126 ディデリクさん親子との別れ
翌朝、一番に目覚めた俺。
アルバートくんの片腕と片足が俺の体に乗っていて、子供の暖かさを感じながら隣に視線を向けると、セーラとリリアーヌちゃんは抱き合って眠っていた。
昏睡状態だった頃とは違って気持ちよさそうに眠っているセーラは、あまりじっくりとは見ていられないほど可愛い。
「んぅ……」
俺が動いてしまったせいだろうか、セーラも目を覚ましたようで重そうなまぶたを少し開けた。
自分の体にまとわりついているリリアーヌちゃんを見つけると、小さく微笑んで頭をなでてから視線をこちらに移動させた。
「あ……、おはようセーラ」
「おはようカイト……。あのっ……、見ていたの?」
未だに寝顔を見られるのは恥ずかしいようだ。
「親子みたいだなと思ってさ」
「リリアーヌちゃんとても可愛いわ」
セーラがもうひとなですると、リリアーヌちゃんも目を覚ました。
「ごめんなさい、起こしちゃったかしら」
「ふわぁ~……いつもはもう、おこされるじかんだわ」
そういいながらもまだ眠いのか、セーラに顔をすりよせる。
「ふふ、くすぐったいわ」
「あー!リリだけずるい、ぼくもぼくも」
いつの間にか起きていたらしい、アルベールくんもセーラめがけてダイブした。
「ふたりのお母様は毎日大変ね」
「おかあさまは、こんなにおっぱいおおきくないわ」
「ちちうえが、うちはひんにゅうのかけいだって、いっていたよ」
「えっ……。わたしも、おおきくなれないの?」
「そういうことだ、ざんねんだったな」
「そんな……。きょにゅうで、たまのこしにのる、やぼうが……」
朝からなんという会話をしているんだ、この双子は。
セーラの顔が真っ赤になってしまっているではないか。
彼女へ助け舟を出すために、俺は朝風呂を提案した。
皆で温泉に向かうと、男湯には先客がいた。
「おはようございます。ディデリクさんも起きていたんですね」
「いやぁ~、すっかり気に入ってしまいまして。寝起きに入るのも気持ちが良いものですな」
「温泉に来たら、三度入るのが良いらしいですよ」
「ほう。次回お邪魔することがあれば、ぜひそうさせてください」
この様子だと、確実に次回もありそうだな。
ディデリクさんなら何度でも大歓迎だ。
「次はご家族皆さんで来てください。歓迎しますよ」
これから冬に向かうので、ディデリクさんとはしばらく会えそうにない。
別れを惜しむようにいろいろと話してしまったので、少し長風呂になってしまった。
朝食を終えると、慌ただしく出発の時刻となった。
「あっという間でしたな。やはりエミジャ村は遠いと実感しましたよ」
「今度はゆっくりできる時に何泊かしていってください」
「ぜひそうさせていただきます」
イーサ町はまだまだ復興の途中なので、ディデリクさんがゆっくりできるのはまだ先になりそうだ。
セーラはポーチから紙袋を取り出して双子に渡した。
「クッキーを焼いてみたの。馬車の中で食べてね」
「ありがとうございます、セーラあねうえ!」
「たのしみだわ!ゆうしょくのデザートもおいしかったもの!」
あれは昨日の午前中に、セーラが作っていたスライム型のクッキーだ。
当初は双子へのお土産に渡してもらおうと作っていたようだが、思いがけず直接渡せたようだ。
俺からは巨大スライムの皮をカットしたものを、ディデリクさんにどっさりと渡しておいた。
双子が馬車に乗り込むと、ディデリクさんはアメリーヌさんに視線を向けた。
「アメリーヌ、黙っていないで洋介様にご挨拶して馬車に乗りなさい」
洋介の隣でずっと無言だったアメリーヌさんは、木彫りのクマを抱きしめて父親を見た。
「私……、まだ帰りたく……ありません……」
「馬鹿を言うな。学校をそんなに休めるわけないだろう」
「でも……うぅ……」
ついには泣き出してしまったアメリーヌさん。
よほど洋介といるのが楽しかったようだ。
そんな彼女を見かねてか、洋介はハンカチを取り出して彼女に差し出した。
今だけは本当の王子に見えるぞ、洋介。
「泣かないでください、アメリーヌ嬢。貴女は笑っていたほうが可愛いですよ」
「かっ、かわっ……」
洋介のクサいセリフに、彼女は泣きながらも照れまくっている。
「今度は学校の長期休暇に会いましょう。その時は、貴女の好きな動物を探しに出かけませんか?」
「はい……、ぜひ……!」
見た目は十六歳でも中身はおっさん。
同年代とは比べものにならないほど、洋介からは大人の余裕が出ているんだろうな。
こうしてアメリーヌさんが慕っているのは、そういうのもあるんじゃないだろうか。
アメリーヌさんは涙を止めるように目を閉じ、再び目を開いた時にはいつもの調子に戻ったようだ。
さすがは令嬢。つまずいた時と同様、気持ちの立て直しが早い。
「お見苦しい姿をお見せして、申し訳ありませんでした。皆様、この度はとても楽しく過ごさせていただき、ありがとうございました。洋介様、またお手紙を書きますわ。次にお会いできる日を楽しみにしております」
ディデリクさんはやれやれといった様子で娘が馬車に乗り込むのを見届けると、俺たちに視線を向けた。
「それでは皆様、これから寒くなりますがお元気で!」
俺たちもそれぞれ別れの挨拶を告げると、馬車は動き出した。
「帰ってしまうと、なんだか寂しいわね」
「そうだな、賑やかでたのしかったよ」
「春になったらまた会えますよ。それよりこれから忙しくなりますよ。北国の冬はあっという間にやってきますから」




