131 ラクレットオーブン作製
翌日。朝食を食べ終えた後、俺たちはそれぞれの作業に取りかかった。
目指すは昼食。
俺の作成時間で皆の昼食時間が決まるので、あまりのんびり作っている暇はない。
どんな仕組みにするかは、昨日のうちに洋介とも相談して決めてある。
簡単そうなのは細長い箱を作ってその中に炭を入れる方法だが、室内での使用を想定しているのでそれだと火の粉が飛んで危ないし、こまめな換気も必要になる。
そこで考えたのが、魔石の使用だ。
ゲーム内では装備強化に使われていたが、この世界ではそのほかにも使われているようだ。
リアムの記憶によると、火属性の魔石を使えば家電のような調理器具が作れるらしい。
原理は単純で、熱い物に火属性の魔石を近づければ、魔石が反応して熱くなる。
装備や魔道具に魔石を使う場合は制御するための小細工が必要になるが、俺が作ろうとしているのは、シンプルに魔石の性質を利用したものだ。
魔石を取り付けるとなるとラクレットオーブンの値段が上がってしまうが、これは飲食店や富裕層向けに売る予定なので、多少値段が上がっても売れないということはないだろう。
鍛冶場で作業をしていると、言われた通りにジョギングを始めたらしいエミリーが通りかかった。
「ナッシュさんも一緒なんですね」
「はい!エミリーさんがわざわざ誘いに来てくれたんです!今日が休みでラッキーでしたよ!」
ナッシュさんとセバスは一週間の休暇中だ。
セバスにはナイフ作製をお願いしているが、これは彼の趣味みたいなものなので問題ない。
俺がお土産にあげた作業服を着て、楽しそうにナイフを作っている。
ナイフはとりあえず百本ほど作ってもらうことにした。
全て売り切るには何年もかかりそうだが、これは彼の趣味なので少なく頼むほうがむしろ悲しませてしまう。
屋敷の周りを何周かしているうちに、だんだんとエミリーとナッシュさんの距離は離れているようだ。
「はぁはぁはぁはぁ……エミリーさんって、見かけによらずタフなんですね……」
「そうなんですよ。あまり無理せず、できる範囲で付き合ってやってください」
ナッシュさんの言う通り、エミリーは全く速度を変えずに、疲れた様子もなく走り続けている。
元NPCなので、もしかしたら全てのステータス数値がMAXなのかもしれない。
だがこの予想を確認するつもりはない。
確認してしまうと、俺たちの存在意義がなくなってしまいそうで恐ろしい。
「もっ……もう、だめだぁ……」
すでに二人でジョギングというレベルではなく、自分との闘いのようになっていたナッシュさんは、とうとう鍛冶場の前で倒れ込んだ。
俺は作業の手を休めて、ナッシュさんに水を差し入れた。
「ふぅ……生き返った……。ありがとう、カイト様」
「お疲れ様です。あとはエミリーの走る姿を見学する程度で良いと思いますよ」
「そうだなぁ……。いやいや、せっかく誘ってくれたんだから、少し休憩したらまた走りますよ!ところでさっきから気になっていたんですけど、なにを作っているんですか?」
「これは……、後のお楽しみです。エミリーに付き合ってくれたお礼に、楽しい昼食を提供しますよ」
昼食の時間を少し過ぎてしまったが、なんとかラクレットオーブンは完成した。
オーブンを持って庭に行くと、すでにテーブルなどが準備されていた。
「遅くなってごめんな。やっとできあがったよ」
「僕たちも今準備が終わったところですよ。オーブンは上手くいきましたか?」
「あぁ!なかなかの自信作だ」
「それは楽しみです。こちらのテーブルに載せてください」
洋介が示したのは、長いテーブルだ。
「これは洋介が作ったのか?」
「はい、作業スペースもあったほうが良いかと思いまして、この形になりました」
「洋介らしい考えだな」
会議用テーブルのような見た目だが、立って作業しやすいような高さに設計されていて、完全に実演販売を想定した作りだ。
――準備が良すぎるぞ、洋介。
男性陣にオーブンの仕組みを解説していると、セーラとエミリーが屋敷から出てきた。
食材の準備ができたと言いながらこちらへ来たセーラは、オーブンを見て驚いた表情を見せた。
「これをカイトが一人で作ったの?すごいわ!」
「そっ……そうか?皆そろったし、使ってみようか」
洋介がポーチから取り出した半月状のチーズを受け取り、湾曲した受け部分に乗せる。そこには太い針を数ヶ所つけてあり、チーズを傾けても落ちないようにしてある。
次に、細長い箱に焼石を何個か入れる。
これはすでに洋介たちが七輪で火を起こして準備をしてくれていたので、すでに焼けている石を入れるだけだ。
この焼石の熱が箱の底に付いている魔石に伝わり、熱が発せられる。
箱はオーブン本体に付いているレバーで上下に移動可能で、チーズの大きさに合わせて高さを調節できる。
「これがどうなるんですか?」
状況が読めていないであろうナッシュさんは、不思議そうに装置を見つめている。
「徐々にチーズが変化していきますので見ていてください」
箱の熱でチーズは徐々に溶けていき、美味そうな焼き色がついてきた。
「なんですかこれ!美味そうですね!」
どうやらこの見た目は、この世界でも通じるようだ。
「カイト殿、そろそろ良いと思います」
焼き加減にこだわりがある洋介の許可が出たので、レバーを動かし箱を上に移動させる。
その間にセーラは、食材を綺麗に盛りつけた皿をポーチから取り出して装置の横に置いた。
フランスパンに茹でたジャガイモとウィンナー、彩り野菜も添えられていて美味そうだ。
セバスから素晴らしい完成度のナイフを受け取り、準備は完了だ。
チーズの受け部分に付いているレバーを移動させるとチーズが傾き、どろっと溶けたチーズが食材の上に流れ出た。
「うお!こんな料理見たことありませんよ!よだれが垂れそうだ……」
先ほどから良い反応ばかりでありがたい。
「こちらは、ナッシュさんに試食をお願いします。エミリー、席へ運んでくれるか?」
「かしこまりました、旦那様。ナッシュさん、こちらへどうぞ」
「え……いいんですか?俺はなにもしてないのに申し訳ないな……」
「俺たちは昨日も試食したんで。あとで感想を聞かせてください」
あとで聞くまでもなく、ナッシュさんは大声で何度も美味いといいながら、完食しておかわりもしてくれた。
これなら、イーサ町でもウケけるじゃないだろうか。
確かな手ごたえを感じながら、俺たちも順番にオーブンを試しながらラクレットを作ることにした。
「はい、どうぞ。うまくできたかしら?」
俺の分はセーラが作ってくれた。
「あぁ!めちゃくちゃ美味そうだよ!俺は幸せ者だ」
「ふふ。おおげさね、カイトったら」
この一皿で、オーブン作製の疲れは吹き飛ぶというものだ。




