13 引っ越し作業
「まずは、お掃除しましょう。手入れされているとはいえ、家具を置く前に綺麗にしておきたいわ」
「それなら、サポートキャラを使ってみましょうか。この世界でも動けば、かなり楽になると思います」
「そういえば、執事とメイドも俺のポーチに入っているんだが。あれって人型だけど、使えるのかな」
サポートキャラとは小人やぬいぐるみのような見た目をしていて、生産スキルの補助をしてくれるキャラだ。課金アイテムでしょっちゅう新しいタイプのサポートキャラが出るので、三人とも数体は持っている。
執事とメイドはギルドの本拠地にいたNPCだが、課金アイテムとして買ったものだからか、俺のポーチに入っていた。
セーラはサポートキャラ――略してサポキャをポーチから取り出した。
ぽてっと床に降り立ったうさぎのぬいぐるみは、二足歩行でセーラの周りをうろうろし始めた。
「動くようだな」
「お掃除してくれるかしら?」
続いてセーラはほうきを取り出すと、そういいながらうさぎのサポキャにほうきを渡してみた。サポキャは頷きながらほうきを受け取ると、その辺を掃除し始める。
「おお、成功ですね」
「これならお掃除がはかどりそうね」
セーラはポーチの中からサポキャを追加で、一体、二体……五体、十体……。
「えっと……セーラさん、どれだけ持ってるんですか?」
「ふふ、可愛いから全種類もっているわ。ガチャだから被りが何体もあるのよね」
「さすがはコレクターですね、セーラ嬢」
俺と洋介のも合わせると、計五十数体のサポキャが部屋を埋め尽くした。さすがにこれだけいるとちょっと怖い。
「お掃除道具が足りないわね。雑巾は私が作れるけれど、ほうきは洋介作ってくれる?」
「お任せくださいセーラ姉上、ちょっとその辺の木で作ってきます」
ちゃっかりセーラを姉と呼んだ洋介は、ほうきを作るため外へ出て行った。
彼は木工系スキルが得意なので、すぐに作ってくれるだろう。
セーラはミシンを取り出すと、東屋の着替えの時に使ったであろう布で雑巾を作り始めた。
俺はその間に、執事とメイドを試してみることにした。
まず執事を取り出すと、人型の……っというかほぼ人にしか見えないイケメン執事が目の前に現れた。
金髪にアクアマリン色の瞳をした彼は、当時いたギルドメンバーの女性陣からの要望で王子っぽい見た目にしてある。
「再びお目にかかれて光栄です、マスター」
「そういえばしばらく本拠地へ帰っていなかったな。元気だったか?」
「はい、マスターとセーラ様洋介様のお帰りを、指折り数える日々でございました」
「そんなに待ちわびていたのか……たまにしか帰ってなくてごめんな。ところでセバスは、この世界では人間……なのか?」
セバスとは彼の愛称だ。執事と言えばセバスチャンだよなーっと軽いノリで付けた名だ。
彼は自らの体を見回すと、不思議そうにこちらを見た。
「どうやらそのようですが、私はNPCではなくなったのですか?」
「そうみたいだな、俺達も今はゲームのプレイヤーではないんだ」
ここまでの経緯を話して聞かせるが、現実世界を知らない彼にはいまいち理解できないようだ。
「まぁ、これからは自分の意志で好きなように行動できると思えばいいと思う」
「ではこれまで以上に、皆様のお世話ができるということですね」
「いや……そうじゃないんだ。セバスはもう無理して俺たちに仕える必要はない。ほかの人間と同じく好きなように生きていいんだ」
命令を聞くだけの存在ならこのまま屋敷の執事にしようかと思ったが、人間とわかってしまえば話は別だ。
俺たちの都合で勝手に彼を縛り付けては、奴隷と同じになってしまう。
彼に選択の自由を与えてみたつもりだったが、セバスは困ったように黙り込んでしまった。
「何かしてみたいことはないか?今まで仕えてくれた分、それなりの援助はするつもりだ」
「……私は執事として生み出された命です。それ以外の生き方などわかりません」
村長や村人もゲーム内ではNPCだが、この世界では自分の意志で生活している。彼らと何が違うのだろう?
「わからないと言うなら、わかるまでここで働いてくれるか?これからは給料を出すし休暇も作る。自由な時間で自分の好きな事を探すといいよ」
「ありがとうございます、マスター。これからも誠心誠意お仕えしたいと存じます」
彼は心底安堵したように微笑むと早速仕事を与えてほしいというので、掃除をしているサポキャの陣頭指揮をとってもらうことにした。
次にメイドだ。
どうせならセバスと一緒に説明すれば良かったと今更、思いながらマジックポーチから取り出した瞬間、思い出す。
――まずい、やばい、これは失敗した!




