうしたいなら、かまわないが……」


 セーラに気を使っているのだろうか?


「ありがとうございます。セーラ様、お手数ですがそちらが終わりましたら、わたくしの髪の毛を切っていただけないでしょうか?」

「えぇ、いいわよ。もう終わったので、これから切りましょうか?」

「是非、お願いいたします!」


 エミリーは嬉しそうにセーラの元へ駆け寄った。

 二人並ぶと本当にそっくりで双子のよう……というか、セーラが二人いるようだ。


 セーラの腕に絡みついたエミリーは、何やら耳元でささやいているが、それを聞いたセーラは顔を真っ赤にさせた。


「では行ってまいります、マスター」

「あぁ……」


 エミリーは意気揚々とセーラの腕を引いて部屋から出て行った。

 なんだったんだろう、今のは。とても気になる。

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